4 事件解決
そこで、愛冠岬周辺に立て看板を立てたり、新聞等で、市民に情報提供を呼び掛けてみた。
すると、有力な情報が寄せられた。というのは、沢口勝則の死亡推定時刻と思われる頃、愛冠岬から愛冠岬の駐車場の方に向かって、妙な光景を眼にしたと証言した人物が現れたからだ。その人物は、帯広からの旅行者の岡元春樹(45)という男性であった。岡元は、
「僕はその頃、愛冠岬で妙な人物を眼にしたのですよ」
と、いかにも神妙な表情を浮かべては言った。
「妙な人物? それ、どういったものですかね?」
小河はいかにも興味有りげな表情を浮かべては言った。
「若い男性が、若い女性を何だか引きずるような恰好で愛冠岬の駐車場に向かっていたのですよ」
と、岡元はいかにも神妙な表情を浮かべては言った。そんな岡元は、正に自らの証言が愛冠岬の事件を解決に至らせるのではないかと、事の重大さを十分に認識してるかのようであった。
そう岡元に言われると、小河の表情は俄然輝いた。というのは、その女性が柿沢奈緒であり、その男性が沢口と柿沢を殺した犯人である可能性が高いと思ったからだ。
それ故、小河の眼が俄然輝いたのだが、そんな小河の表情は、忽ち曇った。何故なら、何故岡元が愛冠岬で倒れてる筈の沢口を発見しなかったのかということだ。
それで、その疑問を小河は岡元にぶつけてみた。
すると、岡元は、
「愛冠岬にまで行くには、まだしばらく歩かなければならないので、諦めたのですよ。それ以外としても、辺りに霧が立ちこめ、何となく一人で愛冠岬にまで行くには不安で、熊が出て来たら、大変なことになってしまいますからね」
と言っては、首を竦めた。
「では、その女性は、生きていると思っていましたかね?」
「さあ、その辺は何とも言えなかったですね。さっと通り過ぎただけですから」
「では、その女性を引き摺るようにして歩いていた男性は、その女性と愛冠岬で他殺体で発見された男性を殺した犯人だと思いますかね?」
と、小河は岡元の顔をまじまじと見やっては言った。
すると、岡元は、
「その可能性はあると思いますね」
と、いかにも真剣な表情を浮かべては言った。
「では、その時、愛冠岬の駐車場に車は停まっていましたかね?」
「停まっていましたよ」
「それは、どんな車でしたかね?」
「シルバーのフィットですね。間違いありませんよ」
「では、この三人の中で、その女性を引き摺るようにして歩いていた男性に似ていた男性はいますかね?」
そう言っては、小河は、秋山と上田と外山の写真と三人の身体付きを説明した。
すると、岡元は、
「はっきりとは言えませんが、似てるとすれば、この人物ですね」
そう言った岡元が、指差したのは、何と秋山の写真だったのだ。
これは、意外だった。秋山、上田、外山、この三人の中で最も可能性が小さいと思っていた秋山が、何と最も犯人らしいのだ。
しかし、秋山は車を所有していない。
となると、レンタカーを借りたというのか?
それで、改めて、釧路周辺のレンタカー業者で秋山がその日、シルバーのフィットを借りていなかったのかの捜査が行なわれた。
しかし、程なく借りていなかったことが明らかとなった。
これは、困った。それが証明されれば、犯人は秋山で決まりみたいなものだが、実際はそうはならなかったのだ。
しかし、改めて、その日の秋山の行動に対して、秋山から話を聴いた。
しかし、秋山はその頃、家で寝ていたを繰り返すばかりであった。
さて、困った。事件は解決するのだろうか?
しかし、その後、有力な情報を入手することが出来た。
というのは、何と沢口と岡元が、知人関係にあったというのだ。これは、正に無視出来ない事実だ。
それで、岡元は釧路署の取調室で、小河たちから話を聴かれることになった。
すると、岡元は、
「単なる偶然のことですよ」
と、憮然とした表情で言った。
「何が偶然なんだ?」
「ですから、僕が愛冠岬で女性を引き摺るようにして歩いていた男性を眼にしたことや、その頃、愛冠岬で沢口さんの死体が発見されたことですよ」
と、岡元はいかにも決まり悪そうに言った。
しかし、そんな言い分が通用する筈はないだろう。
それで、更に岡元を追求すると、どうやら真相と思われるものを徐々に話し始めた。
岡元は、
「僕は沢口君が憎く、また、羨ましかったのですよ」
と、いかにも決まり悪そうに言った。
「それは、どういうことかな?」
「女の子にもてたからです。僕は醜男であったことが災いしてか、女の子にてんで相手にされず、振られてばかり。挙句の果てに『あんたみたいな禄でも無い男に彼女なんて出来ないわよ!』と嘲笑されたこともあります。そんな女には、唾を引っ掛けてやったこともありました。幸、事件にはなりませんでしたが、そういったこともあり、僕は仲睦ましいカップルが憎くて、また、羨ましくもあったのです。
そんな折に、高校時代の同級生であった沢口が彼女を作っては、偶然に釧路の街を闊歩してるのを眼にしてしまったのですよ。
それで、五年振りに沢口の家に電話してみては彼女のことを訊いてみたところ、『お前みたいな醜男には彼女は出来ないだろう』とせせら笑われました」
そんな沢口に逆上した僕は、沢口の車に密かにGPS車位置追跡装置をマグネットで貼り付けては、沢口の行動を密かにチェックしてました。
そして、その日、霧多布の方に向かったのを確認したのです。
これは、チャンスだと思いました。霧多布湿原はかなり人気が少ない場所でしたからね。
そして、二人で霧多布方面に向かったのを密かに尾けては、愛冠岬で鈍器で沢口の後頭部を強打し、殺しました。
後は、沢口の女の後頭部を強打しては意識を奪い、霧多布湿原にまで僕の車で運んで行っては、そこで首を絞め、殺したというわけですよ」
と、岡元はいかにも力強い口調で言った。更に、
「沢口の車を愛冠岬から少し離れた所まで運んで行ったのは、無論、僕です。そうすることによって、事件を難解なものにしようと目論んだのです。また、男が女を引き摺るようにして歩いていたというのは、僕と柿沢さんのことですよ」
と、岡元は淡々とした口調で語った。
「では、何故そのようなことを敢えて警察に話したのかな?」
と、小河は些か納得が出来ないように言った。
「だって、誰かを犯人にしないと、事件は解決しないじゃないですか。僕は早く、架空の犯人をこしらえ、事件を終結させたかったのですよ」
と、岡元はいかにも決まり悪そうに言ったのだった。
〈終わり〉
この作品はフィクションで、実在する人物、団体等とは一切関係ありません。また、風景や構造物等が実際とは少し異なってることをご了解ください。