エピローグ

 川は相変わらず、清流を湛えては、心地良い音を立て、絶え間なく流れていた。
 さて、雄一郎の山登りの成果は、どうであったか。
 雄一郎は右に進むか、左に進むかを見極める為に、今回、敢えて山登りを行なったのだ。
 だが、当初では予想してなかった出来事が発生してしまった。
 それは、予想してなかった人たちとの出会いがあったということだ。
 最初はヒッピー風の若者たち。次は、山野という山男風の男。そして、その次は、自殺志願者だという婦人たち。
 この三者を見て感じたことは、当り前の話だが、それぞれアイデンティティを持って生きているということと、また、それぞれ悩みがあるということだった。要するに、人は外見とか少し話しただけでは、その人の本当の姿は分からないということだ。
 また、決して投げ遣りの人生を送るのではなく、懸命に困難にぶち当たれば、それに立ち向かい、困難を乗り切ろうとしているということだ。
 これらのことは、少なからず、雄一郎にインパクトを与えたと言わざるを得ないだろう!
 即ち、今回の山登りによって、雄一郎は進むべき道を見出したのだ!
 要するに、雄一郎は悩むことはないのだ! 雄一郎が進みたい方向に進めばよいのだ! そして、困難が立ちはだかれば、その時は対策を見出せばよいのだ! 
 即ち、右に進むか、左に進むか。そのようなことは、深く考えることはない! 雄一郎が進みたい方に進めばよいのだ!
 そう車窓から流れ行く光景を眼にしながら、雄一郎はそう思わざるを得なかった。
 すると、雄一郎は妙に晴々しい気持ちになった。
 すると、その時、バスは右折し、初夏の陽光に照らせれ、煌めいていた川は、雄一郎の視界から消えた。
 すると、その時、雄一郎は、
「ああ、疲れた」
 と、呟き、張り詰めた太股を少し手で摩ったのであった。

     (終わり)

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