6 事件解決

 まず二人の経歴を調べ出し、そして、学校とか仕事関係で接点がないか、捜査してみたのだが、接点は見付からなかった。というのは、二人の年齢は五歳離れていて、学校関係では接点はなく、また、仕事上も特に接点はないようだったからだ。 
 また、二人の知人を見付け出しては話を聴いてみたのだが、やはり、二人の間に接点はありそうもなかった。
それで、その時点で再び又吉真知子から話を聴いてみることにした。
 だが、真知子は既に下地たちが真知子の知人たちから話を聴いたことを知っていて、それに対する不満をまず漏らした。 
 それで、下地は、
「申し訳ありません」
 と、まず詫びの言葉を述べた。そして、
「又吉さんが証言した姉崎の首を絞めた男性が見付かりましてね。それで、訊問を行なったのですが、すると、又吉さんがその男性に恨みがあった為にその男性が犯人であるかのような偽証を行なったのではないかと言うのですよ。それで、念の為に、又吉さんのことを調べてみたのですよ」
 と、いかにも申し訳なさそうに言った。
 すると、真知子は、
「私は偽証などしませんよ!」
 と、怒ったように言った。
「分かってます。でも、捜査というものは慎重にならざるを得ないのですよ」
 と、下地はいかに申し訳わけなさそうに言った。
 すると、真知子は渋面顔を浮かべたものの、下地に対する不満の言葉は真知子の口からは発せられなかった。
 そんな真知子に、その男性が犯人であるという決定的な証拠はないものかと言った。
 すると、真知子は、
「姉崎さんの衣服なんかに、その男性の指紋なんかは付いてないのですかね?」
「指紋ですか。皮のジャンバーなんかを着ていればその可能性はあるかもしれませんが、ポリエステルのシャツとかズボンではねぇ」
 と、下地は決まり悪そうに言った。
「でも、私が眼にしたパッソのナンバーは沖縄では何台もあるとは思えないのですがね」
「確かにおっしゃる通りです。それ故、その男性のことを突き止めたのですが、先程も言ったように、又吉さんがその男性に恨みなんかを持って、罪を擦り付けたと主張するものですから」 
 と、下地は決まり悪そうに言った。
「その男性は、何という男性なんですかね?」
 又吉はいかにも腹立たしそうに言った。
 それで、下地は与那嶺のことを真知子に話した。
 すると、又吉は、
「私、そのような男は知りません」
 と、いかにも不満そうに言った。
「そうですか」
 と言っては、下地は小さく肯いた。そんな下地は、今の真知子の言葉に嘘偽りはないと看做したかのようであった。
 そして、二人の間に少しの間、沈黙の時間が流れたが、やがて、真知子は、
「与那嶺のアリバイを確認したのですかね?」
「確認しました。しかし、はっきりと答えなかったのですよ」
 と、下地は些か決まり悪そうに言った。
「じゃ、アリバイは曖昧と言わざるを得ないですよ。それ故、もっと、その男性を突っ込んで捜査する必要がありますね」
 と、下地は真知子から捜査の稚拙さを指摘されてしまった。
 真知子にそう指摘されなくても、確かに与那嶺に対する捜査はまだまだまだと思われた。それ故、引き続き、与那嶺のアリバイ崩しを行なってみることにした。
 すると、成果があった。姉崎が殺されたと思われる頃、与那嶺のパッソがウッパマビーチを後にした場面を眼にしたという証言者が現れたのだ。その証言者は、近くに住んでいた末吉義則(55)という会社員だった。末吉は、
「僕はその日、休みだったので、ウッパマビーチにまで行ったのですよ。ウッパマビーチに着いたのは、午後四時頃でした。そして、四時十分頃、ウッパマビーチから赤のパッソが走り始めたのを眼にしたのですよ」 
と、いかにも真剣な表情で言った。そんな末吉は、正にその末吉の証言は重要なものであるということを十分認識してるかのようであった。
 そんな下地に、下地は、
「そのパッソのナンバーを覚えていますかね?」 
 と、下地と同じく、いかにも真剣な表情を浮かべた。
 すると、下地は渋面顔を浮かべては、
「そこまでは覚えていません。でも、運転手はちらっと眼にしましたよ。三十位の男性で、眼鏡は掛けてませんでしたね」
「その人物と思われる男性の写真を見て、その男性だと証言出来ますかね?」
「いや。そこまでは……」 
 と、下地は言葉を濁した。
 だが、この末吉の証言によって、与那嶺に対する容疑は一層高まった。
 しかし、逮捕に至るまでは、確証が欲しい。今のままでは、与那嶺を姉崎殺害容疑で逮捕は無理だろう。
 しかし、捜査の執念が実ったのか、あるいは、運が良かったとでも言おうか、与那嶺の犯行を裏付ける決定的な証拠が見付かった。 
 それは、キーホルダーだ。姉崎のポケットにキーホルダーが入っていて、それは、姉崎のものと看做していたのだが、それは何と与那嶺の指紋が付いていたのだ。どうやら、姉崎は殺される寸前に、与那嶺からそのキーホルダーを奪ったのだが、それに、与那嶺は気付いていなかったのかもしれない。
 この決定的な証拠を突きつけられると、与那嶺はもう逃れられないと看做したのか、真相を自供したのだ。与那嶺は、
「その日も、僕は仕事をすることもなく、車でぶらぶらしていました。そして、ウッパマビーチまで来たのですが、すると、その時、女性の悲鳴が聞こえました。それで、駆けつけてみると、女性が男性に抱きつかれてるではないですか。それで、僕はその男の許に行っては、僕のズボンのベルトで絞めてしまったのですよ。 
 ところがあまりにも強く絞めてしまった為かあっさりと死んでしまったというわけですよ」
 と、いかにも決まり悪そうに言ったのだった。因みに、姉崎を沖縄に呼び出したのは、やはり、比嘉正俊であった。やはり、出鱈目を言っては、仕返しをしてやろうと目論み呼び出したのだが、正俊と話をする前に、姉崎はウッパマビーチで与那嶺に殺されてしまったのだ。
 因みに、その一ヵ月後、層雲峡近くの山林で、男性の白骨化した死体が遺棄されてるのが山菜採りの男に発見され、歯型から、比嘉功治であることが明らかとなった。また、姉崎宅に行って度々姉崎と口論していた人物は、前田幸平という学生時代の知人であったことも明らかとなったのだった。

   <終わり>

この作品はフィクションで、実在する人物、団体とは一切関係ありません。また、風景や構造物等が実際とは多少異なってることをご了解ください。
 

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