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だが、その後、その捜査を進展させる証拠を入手するに至った。というのは、件のミニバイクから、信也の指紋が検出されたのだ。
これは正に事件解決に繋がる有力な証拠となる可能性は極めて高いというものだ。何しろ、常識的に見て、信也が中田のミニバイクに触れることはまず有り得ないからだ。
それで、この時点で、中垣は大道から話を聴かせてもらうことにした。
大道宅に姿を見せた中垣を見て、大道は眉を顰めた。そんな大道は、正に嫌な奴がやって来たと言わんばかりであった。
そんな大道に中垣は、
「やはり、中田さんを殺した人物に、心当りありませんかね?」
と、中田の顔をまじまじと見やっては言った。
すると、中田は、
「ないですね」
と、素っ気無く言った。
「そうですか。で、信也君と隆也君は、元気にしてますかね?」
そう中垣が言うと、大道は些か表情を綻ばせては、
「元気にしてますよ」
「信也君と隆也君は、メリーちゃんをとても可愛がっていたとか」
「そうですね」
「では、メリーちゃんが死んで、さぞショックだったでしょう」
「そうだったですね」
「では、信也君と隆也君は、さぞ中田さんのことが憎かったでしょう」
「いや。そうでもないと思いますよ。何しろ、まだ小学校三年と二年ですからね。ですから、他人を憎いと思う程の感情がないのではないですかね。それに、中田さんがメリーちゃんを殺したと決まったわけではないですからね」
と、大道は眉を顰めては言った。
「ということは、信也君も隆也君も、中田さんに対して苦情を言ったりはしなかったのですかね」
「そりゃ、そういったことはまるでなかったですね」
と、中田は淡々とした口調で言った。
「そうですか。では、信也君と隆也君は、日頃、中田さんと話をしたりしたことはなかったのですかね?」
「そのようなことはなかったですね。中田さんは、この辺りでは嫌われ者で、また、犬嫌いだけではなく、子供も嫌いでしたからね。ですから、僕たちは皆、中田さんと話をしては駄目だよと、子供たちに言い聞かせていたのですよ。ですから、信也と隆也が、中田さんと話したりしたことはなかったと思いますよ」
と、中田は眉を顰めては、淡々とした口調で言った。
「じゃ、信也君も隆也君も、中田さんのミニバイクに触れたことはないですよね?」
と、大道はさりげなく言った。
すると、大道の言葉は詰まった。そんな大道は、正に思わぬ質問を浴びせられ、いかに返答すればよいか、迷ってるかのようであった。
そして、大道はなかなか言葉を発そうとしなかったので、
「どうしたのですかね? そんなにむずかしい問いではないと思うのですがね」
と、中垣は淡々とした口調で言った。
すると、大道は、
「ないと思いますがね」
と、些か自信無げな表情と口調で言った。
そんな大道に中垣は、
「ないと思いますとは、どういうことですかね?」
と、些か納得が出来ないように言った。
すると、大道は、
「いくら小学三年と二年だからといって、その行動を何もかも把握してるわけではないですからね」
と、些か決まり悪そうに言った。
「そうですか。で、実は妙なことが明らかになりましてね。実は、中田さんの修理に出されたミニバイクに、何と信也君の指紋が付いていたのですよ」
と言っては、中垣は小さく肯いた。
すると、大道は呆気に取られたような表情を浮かべては、言葉を詰まらせた。そんな大道は、正に思ってもみなかった言葉を聞かされたと言わんばかりであった。
だが、程なく、
「それ、何かの間違いではないですかね?」
と、怪訝そうな表情を浮かべては言った。
「いいえ。間違いではありませんよ」
と、中垣は大道に言い聞かせるかのように言った。
すると、大道は少しの間、言葉を詰まらせたが、やがて、
「ですから、先程も言ったように、小学三年といえども、その行動を全て把握してるわけではありませんからね」
と、決まり悪そうな表情で言った。
そんな大道に、
「ということは、信也君が中田さんのミニバイクを修理に出されたことに何か関係してるのでしょうかね?」
と、中垣は眉を顰めては言った。
「そんなことはないと思うのですがね」
「でも、何故中田さんのミニバイクが、大道さんの義兄の白河さんによって修理に出されたのでしょうかね?」
と、中垣はいかにも納得が出来ないように言った。
「さあ、分からないですね」
と、大道はいかにも決まり悪そうに言った。
すると、若手の寺島明刑事(29)が、
「いい加減に何もかも真相を話したらどうなんだ」
と、曖昧な返答を繰り返す大道に業を煮やしたのか、声を荒げて言った。
すると、大道はむっとした表情を浮かべては、
「僕は何も隠してはいませんよ」
と、寺島刑事に抗うように言った。
そんな大道に、中垣は、
「中田さんのミニバイクが何故修理に出されなければならなかったのかということですよ。それは、中田さんの死に関係してると疑わざるを得ないですね。もしミニバイクが中田さんの死に関係してなければ、一々修理に出す必要はないですからね。それに、中田さんのバイクが中田さんが死んでから修理に出されたのは妙だと言わざるを得ないですからね」
と言っては、中垣はにやっとした。そして、
「で、修理に出だすということは、修理に出さなければ、そのミニバイクは中田さんの死を明らかにしてしまうというわけですよ。
そして、修理に出したのは、何と大道さんの義兄の白河さんで、白河さんはインターネットでその仕事を知り、請け負ったというのですよ。しかし、これは妙ですよ。そうではないですかね?」
と、いかにも納得出来ないように言った。そして、そんな中垣の話は、更に続いた。
「で、これらのことから、中田さんの死には、中田さんのミニバイクが関係し、しかも、中田さんのミニバイクから信也君の指紋が検出されたことから、中田さんの死に信也君が何らの関わりがあったと看做さざるを得ないのですよ。違いますかね?」
と言っては、中垣は大道を睨み付けた。そんな中垣は、警察の捜査はもうここまで進んでるから、嘘をついても無駄だよと、大道を諭してるかのようであった。
すると、大道は、
「それは、刑事さんの誤った推理ですよ。僕や信也は、中田さんの事件には、何ら関わりはありませんよ。そのように疑われたんじゃ、正に迷惑というものですよ」
と、正に中垣たちの推理は話にならないと言わんばかりに言った。
「じゃ、何故中田さんのミニバイクに、信也君の指紋が付いていたのですかね?」
と、中垣はいかにも納得が出来ないように言った。だが、大道は知らぬ存ぜぬの一点張りであった。
「でも、大道さんは白河さんに中田さんのミニバイクを修理に出してくれるように頼み、そして、中田さんのミニバイクを鹿児島の白河さんの許に持って行ったのですよね?」
「そんなことしませんよ。誰かがインターネットでその仕事を依頼したのですよ。そして、白河さんが請け負ってしまったのですよ。もっとも、その依頼人が誰なのかは分からないですがね」
と、大道は淡々とした口調で言った。
それで、この辺で大道に対する捜査を終え、次に信也の友人に対して聞き込みを行なってみることにした。というのは、えてして子供は巧みに嘘をつくことは出来ないから、何か有力な情報を入手出来るかもしれないと思ったからだ。
すると、あっさりと有力な証言を入手することが出来た。その証言をしたのは、信也の友人の江川慎吾という男の子であった。慎吾は、制服姿の中垣を見て、怖気づいたのか、あっさりと真相を話したのであった。また、その慎吾の証言から、慎吾も中田殺しの共犯であったということ示していた。
慎吾はいかにも神妙な表情で、
「あのおじさんが、あんなことになるとは、思っていなかったんだよ」
と、いかにも泣き出しそうな表情と口調で言った。
そんな慎吾に、中垣は、
「あんなことって、どんなことだい?」
と、いかにも穏やかな表情と口調で言った。そんな中垣は、日頃の険しい表情はすっかりと影を潜め、正に優しいおじさんそのものであった。
すると、慎吾はいかにも決まり悪そうな表情を浮かべては、
「ぐったりして、動かなくなってしまったんだよ」
と、まるで蚊の鳴くような声で言った。
「どうして、動かなくなってしまったのかな」
と、中垣は依然として、穏やかな表情と口調で言った。
「僕と信也は、中田おじさんに悪戯をしてやろうとしたんだよ。というのは、信也のメリーちゃんを殺したのは、中田おじさんだと僕たちは皆、思っていたから。それで、中田おじさんに仕返しをしてやろうとしたんだよ。
で、仕返しというのは、中田おじさん宅の入り口近くの道路の両側には、木があるんだ。それで、その木の両側にロープを張ると、中田おじさんがミニバイクで戻って来た時に、そのロープに引っ掛かるんじゃないかと思ったんだよ。
そして、僕と信也は、物陰に隠れて、中田おじさんが僕たちの作戦に引っ掛かるかどうか、見ていたんだ。すると、見事に成功したんだ」
そう言った慎吾の眼は、輝いていた。そんな慎吾は、正にテストで100点を取ったかのようであった。
だが、慎吾の表情は直ぐに暗くなり、
「でも、中田おじさんは、なかなか起き上がろうとはしなかったんだ。それで、様子を見に行ったんだけど、まるで反応がなかった。まるで死んでるようだったんだよ」
「それから、どうしたのかな」
「うん。それで、僕と信也は恐くなってしまい、信也のお父さんを呼んだんだ」
と、慎吾はいかにもはっきりとした口調で言ったのだった。
そんな慎吾に中垣は、
「で、それからどうなったのかな」
と、いかにも穏やかな表情と口調で言った。
すると、慎吾は、
「知らないよ」
と、いかにも神妙な表情と口調で言った。
とはいうものの、この慎吾の証言は、中田の死の真相を如実に示す決定的な証言となりそうであった。
それで、大道に、密かに録音したこの慎吾の証言を聞かせた。
大道はそのICレコーダーに録音された慎吾の証言を黙って耳を傾けていたが、慎吾の証言を録音したICレコーダーの再生が終わると、
「馬鹿馬鹿しい!」
と、正に吐き捨てるかのように言った。
そんな大道に中垣は、
「子供が嘘をつく筈はないです。また、巧みな嘘をつくことも無理ですからね。ですから、この証言が、中田さんの事件の真相を説明してると思います」
と、中垣は正に力強い口調で言った。
「そんなの出鱈目ですよ。話にならない!」
と、中田は吐き捨てるように言った。
だが、その頃、有力な証拠を入手していた。というのは、中田の死体の近くに停められていた中田のパッソから女の髪の毛が見付かり、その髪の毛の血液型が、中田の妻の淑子の血液型と一致し、また、淑子の髪の毛と同様、茶色に染められていた。そのことから、淑子が中田の車を中田の死体と共に久住高原ロードパークまで運び、大道のカローラで大道と共に久住高原ロードパークを後にしたという可能性が高まった。更に中田の死体が発見された日の早朝に、大道と思われる人物と大道のカローラらしい車が久住高原ロードパークの料金所で通行料を支払ったという証言を、久住高原ロードパークの料金所の係員から入手した。
それらことから、もう誤魔化しは通用しないと悟ったのか、大道はやっとのことで真相を話したのである。
中田は、
「確かに、慎吾君の言った通りなのです」
と言っては、中田は項垂れた。
「つまり、慎吾君と信也君が、中田さんの家の前でロープを張ったということですかね?」
「そうです。でも、何しろ、子供だったから、悪気はなかったのだと思います。ただ信也たちは、日頃、僕たちから中田さんの悪口を聞かされ、また、メリーちゃんを殺したのは中田だということ風の噂なんかで知ったのでしょうね。
それで、中田を懲らしめてやろうとし、木の間にビニール紐を張ったのでしょうね。
中田はそれに気付かずに、中田の首にビニール紐が引っ掛かり、中田は転倒し、呆気ない最後を遂げてしまったのでしょう。
で、信也は中田の様子がおかしいのを心配し、僕に電話を掛けて来たというわけですよ。
で、僕が現場に駆け付けると、確かに中田は死んでいました。しかし、事の事実をそのまま警察に話すのには気が退けました。何故なら、悪気はなかったにしても、信也と慎吾君が中田を死に至らしめたのは事実ですから。また、僕の息子が他人を死に至らしめたことが公になれば、僕は職を辞めなければならないです。そうなってしまえば、僕たちの人生は滅茶苦茶になってしまいます。
それで、僕は中田の死を誤魔化すことを決意しました。
その為には、中田の死体を別の場所に遺棄するということと、また、中田が死ぬ原因を作ったミニバイクを元の状態に戻し、中田の死にミニバイクが関係してないと思わす偽装工作を行なう必要があったのです。それで、僕の義兄にその旨を話し、協力してもらったのですよ。インターネットで裏仕事を請け負ったというのは、無論、僕が考え出した出鱈目なのですよ。しかし、よく考えてみると、それが足の付く原因となってしまったのですね」
と、中田はいかにも決まり悪そうに言った。そして、
「それに、信也と慎吾君には、『このことは絶対に誰にも言っては駄目だよ』と言ったのですが、子供の口を封じることは、困難だったのですね」
と、悔しそうに言った。
<終わり>
この作品はフィクションです。実在する人物、団体とは一切関係ありません。