5 意外な犯人

 洋子から入手した情報を元に、愛川たちはその女性を見付ける捜査に取り掛かった。
 とはいうものの、原田美子という女性を見付け出す手掛かりは今のところ、まるでなかったので、まず写真の女性の方から捜査してみることにした。
 すると、その女性が誰なのかは、呆気なく明らかになった。
 愛川はその女性の写真を長崎出版の岡田に見せたところ、岡田は、
「この女性は、うちの社員の皆川明子君ですよ」
 と、些か顔を赤らめては言ったからだ。
「皆川明子さんですか。でも、皆川さんは何故このような写真を長崎さんに撮られたのでしょうかね?」
 と、愛川は興味有りげに言った。
 すると、岡田は些か険しい表情を浮かべては、
「長崎さんはうちの会社の女性に手を出していたみたいなのですよ」
 と、愛川から眼を逸らせては、言いにくそうに言った。
 そう岡田に言われ、愛川は思わず言葉を詰まらせた。それは、正に思い掛けない言葉であったからだ。
 そんな愛川に岡田は、
「エレベーターなんかで二人になったりすると、おっぱいを揉み揉みしたりしてたそうです。まあ、セクハラですね。
 でも、何しろ、長崎出版は、長崎さんのワンマン会社でしたから、そんな長崎に逆らうことは出来なかったのですよ。それで、泣き寝入りというわけです」
 と、いかにも言いにくそうに言った。
「成程。ということは、皆川さんは長崎さんのことをさぞ恨んでいたでしょうね」
「そりゃ、そうじゃないですかね」
 と、岡田は愛川から眼を逸らせては言った。
 そんな岡田の表情は、いかにも厳しいものであった。そんな岡田は、長崎を死に至らしめたのは、皆川明子だということを察知したかのようであった。
 愛川はといえば,必ずしもそうだと思ったわけではないのだが、皆川明子から話を聴く必要が生じたので、早速、長崎出版内の応接室で明子から話を聴くことになった。
 明子が応接室に入って来ると、愛川は思わずどきっとした。洋子から見せられた明子の写真を見た時にも思ったのだが、実物を見ても、やはり、かなりの美人だったからだ。これでは、長崎からのセクハラのターゲットにされてしまっても、肯けるというものだ。
 それはともかく、愛川は明子に椅子に座るようにと言っては、長崎の事件を捜査してるということを改めて説明し、そして、
「皆川さんは長崎さんと付き合っておられたのですよね?」
 と、穏やかな口調ではあるが、冷ややかな眼差しで言った。
 すると、明子は愛川から眼を逸らせては、言葉を発そうとはしなかった。
 それで、愛川は、
「我々が、既に皆川さんが長崎さんと親密に付き合っておられたということを突き止めています。
 それはそれとして、皆川さんが好きでもなかった長崎さんと付き合わなければならなかったのは、長崎さんが社長という地位を悪用し、無理矢理皆川さんに関係を迫り、ものにしてしまったのではないですかね?」
「……」
「それで、皆川さんはそんな長崎さんのことを許せずに、殺したというわけですかね」
 と、愛川は淡々とした口調で言っては、唇を歪めた。
 すると、明子は愛川を見やっては、眼を大きく見開き、
「私は長崎さんを殺していません!」
 と、甲高い声で言った。
「そりゃ、最初は誰だって、自らの犯行を認めはしませんよ。そんな犯罪者なんて、滅多にいませんからね。 
 で、我々の捜査では、長崎さんは青酸入りのカプセルをそうだとも知らずに飲んでしまい、死んでしまったと看做しています。即ち、長崎さんは青酸入りのカプセルをこの長崎出版内で飲んでしまい、そのカプセルが午後五時頃、東京駅構内で溶けてしまい、青酸が長崎さんの体内に入ってしまい、死んでしまったのですよ。
 で、長崎さんのカプセルは元々、栄養剤が入っていたのですが、長崎さんを亡き者にしようとした者が、その中身を青酸に入れ換えたか、あるいは、青酸入りのカプセルと栄養剤入りのカプセルを入れ換えたというわけですよ。
 で、皆川さんなら、それが充分に可能だというわけですよ」
 と、愛川は自信有りげな表情で言っては、大きく肯いた。そんな愛川は、明子が犯人である可能性は充分にあると言わんばかりであった。
 すると、明子は、
「違います! 私はそんなことはやってません!」
 と、眼を大きく見開き、甲高い声で愛川に反発した。
「しかし、状況証拠では、皆川さんが犯人であっても、何らおかしくはないのですがね」
 と、明子に無駄な抗いは無駄だよと言わんばかりに言った。
「でも、私は長崎さんの死には、何ら関係がありません!」
「でも、皆川さんは長崎さんから無理矢理関係を迫られ、ものにされてしまったのですよね?」
 と言っては、愛川は唇を歪めた。
 すると、明子は、
「そりゃ……」 
 と、愛川から眼を逸らせては、決まり悪そうに言った。
 その明子の様を眼にして、愛川は些か満足そうに小さく肯いた。即ち、長崎は社長という立場を悪用し、明子を無理矢理ものにしたのである。
 明子は、そんな長崎に反発し、青酸入りのカプセルを飲ませては、長崎を殺したというわけだ。
しかし、愛川は明子に言ったように、まだ状況証拠しかない。それで、更に状況証拠を積み重ね、逮捕にもっていかなければならないというものだ。
「で、皆川さんは、インターネットをやっておられますかね?」
 即ち、何ら接点のなかった三人が東京駅、新宿駅、上野駅で同時刻に死亡したというのは、長崎の死を誤魔化す為だと、愛川たちは推理するに至ったのだ。アガサ・クリスティの作品の「ABC殺人事件」のように、長谷和美の死と竹沢美智と死は、長崎の死を誤魔化す為のものであったというわけだ。 
 もっとも、長谷和美と竹沢美智は自殺志願者であった為に、死ぬことには躊躇いはなかった。そんな和美と美智に、明子は協力してくれと頼み込み、その結果、発生したのが、今回の事件だったというわけだ。
 それ故、主犯者と目される明子がインターネットをやってなければ、話にならないというわけだ。
 すると、明子は、
「そりゃ、やってはいますが……」
 と、呟くように言った。
 それで、愛川は些か満足したような表情を浮かべては、愛川たちの推理、即ち、明子がインターネットで竹沢美智や長谷和美と知り合い、そして、今回の事件を画策し、実行したのではないかという推理を話した。
 すると、明子は、
「とんでもない!」
 と、顔を真っ赤にしては、ヒステリックに言った。そんな明子は、正に今の愛川の推理は、話にならないと言わんばかりであった。
 しかし、一刻も早く事件を解決したいと思っていた愛川は、そんな明子の言葉には耳を貸さなかった。そして、明子のパソコンが捜査されることになったのだ。
 しかし、その捜査は成果を得ることが出来なかった。明子のパソコンからは、竹沢美智の自殺志願者を募るホームページを見ていたという証拠は得られなかったのである。
 この結果は、愛川にとって、意外であった。愛川は明子がホシである可能性は充分にあると読んでいたからだ。
 それで、愛川は正に苦虫を噛み潰したような表情を浮かべたのだが、そんな愛川に山村刑事が、
「皆川さんは我々の捜査の手が伸びる前に、パソコンから証拠隠滅を図ったのかもしれませんからね」
 と、その可能性は充分にあると言わんばかりに言った。
「ああ。そうだ。しかし、そうであれば、状況証拠を一歩一歩積み上げて行くしかないな」
 と、愛川は眉を顰めた。
 そして、二人の間で少しの間、沈黙の時間が流れたが、やがて、山村刑事が、
「あの原田美子さんのことはどうなったのですかね?」
 と、眉を顰めては言った。
 原田美子とは、長崎が妻の洋子と別れるからと言っては、付き合っていた女性だ。そして、その長崎の言葉が嘘であった為に、長崎宅に押し掛けて来た女性だとのことだ。
 その原田美子も長崎に殺意を抱いても、不思議ではない。
 とはいうものの、原田美子は長崎出版の社員ではなかった為に、長崎のカプセルに入った栄養剤を青酸入りのものに入れ換えるチャンスは皆川明子に比べて少ないのではないのか? それ故、原田美子は、皆川明子に比べて、犯人である可能性は小さいと、愛川たちは推理していたのだ。
 しかし、明子への捜査が手古摺ってる状況を考慮すれば、そろそろ原田美子に対する捜査を始めなければならないのかもしれない。
 とはいうものの、原田美子に関する情報は殆どないという有様だ。
 とはいうものの、事件は解決しなければならないのだ。途中で匙を投げるわけにはいかないのだ。
「でも、長崎さんは原田さんのことを誰にも話さなかったのでしょうかね? 二人だけで、密かに付き合っていたのでしょうかね?」
「そうかもしれないな」
 と、愛川は些か苛立ったような表情を浮かべては言った。愛川は捜査が進まないのを見て、焦りを感じてるのだ。
 そんな愛川は、
「長崎さんの友人だった人にもう少し、聞き込みを行なってみよう」
 ということになり、長崎宅から入手してアドレス帳や手帳などを元に電話を掛け、聞き込みを行なっていたのだが、今の時点では成果を得られてなかった。
 だが、その時、山村刑事が、
「警部。これ、一体、どういった会社なんでしょうかね?」
 と、長崎の手帳を指で示した。そして、その会社名は「花岡工業」となっていた。また、その箇所には、「花岡工業」のものと思われる電話番号も記されていた。
 愛川は山村刑事にそう言われて、言葉を詰まらせた。何故なら、愛川は「花岡工業」という会社に心当りなかったからだ。
 とはいうものの、長崎の手帳にメモされていたことから、長崎にとって何らかの関係のある会社であろう。
 それで、山村刑事は、
「とにかく、この電話番号に電話してみますよ」
 ということになり、山村刑事はとにかく、その電話番号に電話をしてみた。そると、その電話番号は確かに「花岡工業」のものであった。
 それで、山村刑事は「花岡工業」と長崎との関係を問い合わせてみた。
 すると、その結果は意外なものであり、また、山村刑事を驚かせてしまった。何故なら、「花岡工業」は長崎の妻であった洋子の父親が経営している会社だったからだ。
 しかし、それだけでは、山村刑事を驚かせはしないであろう。
 では、何故山村刑事を驚かせたかというと、「花岡工業」は何と鍍金を使用した製品を作ってることが明らかとなったからだ。
 その結果を受け、山村刑事は改めて、
「驚きましたね」
 と、改めてその驚きの言葉と表情を如実に示した。
 山村刑事にそう言われ、愛川も、
「ああ」
 と、正に驚いたと言わんばかりの表情を見せた。
 何しろ、長崎殺しに使われたのは、青酸だ。そして、新宿駅と上野駅で、二人の若い女性を死に至らしめたのも、青酸だ。
 そして、その青酸をいかにして犯人が入手したのかも、捜査のポイントであった。
 だが、今、その謎が明らかになったと言わんばかりの情報を入手してしまったのである!
「これはいかなることですかね?」 
 山村刑事は山村刑事と同様、いかにも険しい表情を浮かべてる愛川に言った。
 しかし、その問いを愛川に問い掛けるまでもないであろう。何故なら、長崎と和美と美智の死に、この時点で長崎の妻であった長崎洋子が関係していたと思わせる事実が一気に浮上したからだ。
 何しろ、妻が夫を殺したという事件は、これまで度々発生してる。そして、その動機が夫の浮気であったというケースも何度も発生してるのだ。
 そして、今回の事件も長崎の浮気が動機であったのかもしれない。
 何しろ、長崎は洋子というまだ四十そこそこの女盛りの妻がいたにもかかわらず、若い女に手を出し、情事を愉しんでいたみたいだからだ。
 もっとも、動機はその長崎の浮気以外にもあるのかもしれない。そして日頃のその長崎に対する不満が爆発し、遂に洋子は長崎を殺すことを決意した。そして、長谷和美、竹沢美智は、洋子によって、長崎の死を攪乱させる為の工作として使われたのかもしれないということだ。
 即ち、この時点で、今回の事件の首謀者として、長崎洋子の存在が一気に浮上したというわけだ!
 しかし、洋子を今の時点で逮捕するわけにはいかない。
 それはともかく、洋子によると、長崎宅にはパソコンがないという。それが、たとえ嘘だとしても、今の時点では、洋子はパソコンを始末してるだろう。
 だが、それが嘘だとしても、その嘘はすぐにばれるろう。何しろ、インターネットを扱っているプロバイダーを調べればよいわけだから。
 それ故、長崎宅にパソコンがなかったというのは、嘘ではないかもしれない。
 となると、洋子は何処でインターネットをやっていたのだろうか? 何しろ、今回の事件では、インターネットが使われたに違いないのだから。
 無論、携帯電話からかもしれないが、既に洋子は何処の携帯電話会社ともインターネットの契約を行なっていないことが明らかになっていた。
 となると、洋子はひょっとして、「花岡工業」内にあるパソコンでインターネットをやっていたのかもしれない。何しろ、「花岡工業」は洋子の親父の会社なのだから、娘の洋子が「花岡工業」内のパソコンの自由に扱っていたことは、充分に有り得るだろう。
 それ故、愛川は山村刑事と共に、「花岡工業」を訪れてみることにした。因みに、「花岡工業」は埼玉県にある従業員が三十人程の会社であった。
 勤務時間を終えた頃、「花岡工業」の社屋から出て来た五十位の男性を愛川は呼び止め、警察手帳を見せた。
 すると、その男性は緊張したような表情を浮かべた。
 そんな男性に愛川は、
「少し訊きたいことがあるんだが」
 と、些か真剣な表情を浮かべては言った。
 すると、男性は怪訝そうな表情を浮かべながらも、
「どんなことですかね?」
「ここの会社の社長は、花岡さんというんだね」
「そうです」
「では、花岡さんの娘の洋子さんという方が、長崎出版という小さな出版社の社長をしてる長崎太郎さんに嫁いだということを、ご存知ですかね?」
「そんなプライベートのことまでは知りませんが、洋子さんのことなら、知ってますよ。よくうちの事務所にやって来ては、パソコンを操作してるのでね」
 と、些か笑みを見せては言った。
 すると、愛川も些か笑みを浮かべてしまった。何故なら、正に早々と愛川が知りたかった情報を入手出来そうだからだ。
「では、洋子さんはそのパソコンで、インターネットをやっていたでしょうかね?」
 と、愛川は些か真剣な表情で言った。その時の愛川の表情からは、既に笑みは消えていた。
 すると、男性は、
「そりゃ、やっていたでしょう。そのパソコンはインターネットを使用出来ますし、また、僕は洋子さんがインターネットをやってるのを見たことがありますからね」
 と、笑顔を見せては言った。そんな男性は、そのことが何か問題なのかと言わんばかりであった。
 すると、愛川の表情は、再び綻びた。今度こそ、確実に捜査が前進したと実感したからだ。
 そして、この男性の証言から、洋子への疑惑は一層高まった。洋子なら、「花岡工業」から青酸を密かに入手することは可能だろうし、また、インターネットをやっていたとなれば、竹沢美智とインターネットで知り合ったという可能性は充分にあるからだ。そして、その結果、長谷和美とも知り合い、そして、今回の事件に至ったというわけだ。
 それ故、洋子が使っていたというパソコンを捜査しなければならないだろう。
 それはともかく、愛川は男性に、
「で、おたくの会社の何処に青酸は保管されてるのですかね?」
 と言うと、男性の表情は、突如、強張った。その男性の表情は、いくら警察でも、そのようなことは話せないと言わんばかりであった。
 案の定、男性は、
「うちの会社は、何かの事件の対象となってるのですかね?」
 すると、愛川は穏やかな表情を浮かべては、
「いや。そうじゃないですよ」 
 すると、男性は表情を緩めた。
 そんな男性に愛川は,
「で、洋子さんは、おたくの会社から青酸を持ち出すことは可能でしょうかね?」
 すると、男性は、
「さあ……、それは、どうでしょうかね。
 そりゃ、僕たちはそんなことは出来ないですよ。何しろ、青酸は厳重に管理されてますからね。
 でも、洋子さんは社長の娘ですからね。僕たちとは立場が違いますからね」
 と、憮然とした表情で言った。
 そう男性に言われ、愛川は些か満足したような表情を浮かべた。
 即ち、洋子は社長の娘だから、特別なのだ。それ故、「花岡工業」から密かに青酸を持ち出すことに成功したのだ。そして、その青酸が長崎や長谷和美、竹沢美智に使われたのである!
「花岡工業」で洋子が使っていたと思われるパソコンの捜査令状が出るや否や、愛川たちは直ちにそれらのパソコンの押収し、そして、その捜査が行なわれることになった。
 すると、成果があった。
 押収したパソコンの一つに、竹沢美智の自殺志願者のホームページにアクセスした履歴が残されていたのである!
 この事実を受け、長崎洋子の署への出頭が要請された。
 それを受けて、洋子は渋々それに応じた。
 そして、洋子は取調室で、愛川たちから訊問を受けることになった。
 洋子は最初のうちは、容疑を否認していたが、いつまでもしらを切ることは出来ないと看做したのか、徐々に容疑を認め始めた。そして、その洋子の供述は、凡そ愛川たちの推理通りであった。
 即ち、長崎は洋子がいるにもかかわらず、次々と女を作っては、情事に耽るようになった。洋子と長崎とのセックスはもうここ五年位はないとのことだ。
 そんな長崎のことを不満に思った洋子は、長崎に離婚を切り出したのだが、長崎は社長という世間体や、洋子の実家の金を当てにしてか、離婚に応じようとはしなかった。
 それで、洋子は長崎が交通事故なんかで死んでくれないかと思っていたのだが、そんな折にインターネットで、自殺志願している若い女性がいることを知った。
 それで、その若い女性、即ち、竹沢美智とコンタクトを取り、会って話をしてみたところ、洋子は美智から同情されてしまい、そして、美智から美智の死を利用しては長崎を殺し、長崎の死を誤魔化すことは出来ないのかと、言われてしまった。
 その美智の言葉を受け、洋子が思い付いたのは、東京駅、新宿駅、上野駅で、三人の人間が同時刻に死ぬというものであった。
 そして、洋子は長崎がいつも飲んでいる栄養剤入りのカプセルが解けるのにどれ位の時間が掛かるかを調査し、また、長崎が死んだ日、長崎が何時頃、長崎出版を後にし、東京駅に着くのかも、調査した。
 その結果、今回の事件が発生したというわけだ。
 そんな洋子は、長崎を密かに東京駅で待ち伏せしていた。
 そして、計算通り、長崎が東京駅構内でぶっ倒れたのを見届けると、直ちに和美と美智の携帯電話に連絡した。
 それを受けて、和美と美智は手頃なゴミ箱に携帯電話を捨てては、洋子から受け取った青酸を飲み、それぞれ、新宿駅構内、上野駅構内で絶命したというわけだ。
 これが、洋子の凡その供述内容であった。
 とはいうものの、愛川たちはその供述を全て信じてるわけではなかった。洋子の供述では、美智が長崎殺しを持ち出したとのことだが、果して、美智がそのような話を持ち出したであろうか?
 美智が死んだ今となれば、その真偽を確かめることは、不可能というものだろう。

    (終わり)

 この作品はフィクションで、実在する人物、団体とは一切関係ありません。また、風景や建造物等の構造が実際とは多少異なってることをご了解ください。

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