第二章 深まる情愛

 まだ、九月の初めであったので、少し身体を動かすと、汗ばんでしまう。
 そんな状況であったから、一時間も掃除をしたとなると、富子は少なからず汗を掻いてしまった。それ故、富子の着ていた下着にも、汗が染み付いてしまった。それ故、富子は肌ざわりの悪さを感じてしまった。
 それで、富子は、いかにも決まり悪そうな表情を浮かべては、
「あの……」
 と、いかにも言いにくそうに言った。
 富子にそのように言われ、村木は、
「何だい? 遠慮なく言ってみな」
 と、いかにも愛想良い表情と口調で言った。
 そう村木に言われても、富子は躊躇いの表情を浮かべては少しの間、言葉を発そうとはしなかったが、やがて、
「シャワーを使わさせてもらいたいのです。汗を?いちゃったので……」
 と、いかにも決まり悪そうに言った。
 すると、村木は表情を綻ばせては、
「シャワーか。シャワーならこっちだよ」
と、そんなことかと言わんばかりに、富子を浴室へと案内した。
浴室は村木が毎日のように掃除をしていたから、他人にすぐに使ってもらっても、何ら問題がないという自信が村木にはあった。それ故、村木は何ら躊躇いを見せることなく、富子にシャワーを使ってもらうことにした。
そんな村木に富子は、
「勝手なお願いをして申し訳ありません」
 と、頭を下げた。
 すると、村木は、
「家の中を綺麗にしてもらったんだ。シャワー位使ってもらって当然だよ」
 と、にこにこしながら言った。
 富子は村木にそう言われたので、早速シャワーを使わせてもらうことにした。
 そして、富子がシャワーを浴びる為に使った時間は、十五分程であった。
 富子はやがて衣服を身に付けては、応接室のソファに座ってる村木の前に姿を見せた。
 村木は特に何かをするということなく、ただソファに腰を下ろしてるといった塩梅であった。
 そんな村木に富子は、
「気持ち良くなりましたわ」
 と、いかにも満足したような表情と口調で言った。
 とはいうものの、その富子の言葉の中には少しは嘘があった。というのは、確かに身体に付いていた汗はシャワーを浴びたことによって流れ落ちたのだが、汗の染み付いた下着は着替えたわけではない。それ故、富子は完全に気持ち良くなったというわけではなかったのだ。
 だが、そのような思いを口に出す必要はなかったので、富子はそう言ったのである。
 富子にそう言われると、村木は、
「それはよかったね」
 と、にこにこしながら言った。
 そう村木に言われ、富子はいかにも嬉しそうな表情を浮かべては、
「私だけ気持よい思いをさせてもらって、何だか申し訳ありませんわ。ですから、肩でも揉みましょうか」
 そう富子に言われ、村木の表情は一層綻びた。
 というのは、村木は最近殊に肩が凝って仕方なかったのだ。それ故、マッサージ機でも買おうかと思っていた此の頃なのだ。
 もし、村木に子供か孫でもいれば、肩を毎日でも揉んでもらったのだが、村木には子供も孫もいない。それ故、村木は肩や腰を揉んでもらう為に月に二回程、マッサージ院に通っていたのだ。だが、毎日でも通いたい位であったのだ。
 そういった状況であった為に、村木は富子ともっと打ち解けた間柄となれば、富子に肩でも揉んでもらおうかと思っていた位であったのだ。
 ところが、そんな村木の胸の内を察したかのように、富子は村木の肩でも揉みましょうかと言って来たのである。
 とはいうものの、村木は、
「いいのかい? そのようなことまでやってもらって」
 と、殊勝な表情で言った。
「それ位のことはさせていただきませんと」
 富子は、にこにこしながら言った。
 そして、結局、富子は先程の八畳間で村木の肩を揉むことになった。
 富子に背中を見せて座った村木の肩を、富子はしばらく揉み続けた。そして、富子はその手を肩から背中を経て腰にもって行き、やがて、村木の太股を撫でるように軽く揉んだ。
 その富子の小気味良い入念なマッサージに、村木は思わず悦楽の声を発した。
 その村木の悦楽の声が途切れるまで、富子はまだしばらくマッサージを続けた。
 だが、富子はやがて、村木の肩を揉んでいた手を村木の肩から離すと、
「少し疲れてしまいましたわ」
 と、些か顔を赤らめては言った。
 すると、村木は薄らと笑みを浮かべた。
 そして、二人の間に少しの間、沈黙の時間が流れたが、やがて、富子は、
「私、村木様に少しお願いがあるのです」
 と、些か甘えるように言った。
「どんなことだい? 遠慮なく言ってみな」
 富子に肩や腰を揉んでもらって、甚だ気を良くしてる村木は、満面に笑みを浮かべながら言った。
 そう村木に言われると、富子は躊躇いを見せることもなく、
「実は私も肩を凝ってしまったのです。ですから、もしよろしければ、私も村木様に肩を揉んでもらえないかと……」
 と、村木をちらちらと見やりながら、些か顔を赤らめては言った。
 村木は富子にそう言われると、嫌な顔を見せるどころか、いかにも嬉しそうにしては、
「お易いご用だよ。で、どの辺りから揉めばよいのかな」
「では、この辺りから揉んでいただけますかね」
 と富子は言っては、右手で左肩の首の付け根辺りを指で示した。
「よし。分かった」
 村木は村木に背中を見せるようにして腰を下ろした富子の左肩から早速揉み始めた。
 富子の肩は村木の肩とは違って、とても柔らかであり、また、肌触りが良かった。
 そのように感じながら、村木は富子の肩をせっせと揉んでいた。
 すると、富子は、
「気持ちいいですわ」
 と、いかにも気持良さそうに言った。
 その富子の言葉を聞いて、村木は富子の肩を揉んでる村木の手に、更に力を込めた。
 そういう風にして、富子はしばらくの間、村木に肩を揉まれていたのだが、やがて、
「今度は、背中を擦っていただけませんか」
 そう富子に言われたので、村木は富子の肩を揉んでいた手を肩から離しては、今度は富子の背中を擦り始めた。富子の背中には、白いブラウス越しに紫色のブラジャーの線が見えていたが、村木はそのブラジャーの線の上から、富子の背中を擦り始めた。
 すると、富子は、
「気持ち良いですわ」
 と、まるで歓喜の声を上げた。
 その富子の声を聞いて、村木は更に力を込めて、富子の背中を擦った。
 村木は実のところ、富子の背中に直に触れてもよいのかという戸惑いの思いも抱いていた。しかし、村木はその富子の声を聞いて戸惑いも一気に吹き飛んでしまったのである!
 富子はやがて、
「ああ……」
 と、まるで性交の時に発するかのような声を発した。
 その富子の声を聞いて、村木はもはや夢中になって富子の背中を擦っていた。
 村木は若い女性の肌に触れたのは、もうどれ位前のことであろうか?
 村木はそのことを思い出せなかった。それ程、村木は若い女性の肌に直に触れたのは遠い昔のこととなっていたのだ。
 そんな村木であったが、村木は久し振りに若い女性の肌に触れてみて、年甲斐もなく、村木は男というものを感じてしまったのである。
 そんな村木であったから、富子に、
「今度は腰の辺りを揉んでいただけませんか」
 と言われると、何ら躊躇う仕草を見せることもなく、村木の手を富子の腰の辺りにもって行った。
 すると、富子は、
「そう! そこを強く揉んでください!」
 と、まるで村木に訴えるかのように言った。
 それで、村木は思わず眼を大きく見開き、輝かせては、一層力を込めて、富子の腰の辺りを揉んだ。
 すると、富子は、
「気持ちいい……」
 と、まるで性交の時に発するかのような悦楽の声を上げた。
 それで、村木は更に力を込めて、富子の腰の辺りを揉んだ。
 そして、まだしばらくの間、村木はその動作を続けていたのだが、やがて富子はその身体を仰向けにさせた。そして、
「今度はお腹の辺りを揉んでもらえませんか」
 そのように富子に言われ、村木は眉を顰めた。何故なら、今までは富子の肩とか腰の辺りを揉んでいたのだが、お腹の辺りを揉むとなると、面倒なことになるかもしれない。何故なら、お腹の上には乳房がある。それ故、もし村木が手を滑らせてしまえば、村木の手は富子の乳房に触れてしまうかもしれないのだ。そして、そのような事態が発生してもよいのかと、村木は危惧したのである。
 しかし、富子の申し出を無視するわけにもいかないであろう。
 それで、村木はとにかく富子の腹部を揉み始めた。
 すると、富子は、
「ああ……」 
 と、まるで喘ぎ声のような声を発した。そして、その声は正に悦楽の声であった。
 それで、村木は正に夢中になって、富子の腹部を揉み続けたのだが、やがて、富子は、
「今度は胸を揉んでいただけませんか」
 と、眼を閉じては、面映ゆそうに言った。
 そう富子に言われ、村木は耳を疑った。肩とか背中、腹部ならまだしも、胸ともなると、そのような部分を揉んでよいものかと、村木は思ったのである。何しろ、胸は女性にとって大切な部分だ。そのような部分を幾ら村木が富子にとって上客といえども、そこまでやってよいのかと村木は思ったのである。
 それ故、村木は表情を曇らせては、富子の言葉に率直に従おうとはしなかった。
 すると、富子は、
「どうなされたのですか? 胸を揉んでいただけないのですか?」
 と、眼を大きく見開いては大の字になり、富子の胸を揉んでと言わんばかりの仕草を見せた。
 すると、村木は神妙な表情を見せては、
「いいのかい?」
 と、改めて訊いた。
「勿論、いいですよ」
 と、富子はにこにこしながら言った。
 だが、村木は依然として、富子の言葉が信じられなかった。それで、
「胸って、乳房のことかい?」
 と、神妙な表情のまま訊いた。
「勿論そうですよ。さあ! 遠慮なさらないで下さい! 私の乳房を揉んでください!」
 そのように富子に言われたからには、村木は富子の胸を揉まないわけにはいかないであろう。もっとも、直に揉むわけではない。ブラウス越しに揉むわけだから、それ位のことはやってもよいかもしれない。
 村木はそう自らに言い聞かせると、早速、ブラウスの上からではあるが、富子の胸を揉み始めた。
 すると、富子はまたしても性交の時に発するような喘ぎ声を連発したのだ。
 そして、その日以来、村木と富子の関係は、只ならぬものとなったのだ。年齢は五十歳近くの隔たりがあるといえども、二人は正に親密な関係となったのである。
 そして、今、二人で阿寒湖に旅行に来ていたのだが、二人で旅行に来るのは、今回で五回を数える程となっていたのだ。

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