2 浮かんだ容疑者
そこで、今度は岩本宅に行って、岩本の部屋を調べてみることにした。岩本の部屋に、鳴海たちが捜査しようとしてる女性の手掛かりがあるかもしれないからだ。
そして、岩本の部屋を捜査する前に、沙織に鳴海は何故、鳴海たちが岩本の部屋を捜査するのか、その旨を説明した。
すると、沙織は、
「つまり、主人が乗せたタクシーの女性客の中に主人が気に入った女性がいて、その女性に主人は悪戯をしようとし、その結果、トラブルが発生し、それが、主人の失踪の原因となり、そして、その主人の失踪を誤魔化す為に、主人の車を旭岳の駐車場に放置したと、刑事さんは言われるのですかね?」
と、渋面顔で言った。
「その可能性は有り得ると思いますね。今まで岩本さんのことを捜査した結果、どうも岩本さんは自らが乗せた若い女性客に興味があったようでしてね。それで、その女性客の家が分かったとしたら、アタックを掛けたかもしれませんね。岩本さんの性質からして、全く有り得ない事ではないと思います」
そう鳴海が言うと、沙織は鳴海から眼を逸らせ、言葉を詰まらせた。そんな沙織の様は、正に岩本の公にしたくない秘密を刑事に知られてしまい、羞恥心で一杯であるかのようであった。
そんな沙織は、程なく鳴海に眼を向けては、
「確かに主人には好色な所がありました」
と、いかにも決まり悪そうな表情を浮かべては言った。
「好色な所ですか……」
鳴海は呟くように言った。
「ええ。そうです。こんなことはあまり言いたくないのですが、私とセックスをする時に、よく変態的なプレーを要求して来ましてね。それに、よくレンタルビデオ店でアダルトビデオを借りて、見ていましたね」
と、沙織は些か顔を赤らめては、言いにくそうに言った。
「成程。確かにご主人は好色的な性質だったようですね。
そんなご主人ですから、気に入った女性客の家が分かれば、何らかのアタックを掛けたかもしれませんね」
と、眼をキラリと光らせては言った。
そう鳴海に言われ、沙織は何も言おうとはしなかった。そんな沙織は、今の鳴海の言葉はもっともだと言わんばかりであった。
だが、沙織は、
「でも、私は主人が乗せた女性客に関して、主人の口から何も聞いたことはないのですよ」
と、渋面顔で言った。
「それはそうでしょう。そのようなことは、奥さんには話さないでしょうからね」
「……」
「でも、とにかく、ご主人の部屋を調べさせてくださいな」
と言っては、とにかく、岩本の部屋を捜査してみることにした。
すると、何と、鳴海たちが思ってもみないような女性の手掛かりを記したメモが見付かったのである!
そのメモは、岩本の部屋にあった物入れの三段目の抽斗の中に入っていた。そして、そのメモ用紙はA4判のコピー用紙で、そこにはこのように記されてあったのである。
〈 A子 M町三丁目Rマンション103室 身長163センチ 脚が綺麗
B子 S町二丁目3番 田代ハイツ104室 身長164センチ 体重47キロ ショートカットの髪を茶色に染め、ジーンズがよく似合う
C子 T町二丁目一番3―4―5 レジェンド直江 105号室 身長168センチ ロングヘアの髪を茶色に染め、水商売風 〉
この三人の女性が記されていたのだ。
これら三人の女性の本名は記されていなかったが、身体付きや容貌の特徴が記されていたことから、この三人の女性に岩本は大いに関心を持っていたことは、容易に察せられた。また、この三人が住んでいると思われるマンション名とその所在地も凡そ記されていた為に、この三人が実在してる人物かどうか調べることは可能と思われた。
そこで、早速、その捜査が行なわれることになった。
すると、その三人の女性は、早々と実在してる女性であることが分かった。
それで、まずその三人の女性の姓名を記してみることにする。
A子 山村明子(22)
B子 外山真美(24)
C子 長谷博美(26)
この三人は、いずれも一人暮らしであった。そして、三人が住んでいたマンションやアパートは駅から少し離れていたので、恐らくタクシーを利用したのだろう。そして、その時の運転手が、岩本であったというわけだ。
また、これらの女性に岩本が関心を持ったのは、事実だろうが、岩本の車を旭岳ロープウェイの駐車場にまで運転して行くには、車の免許が必要であろう。
それで、この三人の女性が、車の免許を持っているかの捜査も行なわれた。
すると、山村明子と外山真美は持っていたが、長谷博美は持ってないことが分かった。
それで、この時点で長谷博美に対する捜査は行なわないことにした。
そして、考えられることは、岩本は山村明子か外山真美宅に押し掛けては、乱暴しようとした結果、トラブルになったであった。
もっとも、外で岩本がその犯行を行なったという可能性もあったが、まず、マンション内で犯行が行なわれなかったかという捜査を行なってみることにした。