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 これによって、今回の事件を引き起こした容疑者の絞り込みが行なわれることになった。 
 しかしシルバーのマーチの所有者は日本全国にいくらでもいることだろう。また、いくら老婆といえども、老婆とぶつかった衝撃から、車体に傷が付いたことは確実であろう。 
 それ故、それらしきマーチが自動車修理工場に修理に出されていれば、捜査はやり易いというものだが、犯人も馬鹿ではないだろう。そのようなことをすれば、私が老婆を撥ねましたという事実を公にするみたいなものだからだ。
 それ故、そのマーチが個人の所有者であれば、まだ修理に出されていない可能性は、十分にあるだろう。しかし、レンタカーなら話は別だ。豊子を撥ねた犯人は、レンタカーでないとは断言出来ないのだから。
 それ故、辺りのレンタカーを捜査してみることになった。
 すると、あっさりと有力な情報を入手することが出来たのだ。というのは、帯広空港で昨日返却されたシルバーのマーチのバンパーと左側のヘッドライトが破損された状態で返却されたという事実が明らかになったからだ。 
 それで、竹之内は直ちにその帯広空港のNレンタカー店に行って話を聞いてみることにした。
 そして、Nレンタカー帯広空港店に竹之内が着くと、係員の勝田三郎(44)は、早速、その問題のマーチを竹之内に見せた。 
 竹之内は確かに老婆を撥ねたような痕跡が残るマーチをしげしげと眼をやっていたが、やがて、
「このレンタカーの借主は、どういった事故を起こしたのだと言ってましたかね?」
 と、いかにも興味有りげに言った。
「シカとぶつかったと言ってましたね」
「シカですか」
 と、竹之内は呟くように言った。確かに、この北海道では、シカと車の衝突事故は多発してるからだ。とりわけ、この帯広周辺は、その事故の多発地帯になってるのだ。
「そうです。糠平国道ですよ。糠平国道を大雪湖の方から糠平温泉に向かって走らせていた時に、シカが急に飛び出して来た為に、ぶつかってしまったとお客さんは説明してましたね」
 と、勝田は眉を顰めては言った。
「そう言われ、勝田さんはそれを信じたのですかね?」
「そりゃ、信じましたよ。うちのお客さんの中にも、シカとぶつかった事故に見舞われた方は何人もおられますからね」
 と、勝田は渋面顔で言った。
「そのお客さんはいつ、このマーチを返却したのですかね?」
「昨日の午後五時です。予定通りですよ」
「その事故を起こしたのは、いつだと言ってましたかね?」
「二十五日の午後三時頃だと言ってましたね」
「そのぶつかったシカはどうなったのでしょうかね?」
「死なずに山の中に入って行ったと言ってましたよ」
 と、勝田はその言葉を信じ切ったかのように言った。 
 そんな勝田に、竹之内は、
「このマーチが人を撥ねたという可能性は、考えられませんかね?」
 と言っては、眼をきらりと光らせた。
「そりゃ、ないとは言えませんが、しかし、僕では何とも言えません」 
 と、勝田は渋面顔で言った。
 そう勝田が言ったものの、とにかく、その問題のマーチに老婆の痕跡が残っていないかの捜査が、警察によって行なわれることになった。
 しかし、その捜査は成果が得られなかったのだ。 
 しかし、そのマーチの借主、即ち、東京都大田区在住の川田三郎(44)が宿泊していた帯広のホテルの関係者によると、十月二十五日に川田がホテルに戻ったのは、午前零時近くになってからだとのことだ。
 もっとも、ホテルの関係者は、それに関して川田から事前に連絡を受けていたということもあり、何故遅れることになったのかということは、川田に何ら確認してないとのことだ。 
 しかし、それはもはや川田が倉吉豊子の死体を夜の人気の無い時を見計らって襟裳岬に遺棄した為に、ホテルに戻るのが遅れたと言わざるを得ないだろう。 
 即ち、そのことからしても、倉吉豊子の事件の犯人は、川田で決まりみたいなものだ。 
 それ故、早速川田に会って、川田から話を聞いてみようということなったのだが、川田は既に東京に戻ってしまったとのことだ。
 それ故、警視庁に捜査協力を依頼して、川田のことを捜査してもらうことにした。

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