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修善寺温泉を後にし、高村明(60)、友美(57)夫妻は今、伊豆高原駅に向かっていた。高村夫妻は今朝伊豆高原駅でレンタカーを借り、東海岸を南下しては石廊崎にまで行き、堂ヶ島温泉、修善寺温泉を経て、レンタカーを返車する為に、伊豆高原駅に向かって車を走らせてるのだ。
一日掛けて伊豆半島を一周すること位容易いものだと、高村夫妻は考えていたのだが、下田市内で渋滞に巻き込まれたり、また、西海岸の道はなかなか細く、また、カーブが多かったりして、なかなか速度を出せなかった。その為に、思ってた以上に時間が掛かってしまい、堂ヶ島温泉、恋人岬、修繕時温泉などをじっくりと見物しようという予定はすっかりと狂ってしまい、それらのスポットは素通りせざるを得なくなってしまった。それ故、高村夫妻は今度、伊豆を訪れる時は、何処かで泊まらなければと言い合っていた。
それはともかく、大室山だけは時間を取れそうな塩梅であったので、高村夫妻はカーナビの指示に従って、大室山に向かっていた。何しろ、高村夫妻は伊豆半島を訪れるのは初めてのことであったので、カーナビ無しでは巧みに走行することは出来なかったのである。
それはともかく、大室山に向かう道を走行してるのは間違いなかったのだが、後どれ位で大室山に着くのか分からなかった。
それで、手頃な所で車を停め、そして、道路地図でもう一度辺りのことを休憩がてら確認してみることにした。
それで、手頃な道路脇に車を停め、そして、現在地を確認した。
そして、それは確認出来た。大室山までは後、僅かという所だ。
とはいうものの、この辺で少し休憩しようと思い、高村夫妻は車外に出ては、少し伸びをし、また、そこは草むらが拡がってる場所だったので、明は小用を足そうと思い、少し草むらの中に入ったのだが、すると、明は忽ち眉を顰めた。何故なら、人間が不自然な恰好で横たわってるのを眼にしたからだ。その様は正に尋常ではない。
とはいうものの、このままその人間を無視し、この場を後にすることも出来ないというものだ。
それで、明はとにかく、その人物、即ち、三十位の灰色のジャケットとジーパン姿の男性を抱き抱えては、
「もしもし」
そう言ったものの、明は抱き抱えようとしたその男性をすぐに放してしまった。というのは、その男性の肌には温もりは感じられず、また、身体が硬直していたからだ。
また、その男性の顔を間近で眼にしたところ、その男性は眼を閉じていたといえども、とても生きてるようには感じられなかった。また、男性は既に冷たくなっていた。
これらのことから、男性は既に死んでるに違いない!
そう確信した明はとにかく、友美に事の次第を話した。
そして、その結果、直ちに携帯電話で110番通報することにした。ここがどの辺りなのか、正確に警察に説明することは出来なかったといえども、凡その位置は分かっていた。それで、それを説明し、そして、パトカーの到着を待つことになった。そして、明に応対した係員によると、大体十五分程で現場に着くことが出来るとのことだ。
それで、高村夫妻はとにかく、警官の到着を待つことになったのだ。
そして、明の応対した警官の説明通り、確かに十五分程で、赤色灯を点滅させ、サイレンを鳴り響かせたパトカーが高村夫妻の許に到着したのだ。
警官が到着したからといっても、無論、その男性が生き返りはしなかった。明が電話で説明した通りだった。
その男性は死後、まださ程日が経ってないように思われた。だが、この辺りは人気がないことから、偶然に明が小用を足そうとしなければ、まだしばらくの間、人眼に触れることはなかったであろう。
それはともかく、警官に遅れてやってきた救急車によって、その男性は何処かに運ばれて行った。
高村夫妻としては、正にとんでもないものを眼にしてしまった為に、大室山に行くことが出来なかった。それが今回の伊豆旅行の心残りとなってしまったのだ。
高村夫妻によって発見された男性の死体は、直ちに伊東市内のF病院に運ばれ、司法解剖されることとなった。
すると、死因が明らかになった。
それは、ロープのようなもので強く絞められたことによる窒息死であった。また、その索痕から、何者かに首を絞められた可能性が高かった。即ち、殺しの可能性が高まったのだ。
とはいうものの、男性の身元を証明出来るものを男性は何ら所持してなかった。
それで、まずその男性の指紋が警察に保管されてないかの捜査が行なわれることとなった。
すると、その男性の指紋が警察に保管されていたことが、早々と明らかになったのだ。
とはいうものの、男性は前科者ではなかった。
では、何故男性の指紋が警察に保管されていたかというと、男性は二年前に東京都内の客として入った居酒屋で、喧嘩をし、警察が出動する騒ぎとなった。
とはいうものの、逮捕はされなかった。だが、署で散々油を絞られた。そして、その時に指紋をとられていたのだ。
その男性の名前は、森幹夫という三十五歳であった。その森の他殺体が、大室山近くの草むらの中で観光客によって発見されたのである。