5 ホテルの支配人
町田の前に姿を見せた野々村に対して、町田の表情は、強張ってるかのように見えた。そんな町田の様は、まるで野々村の来訪の目的を探ってるかのようであった。
そんな町田に、野々村は、
「町田さんに確認したいことがあるのですがね」
と、町田の顔をまじまじと見やっては、淡々とした口調で言った。
「僕に確認したいこと? それ、どんなことですかね?」
町田はそう言ったものの、そんな町田は、今の野々村の問いにさ程興味がないかのようであった。
そんな町田に、野々村は、
「小笠原さんのことですが」
「……」
「小笠原さんは、五月二十日の午前八時過ぎに、チェックアウトされたのでしたよね?」
「そうですね」
「ということは、その後、八丈スカイホテルを後にしたのですよね?」
「そりゃ、そうでしょう」
「移動手段は、小笠原さんが借りたレンタカーのアルトですよね?」
「そうだと思います」
「では、そのアルトで、町田さんは小笠原さんが八丈スカイホテルの駐車場を後にした場面を眼にしましたかね?」
そう野々村が言うと、町田は渋面顔を浮かべては、
「いいえ」
と言っては、頭を振った。
しかし、チェックアウトの後、八丈スカイホテルの駐車場に小笠原さんのアルトは停められていなかったのですよね?」
「そりゃ、そうでしょう」
「それを誰かが確認したのですかね?」
そう野々村が言うと、町田は言葉を詰まらせた。そんな町田は、今の野々村の問いに何と答えればよいか、考えを巡らせてるかのようであった。
そんな町田に、野々村は、
「では、町田さんは、五月二十日の午前八時から九時頃にかけて、何処で何をされてましたかね?」
と、町田の顔をまじまじと見やっては言った。
その野々村の問いに、町田は、
「そりゃ、その頃は、ホテルで仕事をしてましたよ」
と、間髪を入れずに答えた。
「仕事といっても、具体的にどういった仕事をされてたのですかね?」
「事務作業ですよ」
「つまり、デスクに座って作業されてたのですかね?」
「そうですよ」
と、町田は眼を大きく見開き、それが何か問題なのかと言わんばかりに言った。
「それを誰かに証明してもらえますかね?」
と、野々村は再び町田の顔をまじまじと見やっては言った。
「そりゃ、うちの社員が証明してくれますよ」
と、町田はいかにも自信有りげな表情と口調で言った。
そう町田が言うと、野々村は、
「なるほど」
と言っては、小さく肯いた。
そんな野々村に、町田は、
「でも、何故そのようなことを訊くのですかね?」
と、いかにも納得が出来ないように言った。そんな町田は、まるで野々村に挑むかのようであった。
そんな町田に、野々村は高田の証言を話した。
そんな野々村の話に、町田は何ら言葉を挟まずに、些か険しい表情でじっと耳を傾けていたが、野々村の話が一通り終わると、
「馬鹿馬鹿しい!」
と、まるで吐き捨てるかのように言った。そんな町田は、今の野々村の話は、話にならないと言わんばかりであった。
そんな町田に、野々村は、
「でも、そう証言した人物は、絶対に町田さんに間違いないと言ってましたよ。何しろ、その人物は、町田さんと何度も話をしたことがある人物ですからね」
と言っては、小さく肯いた。
「では、その人物は、誰なんですかね?」
そう言った町田の表情は、怒りに満ちていた。そんな町田は、そのような出鱈目の証言をした輩に、強い怒りを剥き出しにしたかのようであった。
そんな町田に、野々村は、
「それは、言えません」
と言っては、小さく頭を振った。
すると、町田は、
「ふん!」
と言っては、鼻を鳴らし、
「じゃ、出鱈目だ。刑事さんは出鱈目を言ったに過ぎないのですよ。それか、その人物が出鱈目を言ったのですよ。その人物のことを明らかに出来ないのなら、そう看做さざるを得ないですからね」
と、今の野々村の話は話にならないと言わんばかりであった。
そう町田に言われると、野々村は決まり悪そうな表情を浮かべては、言葉を詰まらせた。そう言われてしまえば、反論し辛くなってしまい、この辺で町田の許を去ることにした。
しかし、町田と話をしてみて思ったことは、やはり、町田の話し振りはぎこちなかったということだ。
それで、次に、八丈スカイホテルの従業員に聞き込みを行ない、町田の証言が正しかったのか、裏を取ってみた。
すると、裏は取れた。しかし、その証言は、当てには出来ないというものだ。町田に偽証してくれと言われれば、従うに違いないからだ。