7

 それで、牛田の部屋から入手したアドレス帳を許に、牛田の友人たちから話を聞いてみることになった。
 すると、興味深い情報を入手することが出来た。その情報を角田に提供したのは、牛田の高校時代からの友人で、また、飲み友達であった徳島勝(45)であった。徳島は、牛田の死に関して何か心当りないかという角田の問いに対して、
「牛田君はお金に困っていたらしいですよ」
 と、神妙な表情で言った。 
だが、その話は、角田にとって真新しい情報ではなかった。牛田がアパート経営に失敗し、多額の負債を抱えてることは既に確認済みであったからだ。そして、その負債を返済する為に八丈島で義兄の前川を殺したのだから。
 しかし、牛田の友人であったという徳島勝にそこまで言及する必要はない。
 それで、角田は、
「どうしてお金に困っていたのですかね? アパート経営の失敗でお金に困っていたというような話は聞いたことがあるのですが、そのことですかね?」
 と、さりげなく言った。
 すると、徳島は、
「いや。そうじゃないみたいなのですよ」
 と、再び神妙な表情で言った。
 そう徳島に言われると、角田は眉を顰めては、
「それはどういうことですかね?」
 と、些か納得が出来ないように言った。
「アパート経営に失敗して多額の負債を抱えてるというのは、何も今に始まったことではありません。確かに、それに関するお金に困ってたことも事実なんでしょうが、ここ二週間ばかりの間で、一千万程のお金が必要だったみたいですよ」 
 と、徳島はいかにも神妙な表情を浮かべては言った。そんな徳島は、そのことが牛田の死に関係してるのではないかと、言わんばかりであった。
 角田はといえば、徳島のその話に俄然興味を持ったのか、身を乗り出すかのような恰好で、
「それ、どういう意味ですかね?」
 と、好奇心を露にしては言った。
「つまり、アパート経営で失敗した借金以外で、お金が必要だったみたいなんですよ。その金額が一千万だったというわけですよ」
 と、徳島は言っては眉を顰めた。
「どうして牛田さんは一千万が必要だったのですかね? それに関して、牛田さんは何か言及してましたかね?」
 と、角田は再び好奇心を露にしては言った。
「それがそれに関して、牛田さんは何も言及してなかったのですよ」
 と、徳島は些か悔しそうに言った。それが分かっていれば、牛田の死の謎は解明出来ると言わんばかりであった。
 そんな徳島に、角田は、
「徳島さんは牛田さんの死はその一千万が関係してると思われてるのですよね?」
 と、徳島の顔をまじまじと見やっては言った。
「そうなんですよ」
 と、徳島は言っては、小さく肯いた。
「どうして牛田さんは一千万が必要だったのでしょうかね? それに関して徳島さんは何か思うことはないのですかね?」
 と、角田は徳島の顔をまじまじと見やっては言った。
「ですから、アパート経営以外のお金ですよ。また、八丈島に関係してるのではないですかね? そうでなければ、牛田さんは八丈島で死にはしなかったでしょうから」
 と言っては、徳島は小さく肯いた。
 そう徳島に言われ、角田も小さく肯いた。確かに、徳島が言ったことはもっともなことだと思ったからだ。
 それで、八丈島で何か手掛かりを得られないか、八丈島に戻っては、捜査してみることにした。

目次   次に進む