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 すると、早々と興味深い情報を入手することが出来た。
 もっとも、その情報は、角田が八丈島に戻って突き止めた情報ではなかった。 
 牛田の死を受けて、角田以外の八丈島署員も既に牛田の死に対する捜査を始めていて、その結果、興味深い情報を入手していたのだ。
 その情報とは、ある男がどうやら牛田の素性を探っていたようなのだ。というのは、八丈島にあるレンタカー会社に牛田と思われる男、即ち、山田慎一の連絡先をしきりにレンタカー会社の係員に尋ねていたという情報を入手したからだ。八丈島署の戸倉警部補(44)によると、
「その男性は八丈島にあるNレンタカーで、その山田慎一の連絡先を訊いたそうですよ」
 と、神妙な表情で言った。
「どうして、そのようなことを訊いたのかな? その男性はそれに関して、説明したのかな?」
 と、角田は興味有りげに言った。
「何でも、そのレンタカーを借りていた男性が、千畳敷で双眼鏡を落としたらしく、それを渡したいから、連絡先を知りたがっていたそうですよ」
 それで、Nレンタカーで、それに関して問い合わせてみると、杉山春夫(34)という係員は、戸倉警部補が言った通りのことを言った。
 そう杉山に言われて、角田は眉を顰めた。そんな角田は、この件は捜査に役には立たないのではないかと思ったからだ。
 というのは、山田慎一というのは、牛田の偽名であり、その山田慎一の免許証の住所からは、牛田には行き着かないのだ。それ故、山田慎一のことを問合せたというその男性は、牛田に行き着かないことは必至なのだ。それ故、その男性は、牛田の死には関係していないだろう。
 そう察知すると、角田は些か落胆したような表情を浮かべた。というのは、この情報は当初、有力な情報と思われたのだが、結局、そうではないみたいだからだ。 
 しかし、念の為に、その男性のことを確認しておく必要はあるだろ。 
 それで、杉山にその男性が誰なのか分かるのかと、訊いてみた。
 すると、杉山は、
「分かりますよ」
 と、あっさりと言った。
 そう杉山に言われると、角田は些か表情を綻ばせては、
「どうして分かったのですかね?」
 すると、杉山も些か表情を綻ばせては、
「どうしてって、その男性はうちでレンタカーを借りましたからね。だからですよ」
 と、表情を綻ばせたまま、言った。
 それで、角田はとにかく杉山からその人物の名前と連絡先を聞き、その人物、即ち、東京都在住の若村芳樹(45)という人物に連絡をし、話を聞いてみることにした。 
 電話が繋がると、角田はまず自らの身分を説明しては、
「若村さんに訊きたいことがあるのですがね」
 と、落ち着いた口調で言った。
 すると、若村は、
―それ、どんなことですかね?
「若村さんは十月十五日に八丈島にいましたよね?」
 そう角田が言うと、若村は五秒程言葉を詰まらせたが、
―ええ。
 すると、角田は小さく肯き、
「で、若村さんは翌日に八丈島から東京に戻られたと思うのですが、レンタカー会社にレンタカーを返した時のことなんですがね」
 そう角田が言うと、若村は言葉を詰まらせた。そんな若村は、次の角田の言葉を固唾を呑んで待ってるかのようであった。
「若村さんはレンタカーを返却した時に、ミラに乗っていた人物のことを問合せましたね? そのミラのナンバーと共に」
 そう角田が言うと、再び若村の言葉が詰まった。そんな若村と電話で話してる角田は、若村の表情を見ることは出来ないが、そんな若村の表情は今、正に蒼褪めていた。そんな若村の表情は、正に訊かれたくないことを訊かれたと言わんばかりであった。
 若村がなかなか言葉を発そうとはしないので、角田は、
「若村さんがレンタカー会社の係員に山田慎一さんに関して問合せたのは分かってるのですがね。つまり、若村さんは山田慎一という名前とその連絡先を知りたかったのですよ。それは何故かと訊いてるのですがね」
 と、若村に詰め寄るかのように言った。 
 すると、若村はいかにも決まり悪そうな表情を浮かべては、少しの間、言葉を詰まらせていたが、やがて、
ー刑事さんは何故僕のことを調べ出し、そして、僕にそのようなことを訊くのですかね?
 と、些か納得が出来ないように言った。
「ですから、若村さんが八丈島にいた十月十五日に、千畳敷で前川貫太郎さんの遺体が発見され、前川さんは何者かに千畳敷から海に突き落とされ、殺された可能性があるのですよ。それで、我々は前川さんの死に関して、捜査をしてるのですが、すると、若村さんのことが浮かび上がったのですよ。前川さんは山田慎一という偽名を用いていた人物に殺された可能性があるのですよ。それで、我々は八丈島で山田慎一のことを捜査したところ、若村さんに行き着いたというわけですよ」
 と、角田は若村に言い聞かせるかのように言った。
 すると、若村は、少しの間言葉を詰まらせていたが、やがて、
ー実は、僕は見てしまったのですよ。
 と、いかにも決まり悪そうな表情を浮かべては言った。
「見てしまった? 何を見てしまったというのですかね?」
 角田は眼を大きく見開き、いかにも興味有りげに言った。
ーですから、殺人の現場ですよ。
 と、若村はいかにも決まり悪そうに言った。
 そう若村に言われると、角田は些か納得したように、小さく肯いた。角田はやはり、そんなことだろうと思っていたのだ。
 即ち、若村は千畳敷で牛田が前川を海に突き落とす場面を偶然に眼にしたのだ。
 それで、それをねたに、若村は山田慎一をゆすろうとしたのではないのか。
 しかし、山田慎一は実在してなかった人物なので、ゆすりようがなかったというわけだ。
 そして、角田はその推理を若村に話した。
 すると、若村は、
ーさすが刑事さんですね。確かにその通りなんですよ。
 と、角田の推理に参ったと言わんばかりに言った。
 すると、角田は小さく肯き、そして、前川を海に突き落とした男の顔や人相風体を訊いてみた。
 だが、若村はその男が借りたレンタカーのナンバーをメモしただけで、遠くから眼にしていたので、顔や人相風体までは分からないと言った。
 また、若村は山田慎一に連絡を取れなかったわけだから、これ以上、若村から話を訊いても、捜査に役立つ情報を入手出来そうもないので、この辺で若村への聞き込みを終えることにした。

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