第九章 頑固な老人
1
秀明が築地署を後にすると、宗方と高野刑事は、早速国松邸に向かった。
それは、無論、徳三から秀明の異母弟に関する情報を入手する為だ。
宗方と高野刑事は、秀明の異母弟なる人物が、重秀の事件の重要参考人であると判断したのである。
もっとも、その秀明の推理を全面的に信じたわけではない。本当は秀明が犯人であるのに、それを隠す為に、異母弟犯人説をでっち上げた可能性も充分に有り得るのだ。
もっとも、秀明の話し振りなどから、重秀殺しの犯人は異母弟の可能性の方が高いと判断したのだ。
それで、その異母弟に関する情報を持っていると思われる徳三から話を聴く必要が生じたのだ。
国松邸の前に着くと、門扉横にあるインターホンを宗方は押した。
もっとも、徳三に今から来訪するという旨を電話で話してあったので、今、徳三は在宅してるに違いなかった。
それはともかく、宗方がインターホンを押してすぐに、お手伝いの藤山花子の声がし、やがて、花子が宗方たちの前に姿を見せては、宗方たちは程なく、以前の東屋で話をすることになった。徳三は以前と同じく、東屋の籐椅子に深々と腰を下ろしていた。
そんな徳三は、宗方の姿を眼に留めると、
「重秀を殺した犯人にもう目星がつきましたかね?」
と、気難しげな表情を浮かべては言った。
そんな徳三に、
「実はですね。先程、菊川秀明さんが築地署にやって来ては、色々と興味深い話を聞かせていただいたのですよ」
と、宗方が言うと、徳三の言葉は詰まった。
そんな徳三に、宗方は、
「菊川秀明さんは、国松さんの実子であるそうですが、では、国松さんには、菊川さん以外にも、実子がおられるのですかね?」
と、徳三の顔をまじまじと見やっては言った。
徳三はといえば、そんな宗方の言葉に気難しげな表情を浮かべては言葉を発そうとはしなかった。
それで、宗方は、
「僕の問いに、正直に答えていただきませんかね」
と、些か強い口調で言った。
すると、徳三は、国松から眼を逸らせては、
「いるよ」
と、蚊の鳴くような口調で言った。
すると、宗方は些か満足そうに小さく肯いた。捜査が一歩前進したと実感したからだ。
「では、その人物は、何という方なんですかね?」
「金丸徳丸というんだ」
徳三は宗方から眼を逸らせたまま、いかにも決まり悪そうに言った。
「金丸徳丸さんですか。その金丸徳丸さんは、今、何処で何をしてるのですかね?」
宗方は好奇心を露にしては言った。
すると、徳三は宗方を見やっては、
「知らん」
と、厳しい表情で言った。
「知らん、ですか……。ということは、国松さんは、徳丸さんとは今は、全く付き合いがないのですかね?」
「今だけではなく、徳丸が生まれて以来、わしは徳丸とは全く付き合いはないよ。
だから、徳丸が今、何処で何をしてるのか、まるで知らんのだよ」
と、徳三は渋面顔を浮かべては、淡々とした口調で言った。
「ということは、最近では徳丸さんは、国松さんたちに全く連絡を取って来なかったのですかね?」
と、宗方が徳三の顔をまじまじと見やっては言うと、徳三は、
「そうだ」
と、宗方から眼を逸らせては言った。
すると、宗方は〈それはおかしい〉と思った。
というのは、秀明によると、金丸徳丸という男は、徳三か重秀のどちらかに、秀明が「上海苑」で働いているという情報を入手したに違いないと言ったからだ。それ故、ここしばらくの間で、徳三か重秀が、徳丸に秀明の情報を流したに違いないからだ。
それで、宗方はその思いを徳三に言った。
すると、徳三は宗方を見やっては、
「わしは徳丸にそのようなことを話してはいないよ」
と、素っ気なく言った。
「では、重秀さんがそのことを徳丸さんに話したのでしょうかね?」
「わしは、重秀からそのような話を聞いたことはないな。しかし、重秀が話さなかったとまでは断言は出来ないな」
と、徳三は再び素っ気なく言った。
「ということは、重秀さんは、徳丸さんの存在を知っていたのですか?」
「ああ。そうだ。わしが重秀に秀明のことを初めて話したのは、今から五年程前のことだったが、その一ヶ月後に、わしは重秀に徳丸のことを話したんだよ」
と、徳三は宗方から眼を逸らせては、決まり悪そうに言った。
「成程。となると、秀明さんが『上海苑』で働いていたということを、徳丸さんは重秀さんから聞いて知ったのかもしれませんね」
と、宗方は些か納得したように肯いた。
すると、徳三は、
「だから、そこまでは分からんのだ。しかし、宗方さんは徳丸が何かの事件に関係してると思われてるのかな?」
「国松さんはそれに関して、秀明さんから秀明さんの推理を聞かされていないのですかね?」
と、宗方は怪訝そうな表情を浮かべては言った。宗方は、そのことを徳三は、秀明から聞かされていたと思っていたのだ。
そう宗方に言われると、徳三は宗方から眼を逸らせては、何も言おうとはしなかった。
それで、宗方は、
「秀明さんによると、重秀さんを殺したのは、徳丸さんではないかというのですよ。その推理を秀明さんは国松さんに話したと言っていたのですがね」
と、徳三に言い聞かせるかのように言った。
徳三はといえば、宗方からそのように言われても、宗方から眼を逸らせては何も言おうとはしなかった。そんな徳三は、正に言及されたくないことに言及されたと言わんばかりであった。
そんな徳三に、宗方は、
「国松さんの意見を聞きたいのですがね。つまり、国松さんも秀明さんと同様、重秀さんを殺したのは、徳丸さんだと思っておられますかね?」
と、徳三の顔をまじまじと見やっては言った。
すると、徳三は真剣な表情を浮かべては、
「そのようなことを訊かれても、わしでは分からんよ」
と、いかにも決まり悪そうな表情を浮かべては言った。
そう徳三に言われ、宗方も決まり悪そうな表情を浮かべたが、秀明と同様、その金丸徳丸という徳三の実子が、重秀を殺した可能性は、充分にあると思った。それ故、徳丸を見付け出し、徳丸を訊問しなければならないだろう。
それ故、徳丸を見付け出す糸口を見出そうとした。
「失礼なことを訊くかもしれませんが、国松徳丸さんは、国松さんの愛人が産んだとのことですが、その徳丸さんが生まれるのを国松さんは望んでおられたのですかね?」
「いや。そうじゃないんだ! その女は、金丸徳子といったんだが、徳子はわしに内緒で徳丸を産みやがったんだ。生まれてから、徳丸のことをわしに言ったんだよ」
と、徳三はいかにも不快そうに言った。
「成程。で、金丸徳子さんは、国松さんの愛人だったのですよね?」
「まあ、そんな感じだったかな」
と、徳三は宗方から眼を逸らせては、いかにも決まり悪そうに言った。
即ち、菊川秀明と金丸徳丸の出生の経緯の違いは、秀明の場合は徳三がバーのホステスを無理矢理犯した為に生まれてしまったのに対して、徳丸の場合は徳三と徳子が合意の下で性交した結果生まれたということであろう。
しかし、秀明の場合も徳丸の場合も、徳三の望まぬ出生だったことは間違いないであろう。
それはともかく、宗方は、
「で、その金丸徳子という女性は、今も生きておられるのですかね?」
徳子の存在が分かれば、徳丸の居場所も分かるのではないかと思ったのだ。
すると、徳三は、
「知らん」
と、素っ気なく言った。
「ここしばらくの間、国松さんは徳子さんと、何ら付き合いはないのですかね?」
「ああ。そうだ。ここしばらくの間どころか、もう三十年以上付き合いはないよ。徳子が徳丸を産んですぐ、わしは徳子に手切れ金を渡しては別れたんだ。だから、わしは徳子が今、何処で何をしてるのか、てんで知らんのだよ」
と、今の徳三にとって、金丸徳子は何ら関係のない人間だと言わんばかりに言った。
「では、金丸徳子さんは、水商売の女性だったそうですが、何処にある何という店で働いてたのですかね?」
「新宿にあった『椿姫』というクラブだったと思うが、その店はも二十年以上前に無くなったよ」
と、徳三はさして関心がなさそうに言った。
そう徳三に言われ、宗方は落胆したような表情を浮かべたが、
「では、金丸徳子さんは何処に住んでいたのですかね? また、その後、結婚はされたのでしょうかね?」
「そいつは、台東区に住んでいたよ。だが、わしはそいつと別れてからのことは知らんのだよ。だから、結婚したかどうかなんてことは、分からんのだよ」
と、渋面顔を浮かべては言った。
「では、金丸徳子さんのことで、他に何か分かってることはないのですかね?」
と、宗方が言うと、徳三は、
「もうないよ」
と、素っ気なく言った。
すると、高野刑事が、
「では、秀明さんのお母さんが、国松さんの愛人だった徳子さんと国松さんとの間の子供がいたことを知っていたそうですが、それは何故でしょうかね?」
と、徳三を見やって字は言った。
すると、徳三は少しの間、言葉を詰まらせたが、やがて、
「菊川豊子も金丸徳子も、水商売で生きていた人間だから、その線で横に繋がりがあったのではないのな」
と、淡々とした口調で言った。
そういう風にして、宗方と高野刑事は、徳三に何だかんだと聞き込みを行なったのだが、結局、徳丸に関する情報は、殆ど入手することは出来なかった。
それで、この辺で一旦、国松邸を後にすることになった。
2
国松邸を後にすると、高野刑事は、
「本当に国松さんは、徳丸さんが今、何処で何をしてるのか、知らないのでしょうかね?」
と、些か納得が出来ないように言った。
「何とも言えないな」
宗方は決まり悪そうな表情を浮かべては言った。
だが、高野刑事は、
「僕は国松さんは今、徳丸さんが何処で何をしてるのかを知っていると思いますね。にもかかわらず、それを話さなかったのは、幾ら認知していないといえども、徳丸さんは国松さんの血を引いた実子なのですから、徳丸さんを警察に逮捕させたくなかったのではないですかね。ですから、徳丸さんの情報を我々に話さなかったのではないですかね」
と、その可能性は十分にあると言わんばかりに言った。
「成程。確かに、その可能性がないとは思えないな」
と宗方は言っては、小さく肯いた。
だが、
「だが、そうだからといって、国松さんに無理矢理話させるわけにはいかないさ。国松さんが徳丸さんの居場所を知っているという証拠は何もないのだから」
と、いかにも決まり悪そうな表情を浮かべては言った。
「じゃ、我々はどうやって、徳丸さんの見付け出すのですかね?」
「だから、徳丸の母親の金丸徳子を見付け出すんだよ。そして、徳子から徳丸を見付け出すのさ。
徳子は台東区に住んでいたとのことだから、今も住んでいるかもしれないよ」
ということになり、早速、区役所で金丸徳子のことを問い合わせてみた。
すると、あっさりと金丸徳子の戸籍は見付かった。それで、家族状況を調べてみると、確かに徳子の長男に金丸徳丸という男性がいることが分かった。だが、父親
のらんは、空白になっていた。
だが、これによって、金丸徳子の居場所は明らかにはなったが、残念ながら、徳子は五年前に死亡していた。また、徳子は生涯独身で、また、徳丸以外に子供はいなかった。
これらのことから、徳子の線から徳丸の存在を突き止めるという目論見は失敗に終わったようだ。
しかし、徳子には姉がいた。
その姉は町田澄子という姓名であることも分かったので、町田澄子から話を聞いてみることにした。因みに、町田澄子は、大田区に住んでいた。
それで、大田区の「桜コーポ」というマンションの三階住んでいる町田澄子宅に行き、澄子から話を聞いてみることにした。
3
宗方の前に姿を見せた澄子は、七十の半ば位の年齢と思われたが、髪を茶色に染め、厚化粧をしていた。
そんな澄子に、宗方は自らの身分を名乗った後、
「実は、町田さんの妹の徳子さんの子供である金丸徳丸さんのことで訊きたいことがあるのですがね」
そう宗方が言うと、澄子は表情を曇らせた。そんな澄子は、訊かれたくないことと訊かれたと、言わんばかりであった。
そん澄子に、宗方は、
「町田さんの妹の徳子さんは、五年程前に亡くなられたのですが、では、その息子の徳丸さんの連絡先は分からないですかね?」
と、いかにも神妙な表情を浮かべては言った。
すると、澄子は、
「分からないですね」
と言っては、眉を顰めた。
「ということは、町田さんは徳丸さんとは、付き合いはないのですかね?」
「ないですね。妹が亡くなってから、徳丸君は何処で何をしてるのか、まるで知らないですね」
と、澄子は淡々とした口調で言った。
そう澄子に言われ、宗方は落胆したような表情を浮かべた。当てにしていた澄子にそう言われ、これによって、徳丸を見付け出す手段が無くなってしまったと思ったからだ。
だが、宗方は、
「徳丸さんには、正式な父親がいなかったのですかね?」
「そうです」
と、澄子は宗方から眼を逸らせては、言いにくそうに言った。
「では、失礼な言い方になりますが、徳子さんは妾さんのような存在だったのですかね?」
宗方はそのことは分かっていたが、とにかくそう言った。
すると、澄子は、
「まあ、そんな感じだったみたいですね」
と、淡々とした口調で言った。
「では、徳丸さん父親は、どのような人物だったと徳子さんは言っておられましたかね?」
と、宗方が言うと、澄子は何ら躊躇うことなく、
「お金持ちの大学の先生だったと聞いていましたね」
そう澄子から言われ、宗方は小さく肯いた。今まで宗方たちが事実だと確認していた事柄を改めて事実だと確認出来たかららだ。
それはともかく、
「徳丸さんとは、どんな人物だったのですかね?」
と、宗方は言うと、澄子の表情は、再び曇った。そんな澄子は、徳丸のことを話題にしたくないと言わんばかりであった。
そんな澄子は少しの間、言葉を詰まらせた後、
「私はあの子のことを好きではなかったですね」
と、渋面顔で言った。
「それはどうしてですかね?」
宗方は興味有りげに言った。
「性格がひねくれていましたからね。小さい頃から、よく同級生を虐めたり、また、万引きなんかもよくやってたみたいですからね。
中学生時は、女の子に悪戯をして、補導されたこともありますよ。
まあ、正式の父親のいない子でしたから、ひねくれた性格になったのだと思いますがね」
と、澄子は決まり悪そうに言った。
そう澄子に言われ、宗方は小さく肯いた。何故なら、今の澄子の話からも、重秀を殺したのは、徳丸である可能性が高いと思ったからだ。徳丸という男は、殺しを行なっても不思議ではないような性質の男だということが分かったからだ。
そんな宗方に、澄子は、
「徳丸が何か悪いことをやったのでしょうかね?」
と、些か不安そうな表情を浮かべては言った。
「いや。今の時点では何とも言えないですね。
しかし、徳丸さんの異母兄が何者かに刺殺されましてね。その事件絡みで、徳丸さんから話を聴きたいのですよ。それで、徳丸さんとコンタクトを取りたいのですが、まだコンタクトが取れないのですよ。それで、町田さんなら何か知ってるのではないかと思い、こうしてやって来たのですよ」
と、宗方は冴えない表情を浮かべては言った。更に、重秀が殺された経緯に関しても、説明した。
すると、澄子は、
「そういうわけだったのですか。といっても、私は今、徳丸が今、何処で何をしてるのか、まるで知らないのですよ」
と、決まり悪そうに言った。
「では、それに関して、情報を持ってそうな人物に心当りないですかね?」
「そうですねぇ。徳丸は徳子が亡くなった頃、新宿にある『レオン』というパチンコ店で店員をやっていたとか言ってましたね。それ故、その線から捜査をしてみてはどうですかね」
「分かりました。じゃ、そのパチンコ店で聞き込みを行ってみますよ。
で、徳丸さんの経歴は分からないですかね?」
「確か台東区内の小、中学校を出て、高校は台東区内のM高校だった思います。
でも、高校三年の時に、先生と喧嘩をして、中退したと聞いてますね。
で、高校を中退してから、色んな仕事を転々としていたとか聞いていますが、詳しいことまでは分からないですね」
と、澄子は、もうこうこれ以上のことは何も分からないと言わんばかりに言った。
それで、宗方と高野刑事は、この辺で澄子への聞き込みを終え、澄子宅を後にした。
澄子の証言から、金丸徳丸という男が、重秀殺したという推理は一層現実味を帯びたが、徳丸を見付け出す手掛かりは得られなかった。
しかし、宗方たちは何としてでも、徳丸を見付け出し、徳丸から話を聴かなければならないのだ。何しろ、徳丸は国松重秀の事件の最有力容疑者なのだから。
それで、宗方と高野刑事は、五年前に徳丸が働いていたという新宿にある「レオン」というパチンコ店を当ってみることにした。
しかし、成果は得られなかった。
というのは徳丸は確かに五年前には、「レオン」で店員をやっていたのだが、既に辞めていて、また、徳丸と一緒に働いていた者の殆どは既に「レオン」にはいなかったのだ。
だが、徳丸のことを覚えていた男が一人いた。
その人物は、高倉尚志という今は上野店の店長をしている男なのだが、高倉は宗方に、
「正確に言えば、金丸君はうちの店を馘になったのですよ」
と、渋面顔で言った。
「馘ですか……。どうして馘になったのですかね?」
宗方は興味有りげに言った。
「うちの店の売上金を横領したのですよ。でも、すぐに発覚し、馘になったというわけですよ。
そんな金丸君のことだから、うちの店を辞めてからも、何か悪いことをしては、金を稼いでるのではないかと思っていましたよ」
と、高倉はいかにも言いにくそうに言った。
高倉の証言はここまでであった。即ち、高倉も、徳丸が今、何処で何をしてるのか知らなかったのだ。
それで、徳丸が通っていた高校の名簿を入手し、その線から捜査を進めてみたのだが、成果を得られなかった。
とはいうものの、秀明の推理、即ち、徳丸と思われる人物は、「上海苑」の関係者から、秀明が路上暮らしを行なっているということを知ったという推理に関しては、裏を取ることが出来た。
というのは、秀明が「上海苑」辞めた頃、「上海苑」に秀明のことを問い合わせて来た人物がいたので、その人物に、チーフをしていた鈴木が、
「菊川さんは、銀座辺りで路上暮らしをやってるんじゃないですかね。菊川さんはその様な事を言ってましたからね」
と冗談半分で言ったという証言を入手したからだ。
もっとも、鈴木としては、その鈴木の言葉を電話の相手が真に受けるとは思わなかったとのことだが、電話の相手、即ち、徳丸が真に受けて、実際に銀座界隈を歩き回ったところ、実際に路上暮らしをしていた秀明を見付けてしまい、事に及んでしまったというわけだ。
即ち、鈴木の証言からも、重秀を殺したのが、徳丸であった可能性は、一層高まったというわけだ。
とはいうものの、徳丸が今、何処にいるかは、依然として分からなかった。
宗方たちは今、金丸徳丸を重秀の事件の最有力容疑者と看做し、その行方を追っているのだが、その行方を摑むのは、まるで雲を摑むかのようであった。
だが、宗方たちが、徳丸の伯母である町田澄子に聞き込みを行なった四日後に、宗方たちが予想もしてなかったとんでもない事件が発生してしまったのだ。