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だが、正行が茶封筒を受取ってから三日経って、変化が見られた。というのは、その三日が経った日に正行がアルバイトを終えてアパートに戻って来ては玄関扉の鍵を開け、中に入ると、またしても玄関扉の新聞受けから以前受取ったものと同じような茶封筒が放り込まれていたからだ。
この事実を目の当りにして、正行の表情は突如、神妙なものへと変貌した。
とはいうものの、その茶封筒に何が入っているのか、まだ確認したわけではない。それで、正行は早速、何が入っているのか確認してみることにした。また、その茶封筒は以前のように些か厚みがあり、また、差出人名も受取人名も住所も書いてなかった。それ故、正行の表情は以前のように怪訝そうなものへと変貌した。
その茶封筒は以前のように封は糊付けされていた。それで、正行は慎重な手付きで茶封筒の封を切った。そして、中に何が入っているのか、確かめてみた。
すると、そんな正行の表情は忽ち一層怪訝そうなものへと変貌した。何故なら、茶封筒の中にはまたしても百五十万が入っていたからだ!
<馬鹿にされてるのか?>
正行の脳裡には、その思いが過ぎった。何故なら、こんな偶然が二度も続く筈がないからだ。即ち、百五十万も入った茶封筒が二度も誤って正行の室に放り込まれる筈はないからだ。こんな間違いが偶然に発生する筈はないのだ! 茶封筒を入れた入れ主は、この室に正行が住んでいることを確認して入れたのだ!
しかし、こんな馬鹿なことが有り得るだろうか?
正行はそう思うと、正に狐につままれたような心境となった。
それで、その茶封筒にこの理由を明らかにしたメモが添えられてないか、確かめてみたが、そのようなメモは見付からなかった。また、この一万円札が偽札ではないかと確かめてみた。だが、偽札ではないことは明らかであった。
この信じられない事態に直面して、正行はどうすればよいかと、以前のように迷った。
そして、その迷いはしばらくの間続いたが、やがてその迷いは迷いではなくなった。即ち、正行は受取ったこの百五十万を以前のように自らのものにすることを早々と決意したからだ。即ち、誰かがこの百五十万のことを問合せて来ても知らぬ存ぜぬで押し通し、また、警察にも届けないというわけだ。即ち、百五十万入りの茶封筒を正行の室に放り込んだ者が悪いのであって、正行は悪くないというわけだ。
そう思うと、正行は何だか嬉しくなって来た。何しろ、まるでこの六日間の間で思ってもみなかったお金を手にしたからだ。そんな正行がこの三百万を何に使おうかと、浮き浮きしながら思いを巡らすのは自然の成り行きのようであった。そんな正行であったから、アルバイトをしてる時でも、つい浮き浮きしてしまい、その正行の思いがつい正行の表情に出てしまうという塩梅であった。それ故、アルバイトの同僚から、
「何かよいことがあったのかい?」
と、訊かれてしまう位であった。そして、正行はその問いに、
「何でもないさ」
と、答えたのであった。
そして、その日、即ち、正行が得体の知れない者から二回目の百五十万を受取ってから二日経ったその日、正行はいつも通り、正行の安アパートに戻って来た。そんな正行はその頃、その三百万の使い道を凡そ決めていた。即ち、十万で液晶TVを買い、後の二百九十万を今度は株式投資に充てることにしたのだ。正行は嘗てギャンブルでは痛い目に遭っていた。それで、ギャンブルはもう足を洗ったつもりであった。それ故、株式投資もギャンブルと看做せないこともないので、株式投資などに手を出すべきではないのだが、株式投資はやはりパチンコ、競馬とは性質が違うというものだ。株式投資は、パチンコ、競馬とかいうギャンブルとは違って、偶然には支配されないのだ! 株が上がったり下がったりするのは、必然的なものなのだ!
最近、殊に株式投資に興味を持ち始めた正行は、株に関する本などを読んで勉強した結果、正行はそう結論付けたのである!
それ故、液晶TVを買った残りの二百九十万を株式投資に充てることに決めたのである。
それで、今日もアパートに戻ってから、最近いつも行なってるように、正行が投資する銘柄の選別を始めようかと思いながら、玄関扉を開けた。そして、いつも通り、誰もいない部屋の中に入った。といっても、今日はアルバイト先から、携帯に連絡が入った。その内容は、今日は休暇日にしてくれというものであった。それで、正行は正行の室を後にして二時間後に戻って来たのであった。
部屋の中は当たり前のことだが、正行が朝、この部屋を後にした時と何ら変わりはなかった。それで、正行はとにかく着替えを終え、いつも通り六畳間の薄汚れた絨毯の上に腰を下ろし、そして、傍ら置いてあった株の本を手にしては眼を通し始めた。そして、二分経った頃、四畳半の部屋の方で少し物音がした。正行はその物音を確かに耳にしたので、立ち上がり、四畳半の部屋に向かった。すると、正行の表情は突如、強張った。何故なら、予期せぬ人物が正行の前に現われたからだ。すると、その人物は突如、正行の脳天をハンマーで殴打した。
<痛い!>
そう思ったのが最後であった。正行はその後、二度と意識が戻ることはなかったのである。