3 進まぬ捜査
その一方、伊原間サビチ洞での捜査も行なわれていた。
正次が、伊原間サビチ洞にやって来ては、伊原間サビチ洞見物に乗り出したのは、間違いなかった。何故なら、伊原間サビチ洞の切符販売係である渡辺芳子が、正次が切符を買い、伊原間サビチ洞見物に乗り出したのを覚えていたからだ。
即ち、正次が伊原間サビチ洞の中で、賊に襲われ、殺されたのは、明らかなのだ。
ということは、正次の後から伊原間サビチ洞の中に入ったものが、犯人ということになる。
その点を踏まえて、石垣署の末吉は、芳子から話を聞いてみた。
すると、芳子は、
「仲本さんの後、伊原間サビチ洞の中に入ったのは、四人だと思われますね」
と、眉を顰めた。
「思われるとは?」
末吉は、眉を顰めては言った。芳子の言ったことの意味が、今一つよく分からなかったからだ。
「ですから、私の眼を盗んで、鍾乳洞の中に入ることは有り得るわけですよ。いわば、入場料を払わずに中に入るというわけですよ。何しろ、仲本さんが被害に遭った日は、入場券売り場の係員は、私一人しかいなかったものですから」
と、芳子はいかにも決まりそうに言った。
「では、その四人の中に犯人がいる可能性はあるというわけですね」
すると、芳子は言葉を詰まらせた。その点に関しては、芳子は何とも言えなかったからだ。
そして、芳子はその旨を末吉に言った。
すると、末吉は、
「では、その四人の中に不審な人物はいましたかね?」
と言っては、眉を顰めた。
すると、芳子は、
「私の見た限りでは、特に不審な人物はいなかったように思うのですがね」
と、決まり悪そうに言った。
「その四人の中に、サングラスを掛けてるような人物はいなかったのですかね?」
「そのような人物はいなかったですね。その四人は、全て男性でしたね。そして、その四人の中の一人は、私に仲本さんのことを知らせてくれた男性です。そして、それ以外の三人の男性に関しては、たとえ写真を見せられても、分からない位覚えていないのですよ。一々お客さんの顔をじっくりと見ているわけではないですからね」
と、芳子は再び決まりそうに言った。
そう芳子に言われ、末吉も決まり悪そうな表情を浮かべた。仲本より後に伊原間サビチ洞に入った者が犯人である可能性は、極めて高いのだが、しかし、その人物のことに的を絞れないとなれば、捜査は進展しないというものだろう。
伊原間サビチ洞内で、頭を鈍器で殴られ、殺された末吉は、波照間島でサトウキビを作っては生計を立てていた他人の恨みを買うことはないような男性であった。
何故そのような男性が、伊原間サビチ洞内で殺されなければならないのか? その犯人に対する情報は、今の時点では、まるでないのだ。
果たして、この事件は解決するのだろうか?
末吉がそう思うのも、決しておかしくはなかった。