4 意外な事実
すると、それは程なく明らかになった。
そして、その事故のことを改めて記すと、七月四日の午前七時頃、かなやま湖キャンプ場の野外ステージ近くの湖底に、男性の死体が沈んでるのを、キャンプに来ていた男性が発見し、管理人に届け出たが、男性は既に水死していた。その男性が、帯広市で中学の教員をやっていたという秋草春雄で、事故死として処理されていたということが明らかになった。
しかし、今、調書に眼を通してみると、甚だ興味深い事実も明らかになった。というのは、秋草をかなやま湖から陸揚げする時に立ち会っていた人物の中の一人に、高垣孝太郎の名前があったからだ。確かに、この事実は注目すべき事実であった。
それはともかく、鬼頭はまず秋草と共にかなやま湖にキャンプに来ていたという妻の冬子から話を聞いてみることにした。
「私は今でも納得が出来ないのですよ」
と、冬子はいかにも納得が出来ないように言った。
「何が納得が出来ないのですかね?」
鬼頭はいかにも興味有りげに言った.
「ですから、主人がかなやま湖に落ちて、水死したということですよ」
と、冬子は再びいかにも納得が出来ないように言った。
「でも、調書にはご主人は酒を飲んでいた為に誤まって足を踏み外してしまった可能性ありと記されていたのですがね」
と言っては、鬼頭は眉を顰めた。
「そりゃ、その可能性が全くないと思えません。でも、酒を飲んだといっても、主人が飲んだのは、ビール500CC位ですし、それに、主人は決してお酒は弱い方ではありませんでした。それに、中学の教員でしたから、自らの行動に関しては、責任ある行動をとっていたと思います。
それなのに、軽率にも足を踏み外したなんて、私には信じられないのですよ」
と、冬子はいかにも納得が出来ないように言った.
「なるほど。しかし、ご主人の死は水死であったことは間違いないのですがね」
「そりゃ、分かってます」
と、冬子は憮然とした表情で言った。
そんな冬子に、鬼頭は、
「で、そのご主人の事故が関係してるかどうかは、まだ何とも言えないのですが、一昨日とんでもない事件が発生してしまったのですよ」
と、鬼頭はいかにも決まり悪そうに言った。
「とんでもない事件? それ、どういったものですかね?」
冬子はいかにも好奇心を露にしては言った。
「ご主人の遺体がかなやま湖で陸揚げされる時に居合わせていた三人の男性の中の一人である高垣孝太郎さんが、一昨日、帯広の緑ヶ丘公園の四百メートルベンチの上で、絞殺体で発見されたのですよ!」
と、鬼頭は力を込めて言った。そんな鬼頭は、正にその高垣の事件が秋草春雄の事件に関係してると言わんばかりであった。
「それ、本当ですか?」
冬子は眼を丸くして言った。
「本当ですよ。どうして、僕が嘘をつかなければならないのですかね」
と、鬼頭は薄らと笑みを浮かべては言った。
「私はその四百メートルベンチの事件は知ってます。しかし、まさか、その高垣という人が、主人の死体が発見された場所に居合わせていた人物なんて、思ってもみませんでした!」
と、冬子はいかにも驚いたと言わんばかりに言った。
そんな冬子を見て、鬼頭は小さく肯き、
「で、我々はその高垣さんの事件が、秋草さんの事故に関係してるのではないかと思うのですよ」
と言っては、小さく肯いた。そんな鬼頭は、正にその可能性は十分にあると言わんばかりであった。
すると、冬子も、
「私もそう思いますよ」
と、まるで鬼頭に相槌を打つかのように言った。
「でも、どう関係してるのかまでは、よく分からないのですよ。で、それに関して、奥さんは何か思うことはありませんかね?」
と、鬼頭は冬子の顔をまじまじと見やっては言った。
すると、冬子は少しの間、言葉を詰まらせて何やら思いを巡らすような仕草を見せたが、やがて、
「それがないのですよ」
と、いかにも申し訳なさそうに言った。
すると、鬼頭は渋面顔を浮かべた。鬼頭は冬子から何か有力な情報を入手出来るのではないかと期待していたからだ。
そんな鬼頭は、
「高垣さんとご主人の間に、知人関係はなかったのですかね?」
と言っては、眉を顰めた。
「ないとは思いますが」
「ないとは思いますとは?」
「私は主人の知人のことを全て知ってたわけではないので」
と、冬子は決まり悪そうに言った.
「それもそうですね」
と言っては、鬼頭は眉を顰めた。
そんな鬼頭に、冬子は、
「でも、やはり、その高垣さんの死は、主人の死に関係してそうな気がしますよ」
「では、奥さんはどのように関係してると思うのですかね?」
「そう言われると、分からないのですが……」
と、冬子は決まり悪そうに言った。
そして、二人の間に少しの間、沈黙の時間が流れたが、やがて、鬼頭は、
「ご主人の遺体が発見された場所には後、二人の男性が居合わせていたのですが、そのことを覚えていますかね?」
「覚えていますよ」
「その二人の様子はどんなものでしたかね?」
「どんなものとは?」
そう冬子に言われると、鬼頭は言葉の返しようがなかった。それで、この辺で冬子への聞き込みを終え、次にその二人に会って話を聞いてみることにした。