7 明らかになった教員の死

 そして、その鬼頭の読みはあたった。鈴木は最初の内は、この動画を見せても、何だかんだと下手な誤魔化しを行なっていたが、しかし、この動画を拡大表示してみれば、誰が見ても鈴木と分かるものだった。それ故、この決定的な証拠を突きつければ、もう逃れられないと、看做したのか、真相を話したのだ。
「あの夜、僕と相川君は、秋草さんと、全く些細なことで喧嘩になってしまったのですよ」 
 と、鈴木は鬼頭から眼を逸らせては、いかにも決まり悪そうに言った
「些細なこと? それはどういうことなのか、説明してくれないかな」
 と、鬼頭は鈴木の顔をまじまじと見やっては言った。
「立小便ですよ。あの夜、僕は小便をしたくなったので、トイレではなく、芝生の上でしてしまったのですよ。まあ、辺りには誰もいなかったし、また、夜だったので、大丈夫だと思いまして……。
 ところが、僕の眼に入らなかっただけで、実は近くに秋草さんがいて、僕が小便をするのを秋草さんは見ていたのですよ。
 僕は秋草さんに見られてしまったので、些か恥ずかしかったのですが、それだけなら、僕たちと秋草さんとの間にトラブルは発生しなかったのですが、秋草さんは何と、僕に、
『こんな所で立小便をするとは、何事だ!』
 と、僕を怒鳴りつけたのですよ。
 それで、僕はついかっとしてしまい、
『その程度のことで、人を怒鳴りつけるんじゃない! あんただってやってるんじゃないのか!』
 と、言い返してやったのですよ。
 すると、秋草さんは、
『何だと! この馬鹿野郎め!』
 と、再び僕を怒鳴りつけたので、僕と相川君はその後、何だかんだと秋草さんとやりあっていたのですが、秋草さんを何度も僕をまるで悪戯をした子供を叱りつけるかのような言い方をするので、僕たちはついかっとして、秋草さんをかなやま湖に突き落としてやったのですよ」
 と、鈴木はいかにも決まり悪そうに言った。そして、
「でも、まさか死ぬなんて、思ってもみなかったのですよ」
 と、頑なに主張した。
 そして、その主張が認められ、鈴木は相川と共に、過失致死の疑いでまず逮捕された。
 だが、鈴木は高垣孝太郎殺しは頑なに否定した。飽くまで、秋草春雄に対する過失致死だけで、高垣孝太郎の死には、何ら関係ないと主張したのだ。
 それで、今度は相川から話を聴いてみることにした。 
 相川も、鈴木と同様、秋草に対する過失致死の疑いで、逮捕されていた。
 しかし、相川も、高垣の死に関しては、頑なに無関係を主張したのだ。 
 もっとも、鬼頭を始めとする捜査陣は、その鈴木と相川の主張を信じてはいなかった。
 高垣の死は、鈴木と相川によってもたらされたと、確信していたのだ。 
 即ち、高垣は密かに携帯電話で撮影した動画をねたに、鈴木と相川をゆすった。おそらく、金品を要求したのだろう。
 それで、鈴木と相川は、そんな高垣のゆすりに応じた振りをし、高垣を殺し、四百メートルベンチに遺棄したというわけだ。これが、事件の真相だと、推理していたのだ。
 しかし、それは飽くまで推理に過ぎず、具体的な証拠はまだ何もなかった。 
 それで、高垣の妻の早苗に、高垣が鈴木や相川と思われる人物をゆすってはいなかったか、確認してみた。
 だが、早苗はそのようなことに、まるで心当たりないと証言した。
 それで、高垣の部屋の中が捜査されることになった。高垣が鈴木と相川をゆすっていなかった確認する為だ。
しかし、その捜査は、成果を得られることは出来なかった。
 さて、困った。かなやま湖キャンプ場で発生した秋草春雄の事件は、高垣孝太郎が密かに撮影した携帯電話の動画により、その死の真相は明らかになったのだが、高垣の死の真相は、依然として闇の中だ。果たして、高垣の死の真相は、明らかになるのだろうか?

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