3 有力な情報

 正志の話を聞いてると、正に正志が末吉殺しの犯人に仕立てられたかのようである。そして、与那嶺という人物が真犯人であるというわけだ。
 となると、真犯人は、正志が末吉を恨んでいたということを知っていなければならない。そうでなければ、正志を久米島に呼び出し、犯人と思わせる偽装工作は出来ないからだ。
 それで、改めて、末吉の妻だった末吉佐知代から話を聴いてみた。しかし、佐知代は以前と同じく、福岡の中村正志しか思い当たらないという。
 それで、末吉の仕事仲間だった者に聞き込みを行なってみた。
 しかし、特に有力な情報を入手出来なかった。
 それで、末吉の友人だった者に聞き込み範囲を広げたが、すると、興味深い情報を入手出来た。その情報を糸数にもたらしたのは、久米島で雑貨店を営んでいる沢木雄二(43)であった。沢木は、
「末吉さんとこは、親戚の仲がよくなかったみたいですよ」 
 と、神妙な表情を浮かべては言った。
「親戚の仲がよくなかった、ですか。それは、どういうことですかね?」
 糸数は興味有りげに言った。
「末吉さんの義弟と末吉さんが、度々口論してるのを眼にしたことがありますからね。その様を見てると、とても身内には見えなかったですね」
 と、沢木は神妙な表情を浮かべては、淡々とした口調で言った。
「義弟ですか……」
 糸数は呟くように言った。それは、思ってもみなかったことだったからだ。
「そうです。義弟です」
「義弟というと、末吉さんの妹の旦那ですか」
「そうですよ。又吉さんというのですがね」
 と、沢木は再び神妙な表情を浮かべては言った。
「でも、どうして仲が悪かったのですかね?」 
 と言っては、糸数は興味ありげに言った。
「さあ……。そこまでは分からないですね」
 と、沢木は眉を顰めた。
 そして、沢木はそれ以上、それに関して情報がなかった。
 それで、まずその点に関して、末吉の妻だった佐知代から話を聴いてみることにした。
 糸数の話を黙って耳にしていた佐知代は、険しい表情を浮かべては、言葉を発そうとはしなかった。そんな佐知代は、何か思うことがあるかのようであった。
 それで、糸数は、
「どんな些細なことでも構わないですから、何か思うことがあれば、遠慮なく話してくださいな」
 と、正に穏やかな表情と口調で言った。
 すると、佐知代は、
「確かに、又吉達雄さんと主人は、仲がよくなかったですね」
 と、糸数から眼を逸らせては、淡々とした口調で言った。
「どうして、仲がよくなかったのですかね?」
 と、糸数は興味有りげに言った。
「さあ、詳しいことは分かりません」
 と、佐知代は決まり悪そうに言った。
「でも、何故ご主人と又吉さんの仲がよくなかったと、奥さんは思ったのですかね?」
 と、糸数は佐知代の顔を見据えた。
「そりゃ、主人が度々又吉さんを怒鳴りつけたり、また、又吉さんが主人のことを怒鳴りつけた場面を眼にしたことがありますからね」
 と、佐知代は再び決まり悪そうに言った。
「となると、ご主人を殺したのは、又吉さんかもしれませんね」
 と、言っては、糸数は唇を歪めた。
 そう糸数が言うと、佐知代は眼を見開き、
「でも、そこまではないと思うのですが」
 と、言葉を濁した。
 佐知代の話は、この程度のものであったが、とにかく、末吉の義弟の又吉達雄とは会って話をしてみなければならないだろう。

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