4 義弟
糸数の前に現れた又吉達雄は、サラリーマン風であった。銀縁の眼鏡を掛け、些か神経質そうな感じであった。
そんな又吉に、糸数は、
「先日は、又吉さんの義兄に不幸がありまして」
と、まず悔やみの言葉を投げた。そして、
「既にご承知だとは思いますが、末吉さんは何者かに殺され、その遺体が宇江城跡で観光客によって発見されたのです」
と、又吉に言い聞かせるかのように言った。
そう糸数が言っても、又吉は言葉を発そうとはしなかった。そんな又吉は、糸数の出方を窺ってるかのようであった。
そんな又吉に、糸数は、
「で、又吉さんは、末吉さんと仲がよくなかったとのことで」
と、又吉の顔をまじまじと見やっては言った。
すると、又吉は、
「誰がそのようなことを言ってたのですかね?」
と、怪訝そうな表情を浮かべては言った。
「そりゃ、末吉さんの友人とか奥さんもそのように言ってましたよ」
すると、又吉は眼を大きく見開き、
「そりゃ、誰だって相性というものがありますからね。でも、そのようなことは別に珍しくないですよ」
と、開き直ったような表情と口調で言った。
「末吉さんと又吉さんが、口論をしてるのを度々目撃されてるのですがね」
「ですから、誰だって喧嘩位しますよ。夫婦だって喧嘩位するでしょう」
と、又吉はそれが何か問題なのかと言わんばかりに言った。
そんな又吉に、糸数は、
「我々は今、末吉さんの事件を捜査してるのですよ。で、末吉さんを殺したのは、末吉さんと仲が悪かったような人物だと思うのですがね」
と、又吉をまじまじと見やった。そんな糸数は、まるで又吉が末吉を殺した犯人であると言わんばかりであった。
そんな糸数に、又吉は、
「では、刑事さんは僕のこと疑ってるのですかね?」
そう言った又吉の表情には笑みはなかった。
その又吉の言葉を無視し、糸数は、
「では、五月十二日の午後六時から八時の間、又吉さんは何処で何をされてましたかね?」
と、まずアリバイを確認してみた。
すると、又吉は、
「その頃なら、僕は家にいましたよ」
そう又吉が言うと、糸数は、
「家にいたではねぇ」
と言っては、苦笑いした。そんな糸数は、家にいたでは、話にならないと言わんばかりであった。
すると、又吉はむっとした表情を浮かべては、
「それが事実だから、仕方ないじゃないですか!」
と、いかにも不満そうに言った。
そして、まだしばらく、又吉から話を聴いたが、特に成果を得られなかったので、この辺で又吉の許を後にせざるを得なくなってしまった。
末吉殺しの有力な容疑者として、末吉の義弟の又吉の存在が浮かび上がったが、アリバイが曖昧だけでは、無論、又吉を逮捕するわけにはいかない。
もっと有力な証拠を摑まない限り、又吉を逮捕出来ないのは、当然だ。
あるいは、又吉以外の犯人がいるのだろうか?