5 進まぬ捜査

 徳野が早苗に聞き込みを行なっていた頃、山際たちは「青龍軒」近くで聞き込みを行ない、恩田と長内夫妻の接点を捜査していた。
 だが、結局、成果を得られることは出来なかった。即ち、恩田と長内夫妻の接点を確認出来なかったというわけだ。
 その結果を受けて、長崎署内で捜査会議が開かれることになった。
 その席で徳野は徳野が早苗に対して聞き込みを行なった内容を話し、そして、
「やはり、恩田さんの死は自殺だとは思えません。やはり、殺しによるものです」
 と、改めて徳野の考えを述べた。
 すると、捜査会議に席を見せている誰もが、異議を述べなかった。それは、正に、捜査会議に出ている誰もがそう看做しているみたいであった。
 だが、山際が、
「では、恩田さんを殺したのは、誰だと徳野さんは推理してるのですかね? 『青龍軒』の長内夫妻と恩田さんとの接点は今のところ、全く確認されてないのですがね」
 と、憮然とした表情を浮かべては言った。
 そう山際に言われると、徳野は渋面顔を浮かべては言葉を詰まらせてしまった。徳野は恩田の死は殺しによるものと看做してはいたものの、では誰が殺したのかというと、それに関してまだ推測すら出来ない状態であったからだ。
 そんな徳野は、
「長内夫妻と恩田さんとの間に接点がないというのは間違いないのですかね?」
 と、いかにも気難しげな表情を浮かべては言った。
 すると、山際は渋面顔を浮かべては、
「そりゃ、絶対に接点がないとは断言は出来ませんよ。我々が捜査した限りではということですよ」
 そう山際に言われると、徳野は些か納得したように肯き、そして、
「恩田さんの死が殺しによるものなら、恩田さんを死に至らしめた青酸は、長内さんが作ったちゃんぽんの中に入っていたということに異論はないですよね」
 と、一同の顔を見回しては言った。
 すると、山際は、
「そりゃ、そう思いますよ」
 と、眉を顰めては言った。
「そうですよね。で、恩田さんが死んだ時の長内さんの行動を検証してみると、長内さんは妙な行為を行なっているのですよ。
 即ち、長内さんは恩田さんが食べたちゃんぽんを我々が来る前に片付けてしまってるのですよ。この行為は正に妙です。通常、このような行為は行ないませんよ」
 と、徳野も眉を顰めて言った。
「そりゃ、そう思わないこともないですが、長内さんによると、まさか長内さんが作ったちゃんぽんに青酸が入っていたなんて思いもしなかったから、片付けてしまったと言ってました。そして、その説明にも納得出来るものはありますからね」
 と、山際は些か徳野に反発するかのように言った。
 そう山際に言われると、徳野は渋面顔を浮かべては言葉を詰まらせた。
 そのような調子で活発な意見が交わされたのだが、結局、長崎署としては恩田の死はまだ自殺とは断定出来ないということとなった。
 それ故、まだしばらく恩田の知人なんかに聞き込みを行なってみることとなった。

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