9 愛人の証言

「太陽マンション」は五階建てのマンションで、間取りは2DK位と思われた。そして、不動産屋によると、賃料は凡そ九万位だそうだ。そして、その九万という負担は峰岸の給料では払えそうもないと思われた。というのは山際たちの捜査によって既に峰岸の給料は明らかになっていたのだが、それは手取り三十四、五万程であった。妻の恵子はパートで働いてるとはいえ、毎月十万近い住宅ローンを抱えてるともなれば、その九万の支払いは峰岸にとって支払い困難な金額と思われた。
 それはともかく、山際は石野真美宅のインターホンを押した。
 山際がインターホンを押して三十秒経って応答があった。それで、山際は自らの身分を名乗った。
 すると、その三十秒程経った頃、玄関扉が開いた。そして、均整の取れたプロポーションを持ち、髪を少し茶色に染めた美形の女性が姿を見せた。それが、峰岸が囲ってるという石野真美であろう。
 そんな女性に山際は警察手帳を見せては、その女性が石野真美であることを確認してみた。すると、その確認は取れた。
 そんな真美に山際は、
「石野さんは峰岸豊さんを知ってますかね?」
 山際がそう言うと、真美の顔は曇った。そんな真美は、訊かれたくないことを訊かれてしまったと言わんばかりであった。
 真美がその山際の問いに答えようとしないので、山際は同じ問いを繰り返した。
 すると、真美は、
「知ってることは知ってますが」
 と、些か顔を赤らめては小さな声で言った。
 すると、山際は小さく肯き、そして、
「峰岸さんと石野さんの関係はどのようなものですかね?」
 と、真美の顔をまじまじと見やっては訊いた。
 すると、真美の表情は一層曇った。そんな真美は何故そのようなことを訊かれなければならないのかと言わんばかりであった。
 案の定、真美は、
「何故そのようなことを訊かれなければならないのですかね?」
 と、その美形の顔には似合わないような不貞腐れた表情を見せては言った。
「我々は今、ある事件を捜査してましてね。そして、その事件に峰岸さんと石野さんの関係が関係してるかもしれないのですよ」
 と、山際は真美の顔をまじまじと見やっては言った。
 すると、真美は、
「一体何故その事件に、峰岸さんと私の関係が関係してるというのですかね? それに、それ一体どういった事件ですの?」
 と、いかにも納得が出来ないような表情と口調で言った。
「それはお金のことが関係してるのですよ。何しろ、石野さんはこのマンションの家賃を峰岸さんに負担してもらってるとのことだし、それにトヨタの高級車を峰岸さんから買ってもらったとのことですからね」
 と、山際は再び真美の顔をまじまじと見やっては言った。
 すると、真美の顔は歪んだ。そして、山際から眼を逸らせては言葉を詰まらせた。そんな真美を眼にすると、そのようなことは決して口外しないようにと、峰岸から口止めされてるかのようであった。
 そんな真美に山際は、
「我々は今、殺人事件を捜査してるのですよ。そして、その殺人事件に石野さんも関係してるかもしれないのですよ」
 と、いかにも険しい表情を浮かべては、真美を脅すように言った。
 すると、真美は、
「私が関係してる? 何故私が関係してるというのですかね?」
 と、いかにも真剣な表情を浮かべては言った。
「ですから、お金ですよ。峰岸さんから石野さんに渡ったお金が、その殺人事件に関係してるかもしれないということですよ」
 と、山際は再び真美を脅すように言った。
 すると、真美は、
「分からないですね。刑事さんの言ってることは」
 と、いかにも渋面顔を浮かべては言った。
「ですから、峰岸さんから山際さんに渡ったお金が絡んで殺人事件が発生した可能性があるといってるわけですよ。それ故、石野さんが今、峰岸さんからお金を受け取ってることを正直に認めずに後でそのことが判明したとなれば、石野さんは罪に問われることになるかもしれませんよ」
 と、山際はいかにも険しい表情を浮かべては真美を脅すように言った。
 すると、真美はあっさりとそれ、即ち、真美は毎月、峰岸から小遣いを貰って峰岸の愛人になってることを認めた。
 すると、山際は些か満足したように小さく肯き、そして、
「石野さんは毎月、峰岸さんから幾らお小遣いを貰ってるのですかね?」
「二十万位ですね」
「家賃を別としてですかね?」
「そうです」
 と、真美は眉を顰めて言った。
「石野さんは峰岸さんがその二十万をどのように工面してるのか、考えたことはありますかね?」
 山際は、真美の顔をまじまじと見やっては言った。
 すると、真美は、
「峰岸さんは会社の役員をやってられると聞いてましたから、それ位のお金は出せると思ってました」
 と、真美は平然とした表情を浮かべては言った。
「では、峰岸さんが働いている会社のことをご存知ですかね?」
「いいえ。名前までは知りません。でも、大きい会社だと聞いてます。そうでなければ、私を囲えないでしょうからね」
 と、真美は再びあっけらかんとした表情を浮かべては言った。
 その真美の証言によって、事の凡そが明らかになった。即ち、峰岸は真美に嘘をつき、真美を囲っていたというわけだ。
 そして、この辺で山際は真美に対する聞き込みを終えることにした。そして、真美に聞き込みを行なって、事件解決に一歩近付いたことを実感したのであった。
 真美の証言から、峰岸が真美に月に二十九万程の小遣いを与えていることが明らかとなった。そして、その金額は手取り三十四、五万といわれる峰岸の給料では不可能だと思われた。
 となると、峰岸は給料以外の金を入手していたと思われる。そして、その給料以外の金が会社からの横領金というわけだ。
 即ち、これによって、峰岸に対して、恩田殺しの重要参考人として堂々と訊問を行なえるというわけだ。

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