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 弓場たちの捜査は、最初の内はなかなか思うようには行かなかった。
 とはいうものの、その捜査はやがて成果を得ることが出来た。というのは、和美の友人たちに聞き込みを行なってる内に、和美の小学校時代の友人の中林美香という女性が、外山外科で看護婦をしていたという証言を入手したからだ。
 それで、弓場たちは早速、釧路の米町公園の近くにあるという美香の家を訪ねてみることにした。
 そんな美香宅を訪れたのは、午後八頃であったのだが、弓場は美香と少し話しただけで、薄らと笑みを浮かべてしまった。何故なら、美香の声は、和美の部屋で見付かったテープの声の女性であるに間違いないという確信を得たからだ。
 そんな美香は、弓場が道警捜査一課の刑事だと知って、緊張したような表情を浮かべた。
 そんな美香に構わず、弓場は、
「中林さんは、外山外科で働いていますよね」
 そう弓場が言うと、美香は、
「いいえ」
 と、頭を振った。
 そんな美香の言葉を受け、弓場の表情は、曇った。今の美香の言葉は、弓場の思ってもみないものであったからだ。
「では、以前働いていたことがありますよね」
 そう弓場が言うと、美香は、
「ええ」
 と、小さく肯いた。
 すると、弓場も小さく肯いては、
「では、中林さんの友人であった沢井和美さんが風蓮湖の近くで何者かに殺されたという事件のことを、中林さんはご存知ですよね」
 と、美香の顔をまじまじと見やって言うと、美香は、
「ええ」
 と、小さな声で言っては、弓場から眼を逸らせた。
 そんな美香に、弓場は、
「で、沢井さんは何者かに首を絞められて殺されたということが、司法解剖の結果、明らかになってるのですが、そのことを中林さんはご存知ですかね?」
「ええ」
 美香は小さく肯いた。
「では、中林さんは、その犯人に心当りありませんかね?」
 そう弓場が言うと、美香は黙って頭を振った。
 すると、弓場は、
「そうですか」
 と、残念そうに言っては、
「で、このテープは、沢井さんの部屋で見付かったのですが、弓場さんに聞いていただきたいのですがね」
 と言っては、弓場はそのテープの再生を始めた。 
 そのテープの再生が進むにつれて、美香の顔は徐々に赤くなった。
 そんな美香の表情は、一層赤くなったが、やがて、テープの再生は終わった。
 テープの再生が終わっても、美香は顔を赤らめたまま、言葉を発そうとはしなかった。
 そんな美香に、弓場は、
「このテープの声は、中林さんですね」
 そう弓場に言われると、美香は黙って肯いた。誰が聞いても、その声が美香でないとは、認めないことであろう。
 すると、弓場は小さく肯き、
「では、何故このテープが沢井さんの部屋で見付かったのでしょうかね? しかも、見付かったのは、沢井さんの洋ダンスの中の下着の入った引出しの中なんですよ。まるで、このテープは隠すように仕舞われていたのですがね」
 と、怪訝そうな表情を浮かべては言った。
 すると、美香は弓場から眼を逸らせては、何も言おうとはしなかった。
 そんな美香に、弓場は、
「沢井さんは何者かに殺されたのですよ。それ故、我々は沢井さんを殺した犯人を見付け出さなければなりません。それ故、我々の捜査に協力してくださいよ」
 と、美香に訴えるかのように言った。
 すると、美香は、
「私は、誰が沢井さんの殺したのか、分かりません!」
 と、声高に言った。そんな美香の言葉には、嘘偽りはないと言わんばかりであった。
「ですから、中林さんが知ってることを隠さずに話してもらいたいのですよ。
 で、我々が知りたいのは、何故このテープが沢井さんの部屋で見付かったのかということなんですよ」
 と、弓場は美香の顔をまじまじと見やっては言った。
 すると、美香は言葉を詰まらせた。
 それで、弓場は、
「このテープの内容は、事実なんですかね?」
 と、訊いてみた。
 しかし、美香はやはり、弓場から眼を逸らせては、何も言おうとはしなかった。
 しかし、そんな美香の表情を見ると、美香は何か後ろ暗いものを抱えてるかのようであった。
 それで、弓場は、
「では、中林さんが働いていた外山外科の院長である外山浩さんの奥さんが、和美さんの従姉妹であることを中林さんはご存知でしたかね?」
 と言うと、美香は黙って肯いた。
 そんな美香に、弓場は、
「では、この写真を見てください」
 と言っては、件の写真、即ち、和美の部屋の物入れの引出しに入っていた外山浩と和美が肩を抱き合っては笑ってる写真を見せた。そして、
「で、外山さんには、れっきとした奥さんがいるのに、何故沢井さんとこのような行為をやったのでしょうかね?」
 と、弓場はいかにも納得が出来ないように言った。
 すると、美香は渋面顔を浮かべては、弓場から眼を逸らせ、言葉を詰まらせた。
 そんな美香に、弓場は更に話を続けた。
「沢井さんは一体いつ頃から、外山さんとこのような関係になったのでしょうかね? その点に関して、中林さんは何か思うことはありませんかね?」
 と、弓場は美香の顔をまじまじと見やっては言った。そんな弓場の表情は、相当険しいものであった。
 だが、美香は弓場の問いに、まるで貝のように口を閉ざしてしまった。
 だが、程なく美香は弓場を見やっては、
「分からないですね」
 と、まるで蚊の鳴くような小さな声で言った。
 そんな美香に、弓場は、
「僕はずっと前から、外山さんと沢井さんがこのような関係にあったとは思えませんね。二人がこのような関係になったのは、中林さんからのテープを沢井さんが入手してからだと思いますね」
 と、いかにも険しい表情を浮かべては言った。
 すると、美香は、
「そのようなことを私に言われても、私では分からないですわ」
 と、いかにも決まり悪そうな表情で言った。
「そうですか。で、沢井さんは外山さんの奥さんである沢井さんの従姉妹の弘美さんのことを妬んでいたらしいのですよ。沢井さんも外山さんのように、金も地位もある男性と結婚したかったようですが、そのような男性に恵まれなかった為に、弘美さんのことを妬んでいたというわけですよ。
 そんな折に、沢井さんは中林さんから、そのテープを入手したというわけですよ。
 そして、そのテープをねたに、沢井さんは外山さんに交際を迫ったのではないですかね?
 これが我々の推理なんですが、違いますかね?」
 と、弓場は美香の顔をまじまじと見やっては言った。
 すると、美香は、
「ですから、そのようなことを私に言われても、私は沢井さんでも外山さんでもないから、分からないです」
 と、むっとした表情を浮かべては言った。
「それもそうでしょう。でも、我々はそう推理してるのですよ。
 それ故、中林さんの行為が、直接的に、沢井さんの死に繋がったわけではないのですよ。
 では、中林さんが何故、外山さんの手術ミスのことを告白したテープを沢井さんに渡したのですかね? その経緯を説明してもらえませんかね?」
 と、弓場はまるで美香に訴えるかのように言った。
 すると、美香は少しの間、言葉を詰まらせたのだが、やがて、意を決したような表情を浮かべては、
「私、お金に困っていたのですよ」
 と、弓場から眼を逸らせては、いかにも決まり悪そうに言った。
「お金に困っていた、ですか……」
 弓場は呟くように言った。
「そうです。欲しい物を手当たり次第、次から次へと買ってしまって……。気が付いた時には、サラ金に三百万もの借金をしてしまったのですよ。
 そして、そのことを沢井さんに相談したところ、沢井さんは、
『外山さんのことで、何か公に出来ないような秘密があれば、話してもらいたいの。その秘密が私の欲しいものなら、三百万払ってもいいわ』
 と言って来たのですよ。
 そして、その結果が、そのテープだったのですよ」
 と、美香は弓場から眼を逸らせては、いかにも決まり悪そうに言った。
 すると、弓場は些か満足そうな表情を浮かべては、大きく肯いた。今の美香の証言から、事の成り行きが凡そ察知出来たからだ。
 そして、それはやはり、弓場たちの推理通りであったというわけだ。
 即ち、和美は美香から入手テープをねたに外山をゆすり、交際を迫ったというわけだ。
 そして、そんな和美のゆすりはエスカレートし、結婚を迫ったのであろう。和美が友人に結婚を仄めかしたのも、無論、外山を念頭に置いてであろう。
 そんな和美のことを持て余した外山は、遂に和美を殺すしかないと決意し、弘美と二人で和美を殺したというわけだ。その手段は周知の通りである。
 そう弓場が思ってると、美香は、
「私、悪いことをやってしまったのでしょうかね?」
 と、いかにも決まり悪そうな表情を浮かべては言った。
 すると、弓場は、
「そりゃ手術ミスを闇に葬ったことは悪いでしょうね。しかし、その点に関しては、中林さんの責任というより、外山さんの責任でしょう」
 と言っては、小さく肯いた。
 すると、美香は些か安堵したような表情を浮かべた。
「それに、外山さんをゆすったのは、沢井さんでしょうし、その点に関して、中林さんの共犯は成り立たないでしょう」
 と弓場が言うと、美香は再び安堵したような表情を浮かべた。
 そんな美香に、
「一体沢井さんにそのテープを渡したのは、いつのことですかね?」
「もう三ヶ月程前のことですかね」
「しかし、外山さんはそのテープに関して、何も言って来なかったのですかね?」
 と、弓場は怪訝そうな表情を浮かべては言った。
 すると、美香は、
「まだ、何も言って来ませんがね」
 と、渋面顔で言った。
 すると、弓場は困惑したような表情を浮かべた。何故なら、それは妙に思われたからだ。
 即ち、美香は外山を裏切り、外山の秘密を部外者に漏らしたわけだから、そんな美香を外山は激しく叱責する筈だ。しかし、それがないというのは、明らかに不可解というものだ。
 それで、その思いを弓場は話してみると、美香は、
「私はもう外山外科を辞めてますから」
「いつ辞めたのですかね?」
「もう一年前ですね」
「では、何故辞めたのですかね?」
 弓場は興味有りげに言った。
「それは、やはり、その手術ミスのことが、私の心に引っ掛かりましてね。それで、居辛くなってしまったのですよ」
 と、美香はいかにも決まり悪そうに言った。
「成程。でも、中林さんは外山さんから、その手術ミスのことは、決して他言してはならないと、強く言われていたのですね?」
「そりゃ、勿論ですよ」
 と言っては、美香は小さく肯いた。
「しかし、中林さんはその約束を破り、沢井さんに話してしまった。
 そして、そのテープを沢井さんは外山さんに聞かせたに違いありません!
 そして、その結果が、沢井さんの死に繋がったと思われるのですよ」
 と、弓場はいかにも力強い口調で言っては、眼をキラリと光らせた。
 すると、美香は渋面顔を浮かべては、少しの間、言葉を詰まらせたが、やがて、
「では、刑事さんは沢井さんを殺したのは、外山さんと言われるのですかね?」
 と、険しい表情を浮かべては言った。
「その可能性は十分に有り得るでしょうね。もっとも、断言は出来ませんが」
 と、弓場は慎重な言い方をした。だが、心の中では、ホシは外山夫妻だと確信していたが。
 そんな弓場は、
「でも、やはり、気になりますね」
 と、渋面顔で言った。
「何が気にるのですかね?」
 美香は神妙な表情で言った。
「ですから、外山さんが中林に何も言って来ないということですよ」
 中林さんが告発したテープを元に、外山さんは殺人を強いられてしまったのです。そんな外山さんが中林さんに何も言って来ない筈はないですからね」
 そう弓場に言われると、美香はいかにも決まり悪そうな表情を浮かべた。そんな美香は、今になって、自らがやったことの重大さを痛感してるかのようであった。
 また、美香はその美香の行為が殺人を引き起こす導火線になったなんて、想像だに出来なかったと言わんばかりであった。
 だが、美香は、
「沢井さんは私が渡したテープを外山さんに聞かせてないのではないですかね?」 
 と、眉を顰めては言った。
「いや。それはないでしょう。何しろ、和美さんはそのテープを三百万で買ったのです。それ故、和美さんがそのテープを聞くだけで満足する筈はありません。やはり、そのテープを外山さんをゆするねたとして使ったと見るのが、妥当でしょう」
「……」
「それ故、その秘密をばらした中林さんを外山さんはこのままにしておく筈はないと思います」
 と、弓場は今度は険しい表情で言った。
 何しろ、外山は和美を殺したのに違いない。それ故、後一人、つまり中林美香を殺そうとするのではないのか。その思いが、弓場の脳裏を過ぎっても、何ら不思議ではないだろう。
 そんな弓場の言葉に、美香はなかなか言葉を発そうとはしないので、高橋が、
「今度は、中林さんが危ないのではないですかね」
 と、まるで弓場の思いを代弁するかのように言った。
 すると、美香は、
「私が外山さんに危害を加えられるということですかね?」
 と、些か不安そうな表情で言った。
「そりゃ、その可能性はあると思いますが……」
 と、高橋は渋面顔で言った。
 そんな高橋が美香に何か言おうとしてるのを弓場が遮り、
「つまり、今度は外山さんが中林さんに何か言って来る可能性は十分にあるということですよ」
 と言っては、小さく肯いた。
「私、どうすればいいのでしょうか」
 美香は些か心配そうに言った。
「外山さんが何か言って来れば、すぐに我々に知らせてください」
 と弓場は言っては、小さく肯いた。
 すると、高橋は、
「でも、外山さんが中林さんに不意打ちを掛けて来る可能性はあるんじゃないですかね?」
「その可能性はあるかもしれないな。即ち、外山さんは中林さんが弁明の余地はないと看做してるのかもしれないというわけだよ」
 と、険しい表情で肯いた。
「そうですね。となると、我々が中林さんのことをしばらく護衛する必要があるんじゃないですかね」
「しかし、それはなかなか困難だな。我々が護衛してるということを外山さんに気付かれてしまえば、外山さんは中林さんに危害を加えようとしないだろうからな」
 と、弓場は渋面顔で言った。
 その弓場の言葉を聞いて、美香は、
「刑事さんは私が外山さんに危害を加えられることを望んでるんですかね?」
 と、怪訝そうな表情を浮かべては言った。
 すると、弓場は慌てて笑顔を繕い、
「いや。そうじゃないですよ。我々は外山さんが中林さんに危害を加えようとしたその瞬間に、外山さんを逮捕してやろうと目論んでるのですよ」
 と、美香に警察の捜査に協力してくれと言わんばかりに言った。
 すると、美香は、
「つまり、私に囮になれということですか」
 と、冴えない表情で言った。
 すると、弓場は人良さそうな笑みを浮かべては、
「まあ、そう言えないこともないですが、でも中林さんの安全は保障しますよ。ですから、我々の捜査に是非、協力してくださいな」
 と、まるで美香の機嫌を取るかのように言った。
「では、私は何をすればいいのですかね?」
 美香は眼を大きく見開いては言った。
「中林さんは、今はどういったお仕事をしておられますかね?」
「今は何もしておりませんわ」
 美香は決まり悪そうに言った。
「そりゃ、好都合ですね。
 では、しばらくの間、自宅で待機していただけないですかね。その内に外山さんから連絡が入るかもしれませんからね。また、外出する時は、我々に連絡してもらえないですかね。近くに刑事を待機させておきますから」
 ということになり、釧路署の警官が二名、美香宅の近くで待機することになった。
 すると、そういった弓場たちの思いに応えるかのように、弓場たちが美香宅の近くで張り込みを行なうことになったその日の夜の八時頃、美香の携帯電話に外山から電話が掛かって来た。そして、その時、外山は美香に話したいことあるから、午後九時頃に米町公園の石川琢木の歌碑の前に来るように美香に言った。
 それで、美香はその外山の誘いに応じることになり、また、その旨を直ちに弓場に伝えた。
 そして、美香はその外山の言う通りに、午後九時に米町公園に着くように、美香宅を後にした。
 季節は六月の初めで、釧路は霧が発生し易い季節となっていた。
 といっても、今日は市内を流れる霧は、それ程でもなかった。だが、米町公園の中に入ると、霧はかなり濃くなっていた。これでは、外山を見付けるのは苦労するかもしれないと、美香は思ったりしていた。
 また、美香は外山が美香に対して、どのように出て来るのか、それも不安であった。何しろ、弓場という刑事によると、外山は和美を殺した可能性があるという。そして、今度は美香の命を狙ってる可能性があるという。
 それ故、そんな外山と会うのは、美香は嫌であったが、弓場たちから捜査に協力してくださいと、頭を下げられれば、断るわけにもいかなかったのである。
 それはともかく、美香は外山との約束通りに、午後九時に米町公園の石川琢木の歌碑の前に着いた。
 しかし、辺りには、人影がなく、辺りには霧が流れてるだけであった。
 それで、美香はとにかく、外山がやって来るのを待つことになった。
 すると、午後九時五分頃、美香に近付いて来る人影を美香は眼に留めた。
 その人影は、一歩一歩、美香に近付いて来た。
 それで、美香の表情は、徐々に強張って来た。
 やがて、その人影は、美香が待っていた外山浩であったことを美香は認めた。
 また、外山も美香のことを認めたようだ。
 外山はそんな美香に、
「久し振りだな」
 と、以前と変わらぬ優男の声で言った。
 そんな外山に美香は平静を装い、
「そうですね」
 と言っては、小さく肯いた。
 そんな美香に外山は、
「何故僕が中林君をここに呼び出したのか、分かるかい?」
 と、淡々とした口調で言った。
 そんな外山に、美香はあっさりと和美に渡したテープのことを話すわけにはいかなかったので、
「分からないですね」
 と、呟くように言った。
 すると、外山は、
「君は随分としらじらしくなったんだな」
 と吐き捨てるかのように言った。
 そう外山に言われると、美香は言葉を詰まらせた。
 そんな美香に外山は、
「僕があれ程、絶体に話してはならないと言ったのに、どうして君は他人に話したんだい? しかも、カルテのコピーまでも他人に渡すとは」
 と、険しい表情で言った。その外山の口調からして、美香は外山が激しい怒りを感じてることを十分に察知した。
 外山にそう言われても、美香は弁明のしようがなかった。確かに、美香は外山を裏切ってしまったからだ。
 そして、美香は今、その時、即ち、外山が里中尚美という七十歳の女性を手術ミスによって死に至らしめてしまった時のことがありありと浮かんで来た。
 そして、その時に外山は手術室の中で美香と田中明子という年配の看護婦の前で、外山のこの手術ミスのことを永久に闇に葬らせることを誓わせたのだ。
 そして、その口止め料として、美香と田中明子は、三百万ずつ、外山から受け取ったのである。
 だが、美香はその三百万を美香の欲望に任せて、あっさりと使い果してしまったのである。それ故、美香は弁明のしようがなかったのである。
 そんな美香に外山は、
「裏切り者!」
 と、美香を激しく罵っては、美香に平打ちをかました。
 美香は外山にぶたれて、思わず左頬に痛みが走った。そして、両掌で左頬を摩った。
 すると、その時である。
 美香の首にロープのようなものが背後から掛けられたかと思うと、それは美香の首を強く絞めつけた。
〈苦しい!〉
 と、美香は叫ぼうとした。
 しかし、それは言葉にはならなかった。それどころか、美香の意識は徐々に薄れて行くのを美香は感じた。
 そんな中で、美香はドタバタという足音のような音を耳に捕えた。
 だが、それが最後であった。美香はその場であっさりと意識を失ってしまったのである。

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