第三章 山岳サークル

     1

 その翌日、戸田は田中二郎の実家を訪ねてみた。そして、
「昨日電話で話した山岳サークルの手掛かりが何か残ってるのではないかと思いまして、こうしてやって来たのですよ」
 と、来意を述べた。
「昨日戸田さんにそう言われたので、一応、二郎の持ち物を調べてみたのですが、やはり、よく分からないのですよ」
 と、町子は申し訳なさそうに言った。
「そうですか。では、僕に二郎さんの持ち物を調べさせてもらえないですかね」
 ということになり、今も二郎の私物が置かれてるという二階の南側に面した六畳間を戸田は捜査したのだが、なかなか山岳サークルに関する手掛かりは見付かりそうもなかった。
 だが、結局、山岳サークルに関する手掛かりを入手することが出来た。
 そして、それは戸田が見付けたのではなく、町子が見付けた。町子は、
「この封筒が、私たちの手紙入れに入っていたのですよ」
 と言っては、一つの封筒を戸田に渡した。
 その封筒の宛名は田中二郎であり、差出人は山岳サークル会長の長谷川弘で、長谷川は東京都豊島区に住んでいた。
 戸田は早速、その長谷川弘から田中二郎宛てに送られて来た手紙を見ることにした。その手紙にはA4判の紙にこのように記されていた。
〈この度、五月二十九日、三十、三十一日にかけて、我々山岳サークルの有志たちは、蓼科山登山を行なうことになりました。参加者は、東京地区からは、若田文雄氏、権藤五郎氏、中田隆氏、橋本道太氏、田中二郎氏、長谷川弘、長野地区からは、山口幹男氏、小林良夫氏、松山弘氏、横田幸男氏、谷山道夫氏となりました。
 東京地区の参加者は五月二十九日の午後二時新宿発の高速バスで諏訪市に向かい、諏訪市で長野地区のメンバーと合流することになりました。そして、その後の詳細は別紙の記載通りとなります。  〉
 また、この手紙から、この手紙の差出人である長谷川弘の連絡先も分かった。 
 この手紙を入手出来たことから、戸田たちの二郎の捜査が一歩前進した。
 また、この手紙以外に、捜査を更に前進させる有力な情報を入手することが出来たのだ。
というのは、二郎の部屋の段ボールの中を調べていたところ、小さな金庫が入っていて、その金庫を開けてみると、その中にM銀行とF銀行の預金通帳が入っていたのだが、その通帳の一年程前には併せて何と三千万もの金額がそれぞれ記帳されていたからだ。
 それで、戸田は町子にその預金通帳を見せては、
「このことをご存知でしたかね?」
 と、いかにも驚いたような表情を浮かべては言った。もっとも、その事実は戸田にとっては予想していたものではあったのだが。
 戸田にそう言われ、町子は、
「いいえ」 
 と、いかにも驚いたような表情を浮かべては言った。しかし、それもそうであろう。年収が三百万から四百万の間と聞かされていた二郎が、まさか三千万もの預金をしていたなんて、信じられなかったからだ。
 だが、戸田は二郎が年収がどれ位なのかを知らなかったので、とにかく、
「どうして二郎さんは三千万ものお金を貯めることが出来たのでしょうかね? 二郎さんの給料はそんなに多かったのでしょうかね?」
 と、些か驚いたように言った。
 すると、町子は、
「給料は多くはなかったですよ。何しろ、小さな自動車販売店のセールスマンでしたからね」
 と言っては、二郎の年収を説明した。そして、
「そんな具合でしたから、二郎が三千万ものお金を預金出来たとは思えないのですが」
 と、いかにも困惑したような表情を浮かべては言った。そんな町子の表情には、二郎のその金の出所に不審感を感じ取ったようだ。
 町子がそのような表情を浮かべたので、戸田も町子のような表情を浮かべたのだが、戸田は内心では北鼠笑んでいた。というのは、二郎はどうやらその三千万が絡んで殺されたという動機がこの時点で明らかとなったと思ったからだ。
 そんな戸田に、町子は、
「どうして二郎はこのような大金を入手することが出来たのでしょうか」
 と、いかにも神妙な表情を浮かべては言った。
 すると、戸田は、
「今の時点では何とも言えませんね」
 そして、この時点で戸田はM銀行とF銀行にそれぞれ電話を掛け、二郎の残金の確認を行なってもらった。
 すると、今の時点では、M銀行とF銀行に一千万ずつ残ってることが明らかとなった。
 それで、戸田は、
「どうやらここ一年位で、二郎さんは千万程もお金を使ってしまったようですね」
 と、渋面顔で言った。
 その事実を町子に話すと、町子は、
「そういえば、最近どうも二郎の金使いが荒くなっていたみたいですね。高価な衣服とかお酒を買ったりしてましたからね。以前の二郎なら、そのようなものにお金を掛けたりはしなかったのですよ。それで、二郎は随分景気がいいんだなと、思ったりしてたのですがね」
 と、町子は再び神妙な表情を浮かべては言った。
 それはともかく、この時点で山岳サークルを今度は捜査してみることにした。何しろ、山岳サークルにいた者が二人、変死してるのだ。それ故、その二人の死の真相を明らかにするのには、山岳サークルの中に糸口がある可能性は十分にあるからだ。
 それで、まず代表者の長谷川弘に会って、長谷川から話を聞いてみることにした。

    2

 長谷川は、豊島区内の「宝ハイム」というマンションを505室に住んでいた。
 戸田が警察手帳を長谷川に見せると、長谷川は表情を些か引き締めては、
「どういった用件ですかね?」
 戸田は長谷川を一眼見て、四十位で誠実そうな印象を受けた。
 それはともかく、戸田は、
「長谷川さんが会長をやってる山岳サークルに関して訊きたいことがあるのですよ」
 と、長谷川の顔をまじまじと見やっては言った。
「どんなことですかね?」
 長谷川は淡々とした口調で言った。
「山岳サークルには、千葉県に住んでいた田中二郎という人物も入っていましたね」
「そうでしたね」
「で、その田中さんが先日何者かに殺され、その死体が東京デズニーランド沿いの川で発見されたのをご存知ですかね?」
「ええ。知ってますよ」
「どうしてそれを知りましたかね?」
「新聞を見て知りました。全くお気の毒なことです」 
 と、長谷川は表情を曇らせた。
「そうですか。で、田中さんの死に関して、何か心当りありませんかね?」
「とおっしゃると?」
「つまり、田中さんの殺した犯人とか動機に関して、何か心当りないかということですよ」
 と、戸田がいかにも真剣な表情を浮かべて言うと、長谷川は、
「全くないですね」
 と、表情を曇らせたまま、淡々とした口調で言った。
「では、長野市に住んでいた横田幸男という人物も、山岳サークルに入っていましたね」
「そうでしたね」
「その横田さんは一年前に自宅の火災によって死亡したのですが、その横田さんの死に関しては、何か心当りありませんかね?」
「特にないですね」
 長谷川は素っ気なく言った。
「横田さんの死の原因は、実のところ、はっきりとはしてないのですよ。というのも、横田さんの死体は損傷が激しかったからです。それ故、横田さんの死因を明らかにすることが出来なかったのですよ」
「そうなんですか。僕は今まで横田さんは焼死したのだと思ってましたがね」 
 と、長谷川は今の戸田の言葉は意外だと言わんばかりに言った。
「そうですか。で、僕は横田さんは殺されてから放火されたという可能性も有り得ると思ってるのですがね」
「そうですか。でも、そう言われても、僕では分からないですがね」
 と、長谷川は決まり悪そうに言った。
「そうですか。では、山岳サークルとは、どういったサークルなんですかね?」
「僕が作った山登りの同好会ですよ。僕は山登りが好きなんですが、一緒に登ってくれる相手がいませんでしてね。それで、有志を『山と四季』という雑誌で募ったのですよ。特に信州方面の山が好きだったので、僕はその旨も添えたのですよ。すると、東京方面とか、信州方面からの有志が集まったのですよ」
 と、長谷川は淡々とした口調で言った。
「じゃ、横田さんや田中さんも、その雑誌を見て、長谷川さんのサークルに入ったのですかね?」
「そうですよ。横田さんも田中さんも山登りが好きだったのですが、横田さんや田中さんの身近な者で山登りが好きであった人物がいなかったのですよ。そうかといって、一人で山登りを行なうのには、何かと危険が伴いますので、有志を探していたそうです。そして、二人の眼に留まったのが、僕が作ったサークルであったというわけですよ」
 と、長谷川は力強い口調でそのように説明した。
「ということは、長谷川さんは横田さんと田中さんと共に山登りをしたことはありますよね?」
「そりゃ、勿論、ありますよ」
「では、横田さんとと田中さんは一緒に上ったことはありますよね?」
「そりゃ、ありますよ」
 そう言われ、戸田は些か満足そうに肯いた。この時点で、横田と田中が知人関係にあったということが、改めて確認されたからだ。
「では、横田さんと田中さんは結構親しかったですかね?」
「そうですね……。まあ、結構、親しかったのではないですかね」
「山登りをしていた時に、結構親しそうに話をしていましたかね?」
「そうですね。そういった場面も時々眼にはしましたがね」
 と、長谷川は些か神妙な表情を浮かべては言った。そんな長谷川は、そのことが何か問題なのかと言わんばかりであった。
「では、横田さんとか、田中さんとはどんな人でしたかね?」
「横田さんは喫茶店を経営しておられたそうですよ。そう言われて、僕は成程と思いましたね。というのも、横田さんは歳の割には何となく垢抜けしてましたからね。また、田中さんは自動車のセールスマンをしてたそうですね。でも、それも成程と思いましたね。田中さんは何となく人当たりが良さそうな感じでしたからね。
 でも、その二人がまさかこんな惨い死に方をするなんて、僕は想像すらしたことはなかったですよ」
 と、長谷川は表情を些か険しくさせては言った。
「では、長谷川さんたちは横田さんのことを「さち」と呼んではいなかったですかね?」
 すると、長谷川は些か表情を和らげては、
「どうして刑事さんはそのことを知ってるのですかね?」
 そう長谷川に言われ、戸田も些か表情を和らげた。というのは、捜査が一歩一歩前進してると実感したからだ。
 そんな戸田に、長谷川は、
「何でも横田さんは子供の時から「さち」と呼ばれていたそうですよ。それで、自己紹介の時に皆に「さち」と呼んでくださいと言ってましたね。
 でも、まさか呼びつけにするわけにもいきませんからね。ですから、「さちさん」とか僕たちは横田さんのことを言ってましたよ」
「成程。で、山岳サークルの仲間で、ここ一年位の間で、急にお金が入ったような人、つまり、羽振りが良くなったような人に心当りありませんかね?」
「さあ、それはよく分からないですね」
 と、長谷川は渋面顔を浮かべては言った。
「そういう人はいなかったのですかね?」
「さあ、何とも言えないですね。何しろ、もしそういう人がいたとしても、そのことを言わないことには分からないですからね。何しろ、僕たちは常に身近にいるわけではありませんので」
 と、長谷川は再び渋面顔を浮かべては言った。
「では、山岳サークルの中で、横田さんと田中さんの二人と仲が良かったような人はいませんかね?」
「そうですね。橋本さんなら、横田さんとも田中さんとも親しかったかもしれませんね」
「橋本さんは、この中にいますかね?」
 と、亡き田中の部屋から入手した山岳サークルのメンバーと思われる者たちと写ってる写真を戸田は長谷川に見せた。
 すると、長谷川は、
「この人が橋本さんですよ」
 と、一人の男を指差した。
 その男は、口髭を生やした三十の半ば位の男であった。
 それで、今度は戸田はその橋本から話を聞いてみようと思った。

     3

 戸田は、山岳サークルで知り合った横田と田中、更にXが何らかの不正な手段を用いて大金を入手し、それが絡んで横田と田中が殺されたと推理していた。もっとも、Xは一人ではなく、複数いるのかもしれないが。
 また、Xは必ずしも、山岳サークルのメンバーとは限らないだろう。とはいうものの、Xが横田たち山岳サークルのメンバーと何らかの関わりがあることは間違いないであろう。
 それ故、更に山岳サークルのメンバーに会って話を聴かなければならないであろう。
 それで、まず横田と田中の二人に親しかったという橋本道太に連絡を取り、橋本と話をしてみることにした。橋本はJR三鷹駅から徒歩十分位の「若林ハイム」というマンションに住んでいるとのことだ。
 戸田が橋本に警察手帳を見せると、橋本は何ら表情を変えずに、
「どういった用件ですかね?」
 と、素っ気なく言った。
「橋本さんは山岳サークルというサークルに入っていますね。長谷川弘さんが会長をやっている」
「ええ」
「その山岳サークルのメンバーで、長野市内に住んでいた横田幸男さんが、一年程前に自宅の火災によって死亡したのをご存知ですよね」
「ええ」
 と、橋本は何ら表情を変えずに素っ気なく言った。
「では、先日、田中二郎さんが東京デズニーランド沿いの川で他殺体で発見されたのもご存知ですよね」
「ええ」
「横田さんが自宅の火災で死亡、田中さんが何者かに殺され、死体を川に遺棄された。山岳サークルのメンバーがここ一年位の間で相次いで変死したわけですが、このことをどう思いますかね?」
 戸田は橋本の顔をまじまじと見やっては言った。
「どう思うって、そりゃ、お気の毒だと思いますよ」
 と、橋本は神妙な表情を浮かべては言った。
「では、橋本さんはどうして山岳サークルに入られたのですかね?」
「そりゃ、僕は山登りが好きで山登りの仲間を探していたのですよ。僕の友人たちの中では、僕と一緒に登ってくれる人がいなかったものですからね。
 で、『山と四季』という雑誌で山岳サークルのことが眼に留まりましてね。それで、入ったというわけですよ」
 と、橋本は落ち着いた口調で言った。
「そういうわけですか。で、橋本さんは横田さんとか田中さんとは、結構親しかったとか」
「一体、誰がそのようなことを言っていたのですかね?」
 橋本は眉を顰めた。
「長谷川さんですよ。山登りの最中に、横田さんや田中さんと橋本さんが結構親しげに話をしてるのを眼にしたことがあると言ってましたからね」
「そうですか。でも、僕は誰とでも結構親しげに話をしてましたからね。ですから、横田さんと田中さんとだけ、親しげに話をしていたわけではありませんよ」
「では、橋本さんはどういったお仕事をしておられますかね?」
 戸田は長谷川から橋本の職業は知らないと言われていたので、訊いてみた。
 すると、橋本は、
「そのようなことに答えなければならないのですかね?」
 と、些か不服そうに言ったので、
「いや。そうではありません。では、田中さんの死に関して何か心当りありませんかね? 田中さんは横田さんとは違って、何者かに殺されたこのは確かなんです。それ故、犯人がいるに違いないのですが、まだ、犯人、更に動機も分かっていないのですよ」
 と、戸田はそう言った。
 すると、橋本は、
「特にないですね」 
 と、神妙な表情を浮かべては言った。
「何もありませんかね?」
「そうですね。何もないですね」
 橋本は、素っ気なく言った。
「では、十月十四日の夜から翌日の朝にかけて、橋本さんは何処で何をしてましたかね?」
 と、取り敢えず、田中の死亡推定時刻のアリバイを訊いてみた。
 すると、橋本は、
「その頃は、ここにいましたよ」
「それを誰かに証明してもらえますかね?」
「それは無理ですよ。僕は一人で住んでますからね」 
 と、橋本は些かむっとしたように言った。
 橋本への聞き込みはこのような具合であった。
 そして、この辺りで戸田は橋本への聞き込みを終え、橋本宅を後にすることにした。
 戸田の推理では、横田や田中たちは、何か不正な手段により、大金を入手した。そして、その後、その者たちの間で何かトラブルが発生し、横田と田中が殺されたであった。 
 それ故、その仲間を突き止めなければならないので、橋本以外の山岳サークルのメンバーにまで聞き込み範囲を拡げ捜査してみた。だが、特に成果を得ることは出来なかった。
 それで、今度は横田たちが一体どのような犯行を行なったのか、その線を捜査してみることにした。
 横田や田中が大金を手にしたと思われる時期は、横田が持田加代を愛人にした頃から遡って一年位の間と推定された。また、その金額は一億以上と推定された。
 それ故、その時期と金額から推して、その事件に該当しそうな事件が発生してなかったか、捜査が行なわれた。
 すると、三つの事件が浮かび上がったので、その三つの事件を記してみる。
〈 H七年六月五日の午後五時頃、北海道旭川市内の農協の現金輸送車が襲われ、現金一億あまりが強奪された。だが、未だ犯人は逮捕されていない〉
〈 H七年六月二十五日の深夜、大阪市西成区の宝石店で、一億五千万相当の宝石類が強奪され、犯人は未だ逮捕されていない〉
〈 H七年七月二十日に、福岡市内の信用金庫の現金輸送車が襲われ、一億五千万が強奪されたが、犯人はまだ逮捕されていない〉
 この三つの事件が浮かび上がった。
 それで、戸田は早速、その三つの事件を捜査してる県警などに電話をして、事件の概要の説明を受けることにした。
 だが、そのいずれも、横田たちの犯行を臭わせるものはなかった。
 というのは、旭川の事件は三人の犯人が関与したと見られるが、そのいずれも身長175センチはありそうな長身の男だったという警備員の目撃情報があった。だが、横田も田中も身長は166センチ程であったのだ。166センチの男と175センチでは、いくら何でも体格に違いがあり過ぎるというものだ。それ故、旭川の事件は横田たちの犯行である可能性は小さいというものであろう。
 また、大阪の事件で強奪されたのは、宝石だが、宝石の盗品を売り捌くのは困難であり、今までの捜査では、横田たちがそのルートを持っていたとは思えなかった。また、宝石店が襲われた犯行日に田中が中島モータースに勤務していたことも確認された。それ故、大阪市西成区の事件は田中たちが関与した可能性は極めて小さいといえるだろう。
 また、福岡の事件に関しても、横田たちはその周辺の土地勘に疎く、そのような場所での犯行は行なわないというのが、今までの経験上、明らかになっている。また、福岡での事件の犯行日に田中が中島モータースで勤務していたことも、明らかとなった。
 それ故、横田たちが福岡の信用金庫の事件に関与した可能性も極めて小さいということだ。
 さて、困った。捜査はまるで暗礁に乗り上げてしまったようだからだ。
 田中二郎の隣室の田中一郎という人物が過失によって開封してしまった田中二郎宛ての手紙が不審なものであったことから、その手紙に基づいて捜査したところ、田中と横田が山岳サークルで結び付いていたことが明らかとなった。また、横田は一年前に自宅の火災によって変死していたことも明らかとなった。それ故、横田と田中が属していた山岳サークルを捜査していけば、事件は自ずから解決に繋がると看做し、捜査を進めたのだが、実際には捜査は思うように進展を見せず、まるで壁にぶつかってしまったようなのだ。
 それ故、田中二郎の事件は、解決出来るのだろうか? その不安が戸田の脳裏を微かに過ぎり、それは決して不思議ではなかったのである。

目次     次に進む