1 死体発見

 最近の東京の新名所としてクローズアップされて来てるのが、お台場海浜公園を始めとする臨界副都心だ。
 臨界副都心には、お台場海浜公園以外にも、フジテレビ、デックス東京ビーチ、パレットタウン、船の科学館、テレコムセンターとか、見所がたっぷりとある。正に、一日かけないと充分に回りきれない位の規模が、臨界副都心にはある。
 臨界副都心へは、新橋からゆりかもめというモノレールで訪れるのが、一般的だ。
 ゆりかもめは、レインボーブリッジを通り過ぎるのだが、そこからの眺めは正に格別だ。正に東京という大都会の光景を余すことなく眼に出来るというものだ。
 臨界副都心へと向かうゆりかもめからの光景を眼にしてると、一体この日本に不況という嵐が吹き荒れてることが信じられない位だ。正に一昔の夢のような光景が、ゆりかもめから眼に出来るのである。
 それはともかく、今はまだ午前六時であった。いくら昼間は東京からは無論、日本津々浦々から訪れる人が絶えないお台場周辺といえども、今は殆ど人気は見られなかった。
 とはいうものの、お台場海浜公園にある自由の女神近くの砂浜を、一人の男性がジョギングをやっていた。
 その男性の名前は、堂島明夫(47)といい、一ヶ月前までは、外資系のコンピューター会社で働いていたのだが、リストラに遭い、今は失業中であった。
 だが、妻が中学の教師をやっている為に、生活の心配は全くなかった。
 そんな堂島は、お台場にある賃貸マンションに妻と二人で住み、毎朝、この辺りをジョギングしてるのだ。
 そして、堂島は今朝もいつも通り、軽快に自由の女神近くを通り過ぎようとしていたのだが、そんな堂島の表情は、この時、歪んだ。というのは、自由の女神近くの砂浜に、一人の男性が不自然な格好で寝ころがっていたからだ。その男性の様を眼にすれば、誰だって、妙に思うに違いない。
 堂島はといえば、まるで磁石に吸い寄せられるかのように、その男性に近付いて行った。そして、傍らにまで来ると、屈み込んでは、男性の顔をそっと覗き込んだ。すると、堂島の顔は忽ち強張り、そして、後退りしてしまった。何故なら、男性は苦悶の表情を浮かべては、とても生きてるような感じには見えなかったからだ。
 とはいうものの、堂島は勇気を持ってその男性に再び近付いては、肩を揺り動かし、「もしもし」と声を掛けてみた。
 だが、何の反応も見られずに、また、その男性の身体は硬直してるように思われた。
 即ち、男性は既に魂切れていたというわけだ。
 そう察知した堂島は、携帯電話で直ちに110通報したのである。
 すると、さ程時間を経ずに、パトカーがやって来た。そして、パトカーに遅れて少し経った頃、救急車もやって来た。
 そして、男性は救急隊員によって担架に載せられ、救急車に運ばれ、何処やらに去って行った。また、その間、堂島は警官に男性の遺体を発見した経緯を話した。
 すると、警官は堂島の連絡先を聞き、そして、その時点で堂島は再びジョギングをやり始めたのであった。

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