第一章 死体発見
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波の上ビーチといえば、那覇市内唯一のパブリックビーチで、市民憩いの場所として利用されてるが、三十万の人口を抱える那覇市内の中心街からさ程離れていないのに、これ程エメラルドクリーンに煌めく海を眼に出来るとなれば、やはり、ここは沖縄だと実感してしまう。
そして、今日も波の上ビーチはそのエメラルドグリーンの海を市民に見せ付けていた。季節は四月の半ば頃のことだ。
本土なら、まだ肌寒さを感じる時もあるだろうが、この沖縄では、汗ばむ季節となって来た。
末吉与一(68)は、波の上ビーチ近くに住んでいて、国際通りに土産物店を経営している自営業者であった。
とはいうものの、店の開店時間まではまだ時間があったので、それまで波の上ビーチを少し散歩してみようかと思い、こうやって波の上ビーチにやって来た。午前八時頃のことであった。
そんな波の上ビーチには、今、末吉以外に誰もいなかった。末吉以外に、その白砂上には誰もいなかったというわけだ。
とはいうものの、波の上ビーチを跨いでる臨海道路の波の上橋には、引っ切り無しに車が走り、流石に那覇は都会だということを印象ずけていた。
それはともかく、末吉は波打ち際にまで歩み寄り、そして、波打ち際に打ち寄せる波音に耳を傾けていた。そして、そのエメラルドグリーンの海に眼をやっていた。
今夏は、大阪で就職した二男の次郎が、五歳の息子と四歳の娘を連れて帰省して来ることになっていた。
それで、その二人の子供を連れてこの波の上ビーチで遊ばせてやろうと末吉は思ったのだが、そんな末吉の表情が突如、曇った。
というのは、波打ち際から三メートル程の所に、妙な光景を眼にしてしまったからだ。
その妙な光景とは、人間だ。中年の男性と思われる者が、波に翻弄され、ぷかぷかと浮き沈みしているのだ。
その男性は絶対に泳いでるのではない。服を着たまま、泳ぐ者がいるだろうか。
それはともかく、この状態をしばらく続けてしまえば、男性は波打ち際から遠ざかってしまうかもしれない。となると、男性の死体は眼の届かない所に行ってしまうかもしれない。
そう思った末吉は、潔く上着とズボンを脱ぎ棄てては、波の中に入って行った。そして、その人間の傍らにはさ程時間を経ずに到達し、そして抱き抱えるようにしては、浜に引き上げたのである。
だが、息を吹き返さないのは、明らかだった。人工呼吸をやった経験のある末吉は、人工呼吸をやってみようとさえしなかったのであった。
2
那覇署員を乗せたパトカーが、波の上ビーチに着いたのは、末吉が携帯電話で110番通報して、正にあっという間といった感じであった。
そして、警官が現場に到着してすぐに到着した救急隊員によって、男性は那覇市内のS病院に運ばれて行った 男性の首には、紐のようなもので絞められたような鬱血痕があったことから、男性の死は殺しである可能性があった。それで、司法解剖されることになった。
すると、死因が明らかになった。
やはり、男性は紐のようなもので首を絞められたことによる窒息死であったのだ。即ち、男性の死は、殺しによってもたらされたのである!
また、男性の身元も、その翌日になって明らかになった。
というのは、波の上ビーチ近くにある「飛龍軒」という中華料理店が、その日は定休日ではないのに、シャッターが下りていたので、馴染みの客が不審に思い、警察に問い合わせてみたのだが、すると、昨日波の上ビーチで死体で発見された男性が、その「飛龍軒」の経営者であったというわけだ。
その男性の姓名は、赤嶺徳三(50)で、「飛龍軒」を一人で切り盛りしていたとのことだ。
そんな赤嶺には家族はいなく、「飛龍軒」二階にある2DKの部屋で、一人で暮らしていたとのことだ。
赤嶺の事件を捜査することになった沖縄県警捜査一課の安仁屋定吉警部(52)は、まず赤嶺の身元を確認した赤嶺の友人だったという知念覚(50)から、話を聞いてみることにした。
「何故赤嶺さんは、殺されたのでしょうかね?」
安仁屋は、神妙な表情で言った。
すると、知念は、
「分からないですね」
と、頭を振った。
「赤嶺さんには、家族はいなかったのですよね」
「そうです。両親は既に他界し、また、奥さんも子供も最初からいなかったですよ」
と、知念は淡々とした口調で言った。
「兄弟姉妹はいないのですかね?」
「鹿児島に妹が住んでるらしいですよ」
「赤嶺さんは、『飛龍軒』を一人で切り盛りしていたのですかね?」
「そうですよ。小さな店でしたから、一人でやっていけたのだと思いますよ。でも、都合の悪い時は、臨時休業してましたがね」
「店は儲かってたのでしょうかね?」
「さあ、そんなには儲かってなかったのではないですかね。でも、一人が食べて行くことは出来たみたいですよ」
「店の営業は何時から何時までだったのですかね?」
「午前十一時から午後二時までと、午後五時から午後十時までだったですね。定休日は火曜日だったですね」
知念に対する聞き込みはこのような具合で、特に成果を得ることは出来なかった。
それで、この辺で知念に対する聞き込みを終え、今度は「飛龍軒」の二階にある赤嶺の部屋を捜査してみることになった。赤嶺の部屋の中に、赤嶺の事件の謎を解く手掛かりがあるのではないかと安仁屋は思ったからだ。
赤嶺の部屋の中には、雑誌とか空缶、座布団なんかが、あちこちに散らばっていた。独身の男性の部屋はこのようなものかと、安仁屋は思ってみたのだが、果して、この部屋の中に、赤嶺の事件の謎を解く手掛かりがあるかどうかは、安仁屋にはてんで分からなかった。
それで、いくら2DKの部屋といえども、やみくもに捜査するのは効率が悪いと思い、まずアドレス帳や手紙を見付け出し、それらに記載されてる者から話を聞いてみることにした。
もっとも、赤嶺の部屋をざっと捜査して見たのだが、特に興味あるものを見付け出すことは出来なった。
それで、アドレス帳や手紙を元に、赤嶺の友人・知人だった者から話を聞いてみることにした。
だが、結局、誰もかれもが、何故赤嶺が殺されたのか、分からないと言った。
それで、安仁屋は渋面顔を浮かべたのだが、そんな安仁屋に、安仁屋と共に捜査に携わっている若手の畑野勝刑事(28)は、
「ひょっとして、赤嶺さんは偶然に何かの事件に巻き込まれたのではないですかね?」
と、眉を顰めては言った。
「偶然の事件か……」
「そうです。酔っ払いなんかに絡まれ被害に遭ったのではないかということですよ。そういった可能性も否定出来ませんね」
と、畑野刑事は渋面顔で言った。そんな畑野刑事は、それが事実なら、犯人を挙げることは出来ないかもしれないと言わんばかりであった。
すると、安仁屋は、
「そりゃ、その可能性が無いとは思えないな。それ故、とにかく波の上ビーチに立て看板を立てては、市民から情報提供を呼び掛けてみよう」
3
市民に情報提供を呼び掛けるのと共に、引き続き、赤嶺の友人だった者に聞き込みを行なってみることにした。
すると、興味ある情報を提供した者がいた。それは、具志堅弘(50)という赤嶺の高校時代からの友人であった。具志堅は、安仁屋に、
「赤嶺さんは、よく女を買ったりしてましたね」
と、安仁屋から眼を逸らせ、決まり悪そうに言った。
「女を買う、ですか……」
「そうです。つまり、ヘルスとかホテトルなんかでよく遊んでいたというわけですよ」
と、具志堅は些か顔を赤らめては、言いにくそうに言った。
そう具志堅に言われ、赤嶺は、
「成程」
と言ったものの、果してそれが赤嶺の事件に関係あるかどうかは分からなかった。
すると、具志堅は、
「ほら! 東京の方で事件があったじゃないですか。ホテルに派遣されたホテトル嬢が殺されたという。
もっとも、その事件では、殺されたのは女性の方で、殺したのは、女性をホテルに呼んだ男性客だったのですが、逆のケースも考えられるのではないですかね。つまり、客であった赤嶺さんが殺されたというわけですよ」
と言っては、小さく肯いた。そんな具志堅は、その可能性は有り得ると言わんばかりであった。
そう具志堅に言われても、安仁屋は言葉を返そうとはしなかった。そんな安仁屋は、そのようなケースが有り得るのかどうか、考えてるかのようであった。
そんな安仁屋に、具志堅は、
「つまり、赤嶺さんと、ホテルに派遣された女性との間でトラブルが発生したというわけですよ。
例えば、女性の接客マナーの悪さんに腹を立て、赤嶺さんが女性を怒鳴りつけたりしますよね。
すると、そんな赤嶺さんのことに腹を立てた女性がかっとして、事に及んだというわけですよ」
と、些か興奮気味に言った。
そんな具志堅に、安仁屋は、
「でも、赤嶺さんは男ですよ。それ故、女性にあっさりと殺されますかね?」
と、些か納得が出来ないように言った。
「赤嶺さんの死因は絞殺ですからね。それ故、女性に後ろを見せていたとしたら、決して現実味のないことではありませんよ。
それ以外としても、ホテルに来た女性を何度もチェンジしたのかもしれませんね。そんな赤嶺さんに腹を立てた男性スタッフとの間にトラブルが発生し、赤嶺さんは男性スタッフに殺されたというわですよ」
と、具志堅は再び些か興奮気味に言った。
そんな具志堅の推理を耳にし、安仁屋は、
「成程」
と言っては、小さく肯いた。安仁屋は確かにその可能性が無いとは思えなかったからだ。
そんな安仁屋を見て、具志堅は些か満足したような表情を浮かべた。安仁屋がどうやら具志堅の推理を理解してくれたようだからだ。
すると、安仁屋は、
「では、具志堅さんは赤嶺さんが何処のクラブのホテトル嬢と遊んだのか分かりますかね?」
すると、具志堅は渋面顔を浮かべては、
「そこまでは分からないですね」
結局、具志堅から入手出来た情報は、これ位であった。
だが、具志堅から入手した情報は捜査してみる必要があると判断した安仁屋は、早速その情報に基づいて、赤嶺の部屋を捜査してみることにした。赤嶺の部屋から、それに関する手掛かりが得られるのではないかと思ったからだ。
だが、赤嶺の部屋の中からは、ホテトルを経営してるクラブの名刺やホテトル嬢のものと思われる名刺といった類ものは見付からなかった。
しかし、赤嶺の部屋にあったパソコンを調べてみると、赤嶺のパソコンのお気に入りに、那覇周辺のホテトルのクラブと思われるホームページが保存されていることが明らかになった。
それで、一応、具志堅の証言は裏付けられたというわけだが、しかし、保存されているホテトル嬢のクラブのホームページは二十を超える位あり、果して、その中のどの店のどの娘と赤嶺が遊んだのかは、見当がつかなかった。
それ故、今の時点では、そのクラブを全て当るというわけにいかなかった。
それで、引き続き、何か興味あるものが見付からないか、捜査してみることにした。
4
すると、押入れの段ボールの中に、妙なものが入っていた。
それは、一見、携帯型のゲーム機のようにも見えた。3・5インチ程のモニターがあり、十字キ―が付いていて、映像と音声のものと思われる接続端子も付いていた。
だが、安仁屋と共に、捜査に携わっている若手の畑野刑事は、
「それは、ゲーム機ではないですね」
と言った。というのも、畑野刑事はゲーム好きで、自宅でよくTVゲームをして遊んでいるが、そのようなゲーム機は見たことがないからだ。
だが、二人はその機器が何なのか、結論は出なかった。
それで、署に持って帰り、ハイテク機器に詳しい者に調べてもらうことにした。
すると、ハイテク担当の野村信夫警部補(50)は、
「それは、ワイヤレスの受信器モニターだよ」
と言っては、眉を顰めた。
「ワイヤレスの受信器モニターですか」
と、安仁屋は眉を顰めては呟くように言った。
「ああ。そうだ。つまり、小型カメラから発信された映像や音声を接続コード無で受信出来る代物さ」
そう言われ、安仁屋は渋面顔を浮かべては言葉を詰まらせた。そして、少しの間、言葉を詰まらせていたが、やがて、
「でも、赤嶺さんはこの機器をどういった目的で使っていたのでしょうかね?」
と、怪訝そうな表情で言った。
すると、野村は少しの間、言葉を詰まらせていたが、やがて、
「盗撮なんかをやってたんじゃないかな」
と、神妙な表情で言った。
「盗撮、ですか……」
安仁屋は呟くように言った。
「そうです。この種の機器は、防犯目的なんかで使われますが、しかし、赤嶺さんの店の中華料理店に防犯カメラは必要ないでしょうからね」
「となると、赤嶺さんは盗撮を行なってたのでしょうかね?」
「可能性はあると思いますね」
「でも、どういった場所に、盗撮カメラを仕掛けていたのでしょかね?」
「そりゃ、女性の更衣室とか、ホテルの中なんかでしょうね。実際にも、そのような場所に盗撮カメラが仕掛けられた実例がありますからね」
「赤嶺さんもそのようなことをやっていたのでしょうかね?」
と、安仁屋は神妙な表情で言った。
「それは、分からないですよ。それ故、その点は安仁屋さんたちで明らかにしてくださいよ」
と野村は言っては、小さく肯いた。
この時、安仁屋の脳裏には、赤嶺が死に至った動機は、盗撮が絡んでるのではないかと思った。正に、盗撮という行為の背後には、殺人事件が潜んでいても、何ら不思議ではないと思ったのであった。
更に、赤嶺の部屋にアダルトビデオが少なからずあったことを思い出した。
そのようなものは事件には関係ないと思ったので、特に気に掛けないでいたのだが、アダルトビデオの中には、盗撮ものがいくらでもある。それ故、それに刺激され、赤嶺自身も盗撮に手を出したのかもしれない。
また、赤嶺の部屋の中には、赤嶺自身が盗撮したものをDVDやSDカードなんかに保存しているかもしれない。そして、その中に、事件を解く手掛かりが遺されているかもしれない。
そう思った安仁屋は、今度は赤嶺の部屋にあったDVDやSDカードをチェックしてみることにしたのだ。
赤嶺の部屋の中には、百本を超える程のDVDビデオがあった。
しかし、市販されているものは、関係ないだろう。市販されたDVDビデオには、赤嶺が盗撮した映像は保存されていないからだ。
それ故、明らかに市販されていたDVDビデオを除いたものがチェックされることになった。そして、その数は、十枚程であった。これなら、そう時間が掛からずに、チェックを終えることが出来るだろう。
すると、早々と安仁屋たちの推理は当たったと実感するようになった。
というのは、明らかに盗撮映像と思われる映像が、パソコンのディスプレイに映し出されたからだ。
そして、その映像はホテルの天井から映し出されたものであった。何故なら、ベッドの上で一戦交えてる男女の姿が映し出されていたからだ。そして、その十枚のDVDには、そういった映像が記録されていたのだ。
5
今まで赤嶺の事件を捜査した結果、赤嶺が盗撮マニアだということが分かった。そして、その盗撮行為が赤嶺の死に繋がった可能性はあると思ったが、では、具体的にどう関係したかまでは、まだ分からなかった。
そんな折に、安里治郎という那覇市内で内科医院を営んでいるという開業医が、赤嶺の死に関して、話したいことがあると言って、那覇署を訪ねて来た。
それで、そんな安里を安仁屋は応接室で応対することにした。
二人は応接室に入ると、安里は、
「赤嶺さんの事件は、解決しそうですかね?」
と、神妙な表情で言った。
「いや。まだまだという状況ですよ」
と、安仁屋は決まり悪そうに言った。
「そうですか」
と、安里は安仁屋から眼を逸らせ、少しの間、言葉を詰まらせたが、やがて、安仁屋を見やり、
「僕が今から言うことは、大したことではないかもしれませんが、よろしいですかね?」
「どうぞ。どんな些細なことでも構わないですから、遠慮なく話してくださいな」
と、安仁屋は穏やかな表情と口調で言った。
「実はですね。僕は生前の赤嶺さんとは付き合いがありましてね。つまり、僕たちは小学校の同級生であったのですよ。それはさておき、生前の赤嶺さんのことで、気になることがありましてね」
安里は眉を顰めては言った。
「それは、どんなことですかね?」
「言いにくいことですが、僕の妻は浮気をしてましてね。だが、僕はそのことを全く知らなかったのですよ。つまり、僕はそのことを赤嶺さんから聞いて知ったのですよ。
それはさておき、僕は赤嶺さんから妻の浮気を聞いた時に、信じることが出来ませんでした。何故なら、妻は大人しい性格で、僕を裏切ることなど、とても出来ないと思っていたからです。
それで、僕は赤嶺さんの話をなかなか信じることが出来なかったのですよ。
すると、赤嶺さんは、
『じゃ、奥さんが浮気相手とホテルから出て来た場面を写した写真を見せてやるよ』
と言ってはその写真を見せられたのですよ。それで、僕はその事実を知ったのですよ」
と、安里は淡々とした口調で言った。
そう安里に言われると、安仁屋は、
「成程」
と言って、肯いたものの、引き続き、安里の話に耳を傾けることにした。
「で、赤嶺さんは、偶然に僕の妻が浮気相手とホテルから出て来る写真を撮ったのだと僕は思っていたのですが、どうやらそれは違っていたみたいなのですよ」
と、安里は渋面顔で言った。
「それは、どういうことですかね?」
安仁屋は興味有りげに言った。
「赤嶺さんはその後、僕に、『奥さんはいつもどんな下着をはいているのですかね?』
と、僕に訊いて来たのですよ。
僕と赤嶺さんは、酒を飲み交わす程の親密な間柄だったので、そのような質問をして来たのかと僕は思ったのですが、それはともかく、僕は、
『白とか黒とかいった地味なものが殆どだよ』
と言いました。
すると、赤嶺さんは、
『奥さんが浮気する時は、赤の紐付きのものとか、紫色のTバックのものを履いてますよ。こんな下着をはいて浮気するのは、安里さんとの夜の生活に不満があるからではないですかね』
と、僕がびっくりするようなことを言ったのですよ。
それで、僕は赤嶺さんに、
『どうして僕の妻の下着の色を知ってるんだ?』
と訊いたのですが、赤嶺さんはにやにやしては、何も言おうとはしないのですよ。
しかし、
『とにかく、奥さんの箪笥の引出しなんかを調べてみてくださいな。安里さんが見たことの無い派手な下着が入ってるかもしれませんよ』
と、正に僕が気になることを言ったので、僕は妻が外出してる時に、妻の下着が入ってる箪笥の引出しを隈なく調べてみたのですよ。
すると、確かに赤嶺さんが言ったように派手な下着が入っていたのですよ」
と、安里は幾分か上擦ったような声で言った。そんな安里は幾分か興奮してるかのようであった。
安仁屋はそう安里に言われ、事の次第は凡そ分かった。
即ち、その安里の話からも、赤嶺がホテル内に盗撮カメラを仕掛けては、盗撮を行なっていたことが裏付けられた。赤嶺が盗撮カメラを仕掛けた室に、安里の妻が浮気相手と共に入って来たので、赤嶺はその事実を知ったのだ。
そう思った安仁屋に、安里は、
「これは一体どういうことですかね?」
と、いかにも神妙な表情を浮かべては言った。
それで、安仁屋は盗撮カメラのことに言及しようとしたのだが、そんな安仁屋が言葉を発する前に、安里は、
「刑事さん。僕は以前、TVで盗撮に関する番組を見たことがあるのですよ。つまり、ホテル内に密かに盗撮カメラがセットされてるのを、業者が盗撮カメラ発見器で暴き出すといった内容でした。で、赤嶺さんもその盗撮を行っていたのではないでしょうかね?」
と、再びいかにも神妙な表情で言った。
それで、安仁屋は、
「その可能性は十分にありますね」
と言っては、肯いた。
すると、安里は小さく肯き、そして、
「で、僕が何を言いたいかというと、赤嶺さんが殺されたのは、その盗撮という行為が関係してるのではないかということですよ」
と、その知的な面立ちを一層知的に見せては、力強く肯いた。
すると、安仁屋は、
「その可能性はありそうですね」
と言っては、小さく肯いた。安仁屋も実際にそう思っていたのだ。
しかし、安里という医師は、それ以上のことには言及出来なかった。
それで、安仁屋はこの辺で安里との話を終えることにした。
那覇市内で内科を営み、赤嶺の友人であったという安里治郎からは、確かに興味ある情報は入手したものの、しかし、それは既に安仁屋たちが入手してる情報の類であった。
それで、安仁屋たちはもう一度、赤嶺が盗撮したと思われるDVDビデオを検証してみることにしたのだが……