第八章 暴かれた事実

     1

 この時点で速水は一旦、高梨宅を後にしては、「ミチル」のホステスをしていた明美と徳田典子に、密かに入手した高梨の写真を見てもらった。
 すると、明美は、
「この男性に違いありませんわ。この男性はしきりに美知さんに言い寄っていましたよ」
 と、証言した。
 また、典子も、
「断言は出来ませんが、函館公園の近くで私が眼にした治子さんと一緒に歩いていた男性の気がします」
 と、証言した。
 この二人の証言を受けて、高梨の車の捜査令状が出た。高梨の車で、治子の死体を外人墓地にまで運んだ疑いがあったからだ。
 高梨は令状を見せられると、啞然とした表情を浮かべては、抗議したが、令状がある以上、どうすることも出来なかった。
 高梨のクラウンは、直ちに鑑識の手によって捜査が行なわれることになった。高梨のクラウンから、治子の物証が出れば、高梨を追い詰めることは可能というものだ。
 そして、高梨のクラウンのトランクの中に落ちていた髪の毛は、治子のものである可能性が高まった。というのは、治子は髪の毛を少し茶色に染めていたのだが、その茶色に染まった女のものと思われる髪の毛が、高梨のクラウンのトランクから見付かったからだ。
その結果を受け、高梨は直ちに函館中央署に任意出頭を要請され、訊問を受けることになった。
 すると、高梨は治子と交際があったことを認めたものの、治子殺害は頑なに否定した。トランクの中に治子のものと思われる髪の毛が落ちていたことに関して、
「それは、五月女さんが買い物をした時に、それを僕のクラウンのトランクの中に入れたのですよ。その時に落ちたんじゃないですかね」
 と、いかにも自信有りげな表情で言った。
 そんな高梨に、速水たちは反論することは出来なかった。
 また、治子が五月女と結婚後も、高梨は治子と付き合っていたにもかかわらず、その事実を認めなかったことに関しては、
「ですから、刑事さんに疑われるんじゃないかと思ったからですよ」
 と、いかにも決まり悪そうに言った。
 そう言った高梨に速水たちは再び反論することは出来なかった。
 だが、高梨の抗いはここまでであったようだ。
 というのは、治子の右手の人差指の爪に付いていた血痕が高梨のものだということが、DNA鑑定の結果、明らかとなったからだ。更に、高梨の左手に切り傷があったことから、それが治子が高梨に抵抗した時に付けたものだと推定された。
 そして、これらのことから、高梨を治子殺しの疑いで逮捕は可能だと、高梨に詰め寄ると、高梨は遂に観念したのか、徐々に真相を話し始めたのだ。

     2

「治子が俺を殺そうとしたんだ。それで、逆に殺してやったんだ。だから、正当防衛なんだ」
 高梨は、何ら悪びれた様も見せずに、淡々とした口調で言った。
 そんな高梨に、
「もう少し詳しく話してくれないかな」
 速水は穏やかな表情を見せては言った。
「さっきも言ったように、俺は治子が五月女と結婚してからも、密かに付き合っていたんだ。五月女は出張で外泊する時も多かった。そういった時を狙って、俺は五月女宅に押し掛けるんだよ。治子に事前にいつ、五月女がいないかを確認しておくというわけさ。
 で、治子が五月女が外泊する時を俺に話そうとしないと、俺は俺との関係を五月女に話してやるぞと少し脅せば、治子は話さざるをえないというわけさ。
 で、俺と肉体関係のある治子は、俺のことを拒むことは出来ない。それ故、俺は、度々五月女宅に泊まっていたというわけさ」
 と、高梨は語気を荒げては言った。
「六月十六日も、五月女さん宅に押し掛けていたのか?」
「ああ。そうだ。だが、その夜は、俺を家の中に入れようとはしなかった。それで、俺は『大声を出してやるぜ!』と、言ってやったんだ。
 すると、治子は渋々俺を家の中に入れたというわけさ。
 それから、いつも通りベッドに行ったんだが、治子は俺の隙を見て、俺の首をロープで絞めようとしたんだ。
 それで、そのロープを奪っては、逆に殺してやったんだ! つまり、正当防衛さ!」
 と、高梨は声高に言った。
「成程。で、あんたはいつから、治子さんと付き合うようになったんだい?」
「俺が、『ミチル』に通い始めたのは、治子が結婚する一年程前のことだったかな。治子はとても美人だったから、眼を付け、何とかものにすることに成功したんだ。
 ところが、五月女が治子をかっ払いやがったんだ! 悪いのは、五月女なんだ!」
 と、高梨はいかにも不満そうに言った。
「しかし、治子さんは結婚したんだから、あんたは諦めるべきだったんじゃないのかな」
「だが、治子は俺に恩があり、俺を拒むことは出来なかった。
 その恩とは、俺の妹が実は治子の友人で、その妹が治子が不良男に眼を付けられ困っていた時に巧みにその不良男を治子から遠ざけてやったことがあるんだ。
 そういった経緯があり、治子は俺のことを拒むことは出来なかったんだよ」
 と、高梨はいかにも感慨深げな表情を浮かべては言った。
 その高梨の自供により、治子の事件は解決したと、速水は看做した。
 だが、苅田の事件はまだ解決はしていない。
 それで、速水は、
「じゃ、あんたは苅田さんも殺したのかい?」
 と言っては、苅田の死顔の写真を見せた。
 高梨は少しの間、苅田の写真に見入っていたのだが、程なく、
「誰だい? この男は?」
 と、いかにも怪訝そうな表情を浮かべては言った。
「本当に知らないのかい?」
 速水は念を押した。
「ああ。間違いない。俺はこの男のことを見たこともないぜ!」
 と、高梨は甲高い声で言った。
「それ、間違いないかい?」
 速水は念を押した。
「ああ。間違いないぜ!」
 治子の事件を潔く自供した高梨がそう言うのだから、高梨は本当に苅田の死には関係ないのかもしれない。
「じゃ、京子ちゃんの死にも関係ないのかい?」
 そう速水が言うと、
「誰だい、京子ちゃんとは?」 
 と、高梨は再び怪訝そうな表情を浮かべた。
 それで、速水は京子ちゃんは五月女と五月女の先妻との子供で、二年前の五月に大沼湖に落ちて死亡した子供だと説明すると、
「その事件にも、俺は何ら関係はないぜ!」
 と、いかにも力強い口調で言ったのだった。

     3

 速水は苅田の捜査を続けている望月刑事から、捜査状況の説明を受けた。
 その時、望月刑事は、
「やはり、警部の推理は当っていました。苅田は二年前に大金を得てから、函館の十字街にあるクラブのホステスと付き合っていたことを確認出来ました!」
 と、声を弾ませて言った。
「ほう……。それで?」
 速水はいかにも興味有りげに言った。
「それ以外でも、かなり興味深い情報を入手出来たと、僕は思っています」
「それは、どんな情報だい?」
 速水は甚だ興味有りげに言った。
「苅田は二年前の五月頃、千五百万程の金を入手したと思われるのですが、その入手先なんですが、どうも女のようなんですよ」
「女?」
「ええ。苅田と付き合っていたそのホステスの話だと、苅田はそのホステスに、『俺は昔、付き合っていた女を煽てて、大金をせしめてやったんだ。まだ、付き合ってるんだが、その内に捨ててやるさ』と、言ったみたいなんだよ」
「成程。で、その苅田に金を貢いだような女に関して、何か手掛かりがあるのかい?」 
 速水は眼を大きく見開き、輝かせては言った。
「そのホステスが言うには、苅田が高校時代の学園祭で知り合った苅田より一歳年下の女子高生で、バトミントン部に入っていたそうです。で、ブスな為に男にもてずに、また、今も独身だそうです。また、働いてるから、相当、金を貯めてるとのことです」
「ほう……」
 速水は呟くように言った。
 そして、今の望月刑事の話から、苅田を殺したのは、その苅田と付き合っていたという苅田より一歳年下の女である可能性が高まった。苅田は、結婚などを餌に、女に金を貢がせたのだが、苅田は女を捨てたので、逆上した女は、事に及んだというわけだ。
「で、そのホステスが証言したその女に関して、それ以上のことは、分かっていないのかい?」
「ええ。そうです。それ以上のことは分かっていません」
「そうか。しかし、それだけ分かっていれば、その女を探し出すことは、不可能ではないよ。苅田が通っていた高校周辺でバトミントンが得意な苅田より一年歳下の女を見付け出せばいいのだからな」

     4

 速水と望月刑事は、早速、苅田が通っていたという東国商業高校周辺の女子高生を卒業アルバムなどを元に捜査してみた。
 すると、程なく、眼に留まった女がいた。
 それは、天野和枝であった。
 天野和枝とはどのような女であったかというと、和枝は大沼興業の事務員で、京子ちゃんの事件が起こった時に、京子ちゃんが乗っていた遊覧船に苅田と思われる男が乗っていたと証言した女性だ。その天野和枝が苅田が学園祭の時に知り合ったバトミントンが得意であった女子高生だったのだろうか? 正に和枝は苅田より一歳年下で、また、バトミントン部の副キャプテンをやっていたというのだ。
「苅田さん殺しは、天野さんだったのでしょうかね?」
 野村刑事は、いかにも神妙な表情を浮かべては言った。
「どうやら、そんな感じだな。天野さんは苅田さんに金を貢いでいたのだが、裏切られたので、頭に来たんだ。
 それで、苅田を殺し、その死体を大沼湖の小島に遺棄したんだ。天野さんなら、大沼興業のボートを自由に使えるからね。恐らく、深夜に遺棄したのだろう。そして、京子ちゃんの事件の時に、苅田と思われる男を眼にしたと我々に話し、京子ちゃんの事件の犯人が苅田さんだと我々に思わせようとしたのかもしれないな。そして、捜査を攪乱させようとしたんだ。
 何しろ、五月女さんの家族が相次いで変死してることもあり、我々はまんまと天野さんの偽証に翻弄され続けてしまったというわけだ!」
 と、速水はいかにも悔しそうに言った。
     
 既に和枝の友人に聞き込みを行ない、和枝が苅田と付き合っていたという事実を確認した速水は、野村刑事と共に、大沼に向かった。そして、大沼興業の事務所の中で勤務してる和枝の許に行った。和枝は、速水の顔を眼にすると、愛想良い笑みを浮かべた。
 そんな和枝に、速水は、
「天野さんに話があるのですがね」
 と、落ち着いた口調で言った。
「それ、どんなことですかね?」
 和枝は微笑を浮かべながら言った。
「ここでは話にくいので、会議室のような部屋はありませんかね?」
 と、速水は辺りに人がいるので、そう言った。
 すると、和枝は微笑を浮べたまま、
「じゃ、こちらにどうぞ」
 と、速水と野村刑事を、奥の会議室へと連れて行った。その会議室は八畳位の室で、丸テーブルを囲むように、折り畳みの椅子が五脚置かれていた。
 その椅子に、三人はそれぞれ、腰を掛けた。
 和枝は穏やかな微笑を浮べながら、
「私にどんな話があるのですかね?」
 と、速水と野村刑事を交互に見やっては言った。 
 そんな和枝に、
「実は妙なことが分かりましてね」
 速水は言いにくそうに言った。
「妙なこと? それ、どんなことですかね?」
 和枝は怪訝そうな表情を浮かべては言った。
「実はですね。この前に大沼湖の小島で死体で見付かった苅田利男さんと天野さんが、高校時代に付き合っていたことが、天野さんの友人から確認されたのですよ」
 そう速水が言うと、和枝の表情から笑みは消えた。そして、和枝の表情は、忽ち強張ったものへと変貌した。そして、何も言おうとはしなかった。
 そんな和枝に、
「それは、事実ですかね?」
 そう速水が言うと、和枝は黙って肯いた。
「で、天野さんは、高校卒業後も、苅田さんと付き合っていた時期がありましたね。二年前の五月には、確実に付き合っていましたね」
 そう速水が言うと、和枝は速水から眼を逸らせては、何も言おうとはしなかった。
 それで、速水は自らの推理、即ち、和枝は苅田に千五百万も貢いだにもかかわらず、苅田は和枝を捨てたので、逆上した和枝は苅田を殺したのではないかという推理を和枝に話した。
 すると、和枝は泣き出してしまった。速水が何を言っても、ただ声を上げて泣くばかりであった。
 そんな和枝に、速水は、
「苅田さんを殺したのは、天野さんなんですね?」
 と、まるで和枝を労わるかのように言った。
 すると、和枝は泣くのを止め、
「ええ」
 と、小さな声で肯いた。
 そんな和枝に、速水は、
「詳しく話してもらえますかね」
 速水は再び和枝を労わるかのように言った。
 すると、和枝はこの時が遂に来たのかと言わんばかりに、意を決したかのような表情を浮かべては、力強い口調で話し始めた。
「今から三年前の夏に、私は偶然に苅田と顔を合わせてしまったのです。私はその時も大沼興業で働いていたのですが、そこに苅田がやって来たのです。苅田はその当時、運送屋で働いていまして、大沼興業に小包を届けに来たのです。
 私は高校卒業後、その時、初めて苅田と再会したのです。苅田との付き合いは四ヶ月だったのですが、私は妙な懐かしさを覚えたのです。
 また、苅田には特に悪い印象は抱いていなかったので、苅田がその時、私に、『後日、会わないか』という誘いに、私は即座に応じたのです。
 私はブスであった為に、男の人からデートに誘われたことはありませんでした。それで、苅田の誘いに飛び付いてしまったのです。
 そして、苅田と函館で度々デートするようになり、やがて、肉体関係を持つようになりました。そして、その後、苅田は私に、『結婚してくれないか』と、言って来たのですよ。
 そう苅田に言われ、私は有頂天になってしまいました。私は生涯、そのような言葉は耳にすることはないと、思っていたからです。苅田は決していい男ではなかったのですが、私の相手としては、まずまずの男だと思ったのです。
 とはいうものの、苅田が窃盗犯で逮捕されたということを苅田から聞いた時は、私はショックでした。
 だが、苅田は独立して運送屋を始めようとしたのだが、うまくいかず、どうしても金が必要だったんだと、いかにも仕方なかったと言わんばかりに言ったのですよ。
 私は正に悲愴な表情を浮かべては、苅田が自らのことをいかにも不運者だったと言わんばかりに話すのを耳にし、やがて、苅田に同情してしまうようになったのですが、そんな頃を見計らってか、苅田は、私に『金を貸してくれないか』と言って来たのですよ。
 それで、私は、『いくら必要なの?』と聞いたところ、『二千万だ』と、苅田は言ったのですよ。
 そんな大金は私にはなかったので、そう言うと、苅田は、『二千万を何としてでも工面しないと、自己破産しなければならないんだ』と、苅田は泣きついて来たのですよ。
 それで、いずれ結婚するのだから仕方ないと私は思い、私が貯めていた貯金の全てである一千三百万と、更にサラ金から借りた二百万を苅田に渡したのですよ。
 すると、苅田はとても喜びました。私はそんな苅田を眼にして、とても嬉しくなったのですよ。
 そして、その後も、苅田との付き合いは続きましたが、苅田は徐々に私に冷淡になって来ました。そして、遂に、『結婚するのは、止めよう』と、言って来たのですよ。
 私はそう言われ、愕然としました。私は、まさかそこまで言うとは、思ってはいなかったからです。
 私は苅田に何度も翻意を促しましたが、駄目でした。
 そして、冷静になって考えてみると、苅田は最初から私と結婚するつもりはなかったということに、気付きました。
 つまり、結婚を餌に、また、自己破産を餌にして、私から金をせしめるつもりだったのですよ。そして、私はまんまと苅田のその姦計に引っ掛かってしまったのですよ。私が男にもてないことを知っていた苅田は、最初から私を騙すつもりだったのですよ。
 とはいうものの、私は苅田に貸した千五百万を返してよと、言いました。でも、苅田はまるでそんな私を相手にしません。
 それで、私は『告訴するわよ!』と言ったのですが、借用書もないし、また、苅田は苅田にくれたものだから、返す必要はないとか言うのですよ。
 そう言われ、改めて、私は何と馬鹿だったのかと思いました。要するに、私は借用書を苅田に書かせなかったのですよ。
 それで、弁護士にも相談したのですが、よい返事は得られませんでした。それで、両親に助けてもらい、サラ金の返済は何とか終えたのですが、やはり、悔しくて仕方ありませんでした。
 それで、苅田と別れてからも、密かに苅田のアパートに行っては、苅田の様子を窺おうとしました。私の夢を打ち砕いた苅田がどうしてるか、私は興味があったのです。
 すると、苅田は何と、苅田の部屋に女を連れ込んでるではないですか! 私がどんなに逆上したか、察してもらえるかと思います。
 そして、その時、私は決して苅田を許すまいと思いました。そして、いかにして苅田に復讐しようかと、考えていたのですが、そんな折、即ち、今年の五月に、何と苅田が私に電話をして来ては、縒りを戻してくれないかと、言って来たのですよ。
 私は、正に呆気に取られてしまいました。
 また、苅田の魂胆を見抜けない私ではありません。苅田は金が尽きたから、再び私に金を無心しようとして来たのですよ。
 それで、私は苅田の求めに応じた振りをしては、苅田とデートをし、函館郊外の人気のない所で、苅田の胸をナイフで一突きで殺してやりました。
 後は、刑事さんの推理通り、私の会社のボートを使っては、苅田の死体を大沼湖の小島に遺棄したというわけですよ。
 何故、苅田の死体を大沼湖の小島に遺棄したかというと、二年前の五月の京子ちゃんの事故と、苅田の死を関係させるように警察を欺いてやろうと、私は目論んだのですよ。
 というのは、京子ちゃんが死んだ頃、私は苅田に千五百万を渡しました。
 私は新聞で、五月女さんの前妻が洞爺湖畔で事故死し、その犯人がまだ見付かっていないことを知っていました。それ故、五月女さん一家の災難を利用してやろうと考えたのですよ。
 即ち、五月女さんの前妻が轢き逃げにより事故死し、五月女さんの子供は大沼湖で事故死しました。その二つの事件に前科者の苅田が絡めば、警察は苅田のことを疑うのではないかと、私は考えたのですよ。
 そして、うまく行けば、苅田を五月女さんの前妻殺しの犯人、更に京子ちゃん殺しの犯人に思わせることが、可能だと思ったのです。そして、苅田を殺した犯人は、五月女さん周辺の人物だと、警察に思わせる事が出来るのではないかと思ったのですよ。
 何しろ、京子ちゃんが事故死した時に、私は遊覧船の改札係をやっていましたからね。そして、その時、苅田に似た人物を眼にしたと警察に証言すればよいというわけですよ。そうすれば、警察は、苅田の死と五月女さん一家が見舞われた事件とを関係づけると私は読んだのですよ。何しろ、私と苅田が付き合っていた時期はとても短かったので、私と苅田が知人関係にあったと見破られることはないと、思っていたのです。
 そして、その私の読みは当たったようですが、結局、警察は真相を突き止めたというわけですよ」
 と言い終えた和枝の表情は、とても悔しそうであった。
 そんな和枝に、
「天野さんは苅田を殺してから、苅田の部屋に侵入し、天野さんが関係してそうなものを持ち去りましたかね?」
「ええ。そうしましたよ」
 和枝は、平然とした表情を浮かべては言った。

 和枝の自供を受けて、苅田を殺した時に用いたというナイフが、和枝の供述通りに大沼湖から見付かったことから、和枝は苅田殺しの疑いで逮捕されたのであった。

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