第十章 氷解する謎
1
大沢の事件の捜査状況はそんな具合であったが、では、その他の事件、即ち、長倉強の事件、永山沙希の事件、高柳教授の事件の捜査状況はその後、どうなっていたかというと、長倉の事件では進展が見られていた。というのは、長倉が熱を上げていたという「花園」でホステスをしていた吉川千佳が、警察に意外な証言を行なったからだ。
その日、即ち、十一月二十日は、かなり寒い日となっていた。ほんの一週間前はまだまだ冬の気配は感じられなかったものの、その日、札幌には初雪が降り、一気に冬の到来を思わせる一日となってしまった。
とはいうものの、今は午後五時であり、多くのサラリーマンは帰宅までは後一仕事という塩梅であった。
そんな折に、街を歩けば、さっと男の視線を集めそうな吉川千佳が、中央署に姿を見せたのだ。
そして、長倉さんの事件で警察に話したいことがあると、来意を受け付けに告げると、千佳は奥の室に案内され、そこで川崎と話をすることになったのだ。
そして、程なく川崎が千佳の前に姿を見せた。
そんな川崎は、千佳には以前聞き込みを行なったことがあったので、無論、千佳のことは覚えていた。それで、川崎は千佳を眼にすると、
「これはどうも」
と、些か表情を和らげた。
そんな川崎に千佳は少し頭を下げた。
そして、川崎と千佳はテーブルを挟んでソファに腰を下ろすと、川崎は、
「長倉さんのことで何か話したいことがあるとか」
と、いかにも興味有りげに言った。
すると、千佳は、
「ええ」
と言っては、小さく肯いた。
すると、川崎はいかにも興味有りげな表情を浮かべては、
「それはどういったことですかね?」
「実はですね。私は長倉さんの死に関係してるかもしれないのですよ」
そう千佳に言われると、思わず川崎の表情に緊張の色が走った。そんな川崎に構わず、千佳は話を続けた。
「私が聞いたところによると、長倉さんが死んだのは、お金の所為だとのことですが」
と、千佳はいかにも神妙な表情を浮かべて言った。
そう千佳に言われ、川崎は長倉が大沢に貸した四百万のことを思い出した。長倉は大沢に貸した四百万を大沢から取り戻そうとしたのだが、大沢はそれに応じず、その結果が長倉の死に繋がったというケースも川崎たちは想定したのだ。
もっとも、今となっては、その推理は誤った推理である可能性が高いと看做してはいたが、その思いは千佳には話さず、川崎は、
「その可能性はありますね」
と言っては、小さく肯いた。
すると、千佳も肯き、そして、
「実はですね。そのお金が私に関係してるのではないかと思うのですよ」
と、千佳は正に決まり悪そうな表情を浮かべては言った。
その千佳の言葉は、正に川崎にとって初耳であった。それで、川崎はいかにも興味有りげな表情を浮かべては、
「それ、どういうことですかね?」
そう川崎が言うと、千佳は俯き、そして、少しの間、言葉を詰まらせたが、程なく、
「私は長倉さんに、マンションを買ってよと、ねだっていたのですよ」
と、いかにも言いにくそうに言った。
「マンションですか……」
「そうです。私は長倉さんがバーテンダーをやっていた『花園』というクラブで働くようになってから、長倉さんと知り合ったのですが、私が『花園』を辞めてからも、長倉さんとの付き合いは終わりませんでした。でも、私には長倉さん以外の彼がいたのです」
千佳は俯きながら、いかにも言いにくそうに言った。そして、
「それで、長倉さんと付き合うのを止めようと思い、その旨を長倉さんに言ったところ、長倉さんはあっさりと応じてくれなかったのですよ。
もっとも、私も長倉さんのことは決して嫌いではなかったので、長倉さんに、『じゃ、私にマンションを買ってよ。そうしてくれるのなら、渡辺と別れてやるわ』と、言ったのですよ。
もっとも、私は長倉さんがマンションを買う位のお金を持っていないことは分かってましたので、長倉さんに実現不可能な要求を突きつけ、私のことを諦めさせてやろうと、私は思ったというわけですよ。ところが……」
そう言っては、千佳は少し咳をし、更に話を続けた。
「ところが、私がそう言うと、長倉は、『友人に金を貸してあるんだよ。その金を取り返せば、千万位の金は出来るさ。それを元にローンを組めば、マンションは買えるよ』と、言ったのですよ。そう言われ、私はびっくりしてしまったのですよ。
それはともかく、長倉さんがその友人に貸したお金を取り返そうとして、その結果、長倉さんが殺されたのなら、責任は私にあるというわけですよ」
と言っては、千佳は項垂れた。そんな千佳は、正に長倉が死んだのは自らの責任だと言わんばかりであった。
すると、そんな千佳に、
「まだ、長倉さんが取り返そうとしたお金が、長倉さんの死の動機になったというのが、真相だと決まったわけではありません」
と言っては、川崎は小さく肯いた。そんな川崎は、千佳を勇気づけるかのようであった。
すると、千佳は幾分か表情を和らげたかのようであったが、すぐに神妙な表情を浮かべ、そして、
「でも、長倉さんが死んだのは、青酸によってなんですよね?」
と、今度は川崎を見やっては、いかにも渋面顔を浮かべては言った。
そんな千佳に、
「そうですよ」
と、川崎は小さく肯いた。
すると、千佳も小さく肯き、そして、
「それも、私に関係してるかもしれないのですよ」
と、今度は川崎から眼を逸らせては、いかにも決まり悪そうな表情を浮かべては言った。
すると、川崎は驚いたような表情を浮かべた。その千佳の言葉は、正に意外なものであったからだ。
それで、
「それ、どういうことですかね?」
と、いかにも興味有りげな表情を浮かべては言った。
すると、千佳は俯き、少しの間、言葉を詰まらせたが、やがて、川崎に眼を向けては、
「恐らくその青酸で長倉さんは私の彼氏を殺そうとしたんじゃないかと思うのですよ」
と、ちらちらと川崎を見やっては、いかにも決まり悪そうに言った。
すると、川崎は呆気に取られたような表情を浮かべた。まさか、そのような言葉を千佳から聞かされるとは思ってもみなかったからだ。
そんな川崎に千佳は渋面顔を浮かべながら、更に話を続けた。
「長倉さんは私に随分のめり込んでいたのです。そして、私を長倉さん一人のものにしておきたかったみたいです。それで私のもう一人の彼に、もの凄く嫉妬していたのです。また、私のその彼は、やくざのような男なので、私を長倉さんがものにしたということをその彼に知られれば、長倉さんがどのような目に遭わされるか分からないということを、長倉さんは私から聞かされていました。
それで、長倉さんは私の彼であった渡辺のことを『殺してやればいいさ』と、言ったのですよ」
と、千佳はまるで川崎に言い聞かせるかのように言った。そして、更に話を続けた。
「そんな長倉さんに私は、『危ないことは止めてよ』と言ったのですが、長倉さんは、こう言ったのですよ。
『僕には青酸を手に入れるつてがあるんだ。だから、その青酸で渡辺を地獄に送ってやるさ』と言ってにやっとしたのです。
でも、その話はその後、私たちの間では話題にならなくなったのですが、長倉さんに死をもたらした青酸は、やはり私の彼であった渡辺を殺そうとする為に長倉さんが入手し、そして、何故か長倉さんを死に至らしめてしまったと私は思ってるのですよ」
と、千佳はいかにも決まり悪そうに言った。そんな千佳は、正に長倉の死には千佳が大いに関係してると言わんばかりであった。
そう千佳に言われ、今までもやもやとしていたものが、一気に晴れたという思いを川崎は抱いた。即ち、今までは何故長倉が青酸を手にしようとしたのかが、捜査の重要なポイントとなっていた。何故なら、青酸を入手するのは、殺人に用いる為であるというのが明らかであったからだ。そして、その長倉が殺そうとしていた相手に、長倉は逆に殺されてしまったと推理し、川崎たちは今まで捜査を進めたのだ。そして、その結果、、山村と大沢が捜査の対象となったのだが、その二人はいずれも長倉殺しの犯人としては、可能性が低いという結論となった。だが、それもそうであろう。長倉はこの二人を殺そうとしていたわけではなかったのだから。長倉が殺そうとしていたのは、千佳の彼氏であった渡辺という男であったのだ。それ故、川崎たちが捜査しなければならなかったのは、この渡辺という男であったのだ!
それはともかく、川崎は千佳に、
「で、長倉さんが誰から青酸を入手したということは、確認したのですかね?」
と、千佳の顔をまじまじと見やっては言った。すると、千佳は、
「いいえ」
と、頭を振った。
すると、川崎も眉を顰めた。長倉が青酸を手に入れたという事実を確認しないことには、捜査は前進しないからだ。
それで、川崎は渋面顔を浮かべたのだが、そんな川崎に千佳は、
「でも、長倉さんはきっと青酸を手に入れたのだと思います」
と、毅然とした表情で言った。
「何故そう思うのですかね?」
「長倉さんは誰から青酸を入手するのかを、私にそれとなく言及していました」
「ほう……。それは、誰ですかね?」
川崎はいかにも興味有りげに言った。
「何でも、S大に助手をやってるとてもブスな女だと言ってました。その女とは『花園』で知り合い、そして、詳しい経緯は知りませんが、何でも長倉さんはその女と男女の関係を持つようになったそうです。それで、その女から手に入れられるということを私に仄めかしたというわけですよ」
そう千佳に言われ、川崎の脳裏には自ずから星川知美のことが思い浮かんだ。星川知美はしきりに長倉との事件との関わりを否定していたとのことだが、今の千佳の証言からは、やはり、事件には知美の存在が大いに関わっていたということを改めて確認出来たというわけだ。
とはいうものの、今の千佳の証言の裏を取る必要はあるだろう。
「で、その女から実際に青酸を入手したということは確実なんですかね?」
と、川崎は訊いてみた。
「ですから、さっきも言ったように、私はそう長倉さんから仄めかされていただけなんですよ。で、実際にも長倉さんは青酸によって死にました。それを聞いて、私は長倉さんはその女に殺されたのではないかと思った位なんですよ」
と、千佳は興奮の為か、些か声を上擦らせては言った。
そう千佳に言われ、川崎は眼を輝かせた。何故なら、川崎たち捜査陣も、今は星川知美を長倉殺しの最右翼に置いていたからだ。
とはいうものの、その思いを千佳に話すことなく、更に千佳の話に耳を傾けることにした。
「というのも、長倉さんはその女のことを随分と蔑んでいましたからね。青酸を手に入れる為に付き合っているにもかかわらず、その女は長倉がその女に気があると思ってるという具合に。
そんな具合でしたから、その長倉さんの思いにいずれその女は気付いたと思うのですよ。そうなれば、正に可愛さ余って憎さが百倍というわけですよ。その女は、長倉さんの隙を見て、青酸を水なんかに入れ、長倉さんを殺害したというわけですよ」
と、千佳はいかにも自信有りげな表情と口調で言った。そんな千佳は、正にそれが長倉の死の真相だと言わんばかりであった。
そう千佳に言われ、川崎は、
「成程」
と、まるで千佳に相槌を打つかのように言った。何しろ、川崎たち捜査陣の推理も、正に今の千佳の推理と同じようなものだったのだ。それ故、千佳の言葉に川崎が肯いたのも、当然のことであった。
とはいうものの、やはり、裏付けがない。今の千佳の推理を星川知美に否定されてしまえば、それは単なる推理に過ぎなくなるのだ。
それで、その思いを川崎は千佳に話した。
すると、千佳は、
「そう言われても……」
と、言葉を濁した。
それで、この辺で千佳に対する聞き込みを終えることにした。そして、今度は、千佳の彼氏であったという渡辺という男から少し話を聞いてみることにした。
川崎の感触としては、長倉を殺したのは、渡辺というよりも、知美の方が可能性は高いと思った。
だが、念を入れて捜査してみることにしたのだ。
2
渡辺は札幌にある「エコー」という小さなサラ金で働いていた。そんな渡辺を一眼見て、川崎はやくざ であるような印象を受けた。そして、実際にもそうなのかもしれない。
だが、そうだからといって、渡辺が犯人であるとは限らないであろう。
そんな渡辺に、まず千佳と付き合ってることを訊いてみた。すると、渡辺はあっさりとそれを認めた。
次に大通公園で死体で見付かった長倉が、千佳と付き合っていたが、そのことを知っていたか、訊いてみた。
すると、渡辺はあっさりとそれを認め、
「正にざまみろという感じだよ」
と言っては、にやっと笑った。
「何故そう思うのですかね?」
「何故って、千佳は俺の女なのに、横から手を出したから、天罰が当たったのさ。だから、ざまみろというわけさ」
と言っては、渡辺は冷笑を浮かべた。
そんな渡辺に、長倉の遺体が遺棄されたと思われる頃、渡辺が何処で何をしていたか、訊いてみた。
すると、渡辺は、
「その頃は、連れと麻雀をやってたさ」
「何処でやってましたかね?」
「『つるや』という雀荘さ。嘘だと思うのなら、訊いてみなよ」
と言ったので、とにかくその「つるや」という雀荘で、渡辺の証言を確認してみた。
すると、「つるや」の女将が渡辺のことを知っていて、渡辺の証言が正しいことを証言した。
これによって、渡辺は長倉の事件に関係なさそうな成り行きとなった。
それで、渡辺のことはこれ以上、捜査しようとはせずに、今度は渡辺より遥かに長倉の事件に関係ありそうな星川知美のことを捜査してみることにしたのであった。
3
知美の前にまたしても姿を見せた馳を眼にして、知美は露骨に嫌な表情を浮かべた。そんな知美は、またしても疫病神がやって来たと言わんばかりであった。
そんな知美に、馳は、
「実は妙なことが分かりましてね」
と言っては、唇を歪めた。
「妙なこと? それ、どんなことですかね?」
と、知美も唇を歪めた。
そんな知美に、馳は、
「星川さんは以前、長倉さんと私的に付き合っていたことを認めてはくれましたね」
そう馳が言うと、知美は十秒程言葉を詰まらせたが、
「ええ」
と、小さな声で言った。
すると、馳は小さく肯き、そして、
「で、そんな馳さんとは男女関係がありましたかね?」
そう馳が言うと、知美は些か顔を赤らめては、言葉を詰まらせた。
だが、程なく、
「そのような問いに答えたくはないですわ」
と、素っ気なく言った。
そんな知美に、馳は、
「で、何故長倉さんは星川さんと付き合うようになったのですかね? それに関して説明してもらいたいのですが」
すると、知美は、
「何故そんなことを話さなければならないのですかね?」
と、いかにも不満そうに言った。
「ですから、長倉さんの死の真相を解明する為ですよ」
「何故、その為に、私と長倉さんのことが関係してるのですかね?」
「ですから、星川さんと長倉さんの関係が、長倉さんの死に関係してるかもしれないからですよ」
と、馳は些か強い口調で言った。そんな馳は、捜査に協力しないのなら、署で話を聴かせてもらいますよと、言わんばかりであった。
そんな馳の意図を察知したのか、知美は、
「男女関係はありませんでしたわ」
と、いかにも素っ気なく言った。
「それは間違いないですかね?」
馳はいかにも真剣な表情を見せては言った。
すると、知美は、
「間違いありませんわ」
と、いかにも真剣な表情を見せては言った。
すると、馳はにやっとした。その馳の笑みは、些か嫌味のある笑みであった。
そして、馳は持参して来た鞄から、一枚の写真を取り出し、知美に見せた。
それで、知美はさっとその写真を見やったのだが、すると、そんな知美の表情は、忽ち強張ってしまった。何故なら、その写真は、知美が裸でベッドに横たわってるものであったからだ。
そして、その知美の写真を眼にすれば、その時、知美が何をしていたのかが、自ずから察せられた。
それで、知美は正に顔を真っ赤にさせては、俯いてしまった。
そんな知美に、馳は、
「この写真を何処で入手出来たのかと思いますかね?」
と、知美をまじまじと見やっては言った。そんな馳の様は、些か険しさが見られた。
そう馳に言われても、知美は言葉を詰まらせた。そんな知美は正にその写真を見せられて大いに動揺してるかのようであった。
そんな知美に、馳は、
「この写真は長倉さんのパソコンの中に保存されていたのですよ。また、この写真は携帯電話で撮られたことも分かっています」
「……」
「このことが何を意味してるかを、大学の助手をやられている星川さんに敢えて説明するまでもありませんね」
と、馳は知美をまじまじと見やっては、いかにも冷やかな表情と口調で言った。
だが、知美は馳から眼を逸らせたまま、言葉を発そうとはしなかった。
だが、この時点で知美が馳に嘘をついたことは証明された。
となると、知美の今までの馳への証言は偽だったという可能性はある。
それを受けて、知美は中央署で取調を受ける羽目に陥ってしまった。中央署での取調に応じないのなら、公務執行妨害で逮捕すると馳に言われてしまえば、知美は馳に従わざるを得なくなってしまったのだ。
4
中央署の取調室で、馳や川崎と向い合った知美は、馳たちから眼を逸らせ、いかにも決まり悪そうであった。
そんな知美に、川崎がまず千佳の証言、即ち、馳が知美から青酸を入手したのではないかと、言った。
すると、知美は、
「そのようなことはやってませんわ」
と、蚊の鳴くような声で言った。
すると、川崎は、
「嘘をつけ!」
と、知美に怒声を浴びせた。そんな川崎は、一体どれだけ嘘をつけば気が済むんだと言わんばかりであった。
「後で今の証言が嘘だと分かれば、星川さんは一層我々の信用をなくすことになり、また、後で星川さんが逮捕された場合、星川さんの罪が重くなりますよ」
と、川崎はいかにも厳しい表情で知美を睨み付けた。そして、
「長倉さんのことだから、きっと星川さんから青酸を入手したという何らかの証拠を残してますよ」
と言っては、川崎は唇を歪めた。そして、
「星川さんはお金を餌に長倉さんと私的に付き合うようになったのだが、そんな星川さんを侮辱するような発言を長倉さんは吐いたのではないですかね? それで、長倉さんに青酸入りの水を飲ましたりして、星川さんは長倉さんを殺害したのではないですかね? 我々の今までの捜査では、その可能性が最も高いと看做してるんだがね」
と、馳は知美を睨み付けた。そんな馳は、この辺で何もかもを洗い浚いに吐いたらどうだと言わんばかりであった。
だが、知美は何も言おうとはしなかった。
それで、馳は、
「長倉さんの遺体が遺棄された頃、黒いサングラスを掛けた不審な中年女性が目撃されてるんだ。その女性の年齢とか身体付きは、凡そ星川さんと一致してるんだ。これらのことから、まず長倉さんの死体遺棄の疑いで逮捕出来るんだぜ」
と言っては、馳は唇を歪めた。
だが、知美は決して馳たちの推理を認めようとはしなかった。
それで、一旦、知美を帰宅させることになった。
何しろ、知美は強情な女なので、もっと強い証拠がなければ逮捕出来ないというのが、捜査陣の一致した意見であった。
また、警察に堂々と嘘をついたことが明らかになった今、長倉の事件だけではなく、沙希の事件、高柳の事件も知美が引き起こしたという見方は、馳たちの間で強いものとなっていた。
それで、今後、どうやって知美を追い詰めていくかが、捜査会議で論議されることになった。