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さて、国男は今、どうしてるかというと、それは食料の調達だ。ここしばらくの間、六人があの汚らしい廃屋で過ごさなければならないのだ。そして、その為には食糧と水が必要なのだ。それを調達する為に、近くのスーパーに行ったのだ。そして、今、その調達を終え、車に乗り込んだのだ。
それはともかく、虎之助はこの時点でやっと眼が覚めた。国男たちが入れた睡眠薬の量が多かったのか、かなりの時間、眠り込んだみたいだ。
虎之助は眼が覚めたといえども、いつもと勝手が違うことに忽ち気付いた。何しろ手足をロープで括られ自由が利かず、また、眼にもアイマスクのようなものを掛けられ視界が利かず、また口にも猿轡を噛ませれ、言葉を発することが出来ないのだ。この只ならぬ事態を目の当たりにして、それは虎之助の平静を奪うのに十分であった。
それで、虎之助は意識が無くなるまでのことを思い起こしてみた。
だが、特に不審な出来事に心当たりなかった。このような状態に陥るからには、余程のアクシデントに見舞われなければならないのだが、虎之助にはそのようなアクシデントはまるで思い出せないのだ。ただ、国男たちと夕食を食べてから以降のことを虎之助は思い出せないのだ。そして、その夕食のメニューは、国男が作ったという肉とか野菜がたっぷりと入ったシチューだったのだ。そして、それ以降のことを虎之助は覚えていないのである。
そんな虎之助は、とにかく懸命に身体を動かしてみた。虎之助の動きを封じてるものを何とか出来ないかと思ったのだ。
すると、その時、虎之助が聞いたことのない声が聞こえた。その声はこう言った。
「やっと眼が覚めたな」
それは、全く虎之助が耳にしたことのない声であった。また、眼にはアイマスクが掛けられていた為にその声の主がどういった男なのか確認出来なかった。
そんな虎之助に龍雄は更に話を続けた。
「あんたは正に可哀そうだよ。自分の息子たちにこのような目に遭わされてしまったんだからな」
龍雄は国男から虎之助は物事の是非の判別がつかない惚け親父だと聞かされていたので、何を言っても構わないと解し、つい本来なら口にすべきではないことを口にしてしまった。また、このような言葉を発してはいけないと龍雄たちに説明しておかなかったのは、国男たちの手落ちだと言えよう。
それはともかく、今の言葉によって、虎之助は事の次第を理解した。
即ち、虎之助をこのような目に遭わせたのは、国男たちだったのだ! 虎之助はそのケースを思ったことはあったのだが、しかし、可能性としては小さいと思っていたのだが、しかし、その虎之助の読みは、あっさりと外れてしまったのだ!
そんな虎之助に龍雄は、
「まあ、気の毒だが、我慢しろよ」
そう虎之助の知らない男は言っては、その後、男の声は聞こえなくなった。
だが、虎之助は更に事の次第が読めて来た。即ち、この男は恐らく国男たちが手配したのだ。どうやって手配したのかまでは分からないが、とにかく虎之助の自由を奪い、その見張りを請け負ったのであろう。そして、ここは自宅ではないと思った。何故なら、床がいやに埃っぽいからだ。自宅なら、このような場所はないというものだ。
そう思った虎之助は、何故国男たちが虎之助をこのような目に遭わせたのかも思ってみた。そして、その答えは、やはり金だと思った。虎之助は最近になって、虎之助の遺産を国男たち遺さないようにする旨を度々話し、また、自らの借金で窮地に立っている国男たちを助けようとはしなかった。国男たちはそんな虎之助を見切り、こうやって監禁し、その金を自由にさせまいとしたというわけだ。
だが、虎之助が生きてる限り、国男たちは虎之助の金を自由には出来ないであろう。その点に関して国男たちがどのように思ってるのか、そこまではまだ虎之助は分からなかった。また、虎之助をこのような目に遭わせた位だから、安子をどうにかしたのも、国男たちだと虎之助は確信したのであった。
それはともかく、国男たちは国男たちが立てた計画を早めに実行することにしていた。というのは、この廃屋に長居すれば国男たちがいることを何者かが眼に留め、不審な思いを抱く可能性が十分にあるからだ。この辺りの住人なら、この廃屋に普段は人が住んでないことは熟知している。また、この廃屋のオーナーのことも熟知してる者もいるかもしれない。そうなると、国男たちがそのオーナーと無関係の者と気付くかもしれない。そうなれば、それは正に国男たちにとってやばいというわけだ。それ故、国男たちはこの計画を当初思ってた以上に早めに実行しなければならないと認識したのである。