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 今、熊男は実のところ、虎吉に不審な思いを抱いていた。というのは、昨夜虎吉とは別の部屋で眠ったのだが、今日の午前八時半頃まで虎吉と顔を合せなかった。熊男は今朝は午前七時には眼が覚めると、早速リビングで虎之助たちの様子を見に行ったのだが、確かにリビングには虎之助と森内という男がいた。それで一安心し、次に虎吉が眠ってる部屋に行ったところ、虎吉はいなかったのだ。それで、虎吉は何処に行ったのかと思っていたのだが、八時半になった頃、虎吉は外から戻って来たのだ。それで、熊男は虎吉に何処に行ってたのかと訊いてみたところ、虎吉は外で虎之助たちが逃げないように見張っていたと言うのだ。それで、虎吉はよく気が利くなと思ったのだが、しかし、今、思ってみると、その虎吉の説明は嘘ではなかったのか? 外で見張っていたのではなく、ひょっとして虎吉は家に戻っていたのではないのか? 何故、戻ったのかというと、その理由は国男を殺す為だ。虎吉とて馬鹿ではない。相続人が一人減れば、虎吉の相続分が増えることは当然のことだ。それ故、国男が自宅に戻ったのをチャンスとばかりに国男を殺したのではないのか? 昨夜、国男が自宅に戻ったことを知ってるのは熊男と虎吉しかいないのだ。熊男が犯人でないとなると、可能性としては虎吉しか考えられないのだ! 国男が偶然に強盗に襲われたという可能性は極めて小さいのだ! 虎吉は口では虎之助殺しに反対してはいたが、熊男は虎吉の残忍さをよく知っていた。虎吉は中学生の時に飼い犬のダックスフンドを何と柳刃包丁で刺し殺したのだ。そのダックスフンドの顔が気に喰わないという理由で、虎吉は何と日下部家の飼い犬をあっさりと殺したのだ! それ故、虎吉は正に何をするか分からないのだ。それ故、国男を殺したのは虎吉かもしれないのだ! 虎吉は密かにこの別荘を抜け出し、国男を殺しては、何食わぬ顔をして、戻って来たのかもしれないのだ。
 そう思うと、熊男の表情には自ずから一層陰りが見られるようになったのだ。
 それはともかく、その日は確かに昼のニュースでは国男の死という衝撃的なニュースが熊男と虎吉にもたらされた。だが、熊男と虎吉は国男を失ったとしても、当初の計画は実行するつもりでいた。即ち、虎之助をRVボックスに入れ、裏山の穴に埋めては殺すという計画はやはり実行するというわけだ。また、国男が死んだ今となれば、今すぐにでも大河内と森内と田中を解雇して、熊男と虎吉の二人だけでこの計画を実行しても構わない位であったのだが、熊男としてはやはり自らの手で虎之助を殺すということには抵抗を感じた。それ故、国男が考え出した理屈を尊重し、やはり大河内や森内や田中たちの手を借りて、虎之助殺しを実行しようとし、そして、その実行日は明日ということが、熊男と虎吉との間で決まったのであった。だが、翌朝になって、またしても異変が発生してしまったのだ。この別荘に来てからの異変は国男の死だけとはならなかったのである!
 午前七時が近付いたので、熊男は田中が待機してる部屋に向かった。午前七時からは、森内に代わって田中が虎之助の見張りをする番であったからだ。それで、熊男は扉をノックしながら、「田中さん!」と言った。だが、反応は見られなかった。
 それで、熊男は中に入ってみたのだが、田中の姿は見られなかった。それで、熊男はリビングに行ってみた。だが、そこには田中は見られずに、ただ、森内と虎之助の姿が見られるだけであった。
 それで、熊男は少し首を傾げながら、とにかく森内をリビングの外に連れ出しては、田中のことを訊いてみた。だが、森内は「知らない」と答えた。それで、熊男は廃屋の中を探し回ったのだが、田中は見付からなかった。田中の姿は忽然と消えてしまったのだ!
 その事実を目の当たりにして、熊男は、
「あのおっさん、何処に行きやがったんだ」
 と、舌打ちした。
 そんな熊男は田中の消失の理由を推測すら出来なかった。というのは、何となくひ弱そうな大河内という男がこの場から逃げ出したというのなら分からないわけでもない。しかし、田中という男は正に神経の図太い労働者風の男で熊男たちが雇った三人の中では最もこの場から逃げ出さないような男だったのだ。それ故、熊男は田中の失踪の理由が分からなかったのである。
 では、その田中は今、どうしてるかというと、田中は今、吊橋が有名な城ガ埼海岸近くの遊歩道で横たわっているのが、観光客によって発見されていたのである!


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