第十二章 寄せられた情報 

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 城ガ埼海岸で刺殺体で見付かった男の身元は、沖縄在住の赤嶺定吉であったことは判明した。だが、その動機はまだ明らかではなく、また、有力な容疑者もまだ浮かんではいなかった。そんな折に、定吉の遺体が発見された城ガ埼海岸の近くで、今度は三十位の男の刺殺体が発見された。その男も定吉と同じく鋭利な刃物で心臓を突かれてのショック死であった。その犯行の手口と死体の発見場所からして、二人を殺した犯人は同一である可能性が高まった。また、金城の捜査から、定吉はどうやら仕事を求めて沖縄を離れ、中部地方で土木工事なんかに従事していた可能性があるとのことだ。それ故、定吉が求めたという仕事が絡んで何かトラブルが発生し、事件となったのかもしれない。
 それはともかく、早急に大室山近くで発見された男の身元を確認する捜査が行なわれた。
 すると、蛭田の許に興味ある情報が寄せられた。その情報とは、定吉の遺体が発見される前日、東京のM川河川敷で日下部国男という三十の男の刺殺体が発見されたのだが、その手口は定吉や大室山近くで発見された男と同じく鋭利な刃物で心臓を突かれたことによるショック死であり、また、国男の死を国男の家族に伝えようとしても、その者たちに連絡が取れないと、国男の事件を捜査してる警視庁の秋川警部が言うのだ。
 その話を聞いて、蛭田は俄然国男の事件に興味を抱いた。そして、早速秋川に連絡を取り、国男の事件の概要を聞き、また、定吉と大室山の近くで見付かった男の事件を説明した。
 その蛭田の説明を聞き、秋川は蛭田と同様、大室山の近くで見付かった男の方に俄然注目した。何故なら、その男は国男の弟である可能性があると思ったからだ。国男には、熊男、虎吉という弟がいたのだが、その二人に連絡がつかないのだ。また、熊男はかなり前ではあるが住居侵入で逮捕され、更に、日下部家の近所の住人の話によると、日下部家の三兄弟は出来の悪いぐうたら息子だとのことだ。それ故、何か三人で悪事でも働き、その結果が国男の死に繋がり、また、死は国男だけに留まらず、弟にまで波及したのかもしれない。
 その秋川の推理に基づいて、早速大室山近くで発見された男が、熊男か虎吉でないかの捜査が行なわれた。すると、その捜査は呆気なく成果を得た。即ち、大室山の近くで見付かった男は、やはり虎吉であったのだ!
 その結果を受けて、やはり国男、虎吉といった日下部家の者が何らかの事件を起こしたか、あるいは巻き込まれたして、国男と虎吉は殺されたというのが、この事件だといえるだろう。しかし、国男と虎吉以外の日下部家の者、即ち、主の虎之助と二男の熊男の行方はまだ摑めてなかった。また、この国男と虎吉の死に何故赤嶺定吉が関係してるのか、その謎も分かってなかった。
 それで、日下部家の内情に詳しそうな者に徹底的に聞き込みが行なわれることになった。
 すると、更に妙な事実も明るみとなった。それは、大林安子の失踪だ。大林安子という六十の女性が二ヶ月前から日下部宅で家政婦をやっていたのだが、十日位前から行方不明になってるというのだ。また、安子は近い内に虎之助と再婚することになっていたという。その矢先に安子は失踪したというのだ。
 その話を聞いて、秋川は当然事件性を感じた。即ち、安子は何者かに監禁されてるか、あるいは、既に殺されたかだ。そして、その犯人は安子の存在を疎く思う者であろう。
 また、国男、熊男、虎吉三兄弟は定職に就くこともなく、また、莫大な借金を抱えてるとのことだ。そして、虎之助の遺産を虎視眈々と狙っていたという。そんな三兄弟だから、当然虎之助と再婚するという安子の存在を疎く思ったことであろう。
 安子の失踪に事件性を嗅ぎ取ったのは無論秋川が最初ではない。守屋警部も無論嗅ぎ取っていた。それ故、近い内に国男たちの捜査に乗り出すつもりではあったが、まだ安子の遺体が見付かったわけではない。それ故、本格的には捜査することは出来なかった。その矢先に国男の事件が発生してしまったというわけだ。
 これらのことから、国男、虎吉の死には虎之助の遺産が関係してることが自ずから察知出来た。だが、当の虎之助の行方は摑めない。また、次男の熊男の行方も摑めない。
 この事実を目の当たりにして、西口刑事(29)は、
「ひょっとして、犯人は次男の熊男かもしれませんね」
 と、些か自信有り気な表情を浮かべて言った。その理由は、熊男が虎之助の遺産を独り占めする為だ。相続人が減れば、熊男の相続分が増えるのは当然だ。それ故、何らかの理由をこじつけては国男と虎吉が殺されたことにし、そして、自らの潔癖さを披露するというわけだ。
 だが、その西口刑事の推理はまだ根拠のないものとして、蛭田は軽くあしらった。そして、今後の捜査は虎之助と熊男を見付けることに重点が置かれた。この二人が日下部宅にいないということは、やはり国男たちの事件に関わりがあると看做さざるを得ないのだ。だが、この二人が国男と虎吉を殺したと決め付けるのは危険だ。その証拠はまだ何ら無いのだ。それ故、この二人を見付け出しては、話を聴かなければならないのだ。
 しかし、この二人の行方を摑むことはなかなか困難であった。容疑者として顔写真を新聞などに掲載するわけにはいかなかったからだ。
 それ故、とにかく蛭田たちは、定吉と虎吉の遺体が発見された伊豆高原周辺で徹底的に聞き込みを行なってみることにした。定吉が国男たちの事件に関係してるかどうかは、今の時点では何とも言えなくなってしまったのだが、定吉と虎吉の遺体が伊豆高原で見付かったとなれば、二人を殺した犯人の痕跡が伊豆高原に残っている可能性は十分にあると思われるからだ。
 すると、興味ある情報を早々と入手したのだ。

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