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 その一方、八木守男の事件はまだ終結は見られてなかった。虎之助の手紙には守男の事件には触れてなかったことから、虎之助たちの事件とは別種の事件によって殺されたものと推定された。
 そう理解した福岡県警の江崎警部たちは早速、守男に金を貸していた金貸しを調べ出し、捜査を行なってみた。だが、その捜査は難航した。守男に金を貸していた金貸しは、当事者以外は知らないみたいだったからだ。
 だが、中洲のクラブで江崎たちは耳よりの情報を入手した。というのは、「チャンピオン」というサラ金を経営してる太刀川という四十の男が最近派手に飲み歩き、クラブの女の子に夜逃げしていた野郎が金を返しに来たので、その持ち金を全部ふんだくってやり思わぬ大金を手にしたことを酔いの勢いに任せて喋ったという情報を入手したのだ。それで、江崎は早速、太刀川に会い、その指紋を採取した。というのは、守男の死体のズボンのベルトには、守男のものでない指紋が付いていたからだ。
 それで、太刀川の指紋を採取し、守男のズボンのベルトに付いていた指紋との照合が行なわれたのだが、その結果、その二つの指紋は見事に一致したのだ。
 その結果、太刀川は捜査本部の置かれている東署に任意出頭を要請され、訊問を受けることになった。
 だが、太刀川は守男のズボンのベルトに太刀川の指紋が付いていたことに関して、守男との金銭トラブルがあったことを認め、守男が福岡から逃げる前に守男と摑み合いの喧嘩となり、その時に付いたものだと証言した。
 だが、太刀川が最近手にした大金に関して江崎に問われると、太刀川の言葉は詰まった。だが、太刀川は結局、守男から利子を含めて四千万返してもらったことを認め、その件に関してはそれで守男と決着がつき、その後、守男とは無関係になり、守男の事件には太刀川は何ら関係がないと主張した。そして、江崎はその太刀川の主張を崩すことが出来なかった。
 それで、太刀川は東署から去り、そんな太刀川の後姿を見て、江崎は守男の事件解決の困難さを改めて痛感した。だが、そんな江崎に思ってもみなかった知らせがもたらされた。というのは、深夜に挙動不審な男がいたので、警邏中の警官が職務質問しようとしたところ、その男は警官を小突いては逃げようとしたので、男は公務執行妨害で逮捕されたのだが、その男がその後の取り調べで覚せい剤を所有していたことが明らかとなり、その男の自宅が捜査されたのだが、するとクロゼットの中から血と思われるものが付いた柳場包丁が見付かった。それで、その血と思われるものが調べられたところ、それはやはり血であり、また、DNA鑑定の結果、何と八木守男のDNAと一致したのである!
 その重大な結果を受けて、その男のことが直ちに調べられた。すると、その男は轟太郎というのだが、太郎は以前守男と共にホストとして働いていたことも分かった。そして、守男が「ツリー」を興した時に守男と共に独立し、経理を任されたのだが、守男が何かと太郎のことを軽んじるので、太郎は密かに守男のことを憎く思っていた。そして、守男はそんな太郎たちへの給料を払えなくなり「ツリー」は潰れた。そして、守男は何処かに姿を晦ました。
 だが、何故か守男は先日福岡に戻って来ては太郎の前に現れ、太郎から借りた金を返すと言い出したのだ。そして、その金額は太郎が貸した金額の百分の一の三万であったのだ。      
これには、太郎はびっくりしたが、その驚きはすぐに怒りに変わった。何故なら、守男は太郎に「大して役に立たなかったお前に返す金はこれだけだよ。お前は月に三万位の給料しか受け取れない奴だったにもかかわらず高い給料を払ってたからな。だから、そのお前に余分に払った給料を差し引けば、これだけさ」と言っては、三万差し出したからだ。 
 その守男の言葉を聞いて太郎は逆上し、台所に行っては柳刃包丁を手にしては背後に隠し、守男の前に来ては一気に心臓を刺したのである。そして、守男の死体を志賀島の海岸に遺棄したのである。
 因みに何故、守男を刺殺した柳刃包丁を捨てなかったかというと、憎き守男を仕留めた記念として遺しておきたかったからだとのことであった。

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