第六章 計画実行

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 大林安子は午後三時頃、日下部宅に来ては、午後七時か八時頃帰宅するということは前述したが、では、安子は何処に住んでいるかというと、都内のとある下町と思われた。そして、その住所からすると、一戸建てに住んでるように思われた。
 国男たちはまず、その住所から、安子が住んでる家を突き止め、そして、その周辺の調査から始めることにした。というのは、安子を何処で拉致するか、その場所を予め調査しておかなければならないというわけだ。
 その点を踏まえて調査した結果、安子は古いアパートとか小さな木造住宅が立ち並んでいる住宅街に住んでることが分かった。やはり、下町だった。そして、それらの住宅街の中を細い道が貫くように伸びていた。また、安子の家は、その住宅街の中で多く見られるような古い小さな木造住宅であった。
 それを確認出来た国男は満足そうに肯いた。何故なら、そのような状況であれば、安子を拉致し易いと看做したのだ。
 もっとも、安子を強制的に国男の車に乗せようとしてるわけではない。何かと口実をつけて、国男たちが安子を車の中に連れ込み、安子を人気の無い場所に連れて行っては、殺すつもりであった。それ故、正確には安子を拉致するという表現は適切ではないであろう。
 それはともかく、要するに安子を国男の車に連れ込む場面を安子の知人に眼にされないことが重要であった。眼にされてしまえば、国男たちの足が付くかもしれないからだ。
 となると、安子の知人がいないと思われる日下部宅の最寄りの駅の近くで安子を国男の車に連れ込んだ方がよいと思われるかもしれないが、実際にはその方が危険だと国男たちは看做した。というのは、日下部宅の最寄りの駅の近くだと、国男たちの知人が国男たちの行為を眼にしてしまう可能性が出て来るからだ。安子宅の最寄りの駅周辺の住人には国男たちの知人はいない。それ故、安子宅周辺で安子を国男の車に連れ込む方が危険は少ないと、国男たちは看做したのである。
 また、安子の殺害方法と殺害場所も決まった。殺害方法はロープによる絞殺であった。国男たち三人が安子の首にロープを巻き、強く絞めれば、安子を殺すことは朝飯前というものだ。また、安子の殺害場所は、奥多摩の山林の中と決まった。そして、その計画が実行される日も決まった。
 それは、三日後であった。何しろ、一日でも早く国男たちは金を手にしなければならないのだ。一日遅れれば、その分の金利分が増加してしまいそうだからだ。
 もっとも、安子を始末したからっていっても、虎之助の金がすぐに国男たちのものとなるわけではない。
 しかし、安子がいなくなったことを受けて、虎之助は失望し、一気に老け込む可能性があるのではないか。そして、もう二度と再婚するなんてことは言い出さなくなるのではないのか。そうなれば、国男たちの遺産の取り分が減らないことは確実であろう。また、安子が失踪したことのショックにより、虎之助の死期が早まる可能性も無論ある。そうなれば、しめたものだ。
 即ち、安子を始末したからといっても、すぐに国男たちに虎之助の金が入るわけではない。しかし、安子がいるよりはいない方が国たちにとって好ましいことは当然なのだ。

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