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 守屋警部が去って行った後、虎之助は国男たち三人をリビングへと呼んだ。因みに今は午後三時であったが、国男たちは今、無職だったり、フリーターだったので、昼間も家にいることが少なからずあった。そして、今日もそうであった。守屋が来た時は奥の部屋で身を潜めていたに過ぎなかったのだ。
 そんな国男たちに、虎之助は、
「今、守屋という警官がやって来たんだよ」
 と、国男たちの顔に順次見やっては、渋面顔で言った。
 虎之助がそう言っても、国男たちは言葉を発そうとはしなかった。そんな国男たちに虎之助は、
「守屋という警官が何故うちに来たのか、分かるかな?」
 と、再び国男たちの顔を順次見やっては言った。
 すると、国男は、
「分からないな」
 と言っては、首を傾げた。
「熊男は?」
「僕も分からないよ」 
 と、熊男も首を傾げた。また、虎吉も同じであった。
 すると、虎之助はいかにも気難しげな表情を浮かべては、
「大林さんの件だよ。大林さんの行方がまだ分からず、大林さんの妹が警察に捜索願いを出したそうなんだよ。で、その件でやって来たのだよ。わしが大林さんの失踪の件で何か心当たりないかと」
「そうでしたか。で、親父は何か心当たりあるんですかね」
 国男は、何ら表情を変えずに言った。すると、虎之助は、
「全くないわけではないんだよ」
 と、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべては、国男たちから眼を逸らした。
「ほう……。それ、どういったものですかね?」
 国男はいかにも興味有り気な表情を浮かべては言った。
 すると、虎之助は国男たちの顔を順次見やっては、
「大林さんが行方不明となった五日前にお前たちは帰りが遅かったよな」
「ああ。そうだったかな」
 国男は、淡々とした口調で言った。そんな国男の表情は特に変化は見られなかった。
 すると、虎之助は小さく肯き、そして、
「で、その時のことをもう一度話してくれるかな」
 そう言った虎之助の表情は相当に厳しいものであった。
「ですから、僕と熊男は辺りの自動車販売店で車を見てたのですよ。何しろ、車の維持費は相当掛かりますからね。ですから、もっと早く処分しておけばよかったんですが、新たな仕事で車が必要となるかもしれないので、処分せずにいたのですよ。でも、新たな職はなかなか見付かりそうもないので、処分しようと思い、自動車販売店を見て回っていたのですよ」
 と、国男は眉を顰めては淡々とした口調で言った。
「自動車販売店の係員と話をしたのか?」
「いや。そこまではやってません」
 国男は再び眉を顰めては言った。
「じゃ、何処の店に行ったのか、具体的に話してくれないかな」
 そう虎之助に言われ、国男は思わず顔を赤らめ、そして、言葉を詰まらせてしまった。何故なら、まさかそのようなことまで訊かれるとは、思ってもみなかったからだ。
 だが、その問いに答えないわけにはいかない。それで、国男は適当な名前を五店程挙げた。
 すると、虎之助は渋面顔を浮かべては、
「何時頃、それらの店に行ったか、説明してくれないかな」
 すると、国男は、
「そこまでは覚えてませんよ」
 と言っては苦笑した。
「熊男もそうか?」
 虎之助は熊男を見やっては言った。すると、熊男は、
「ああ」
 と、小さく肯いた。
「じゃ、何時頃、家を後にしたのかな」
「確か、二時頃だったな」
 国男はその頃に思いを馳せるかのように言った。
「じゃ、大体でいいから、どの店から回ったのか、順次説明してくれよ。また、その店にはどのような車が並べられてあったのか、それに関しても説明してくれないかな」
 そう虎之助に言われ、国男の言葉は詰まった。何しろ、国男はさ程、車には詳しくない。それ故、車の名前がすらすらと出て来なかったのだ。
 だが、この時、熊男が言葉を発した。何しろ、熊男は車には詳しかったのだ。それで、熊男はそれに関して、逐一説明した。もっとも、それは当てずっぽうではなかった。何しろ、熊男は車好きであったので、度々今、国男が語った自動車販売店に行っては、中古車展示場に展示されている車を眼にしていたのだ。そして、その時の経験が今、役に立ったというわけだ。
 そんな熊男の話に虎之助はいかにも気難しげな表情を浮かべては耳を傾けていた。
 そんな虎之助は少しの間、言葉を発しようとはしなかったが、やがて、虎吉を見やっては、
「じゃ、今度は五日前の虎吉の行動を話してもらおうか」
 そう虎之助に言われ、虎吉は一瞬、顔を歪めはしたが、すぐに元の表情となった。何故なら、その虎之助の問いに対する返答を予め考えてあったからだ。
 それで、虎吉はそれを話した。すると、虎之助は、
「じゃ、虎吉が家を後にした午後三時までに、大林さんからの連絡はなかったというわけだな」 
その件にしては、虎之助は既に虎吉に確認してるのだが、改めて虎之助は確認した。
「ええ。そうです」
「で、午後三時に家を後にした後、新宿や渋谷で一人でぶらぶらしていたんだな?」
「ええ、そうです。とはいうものの、お金がないから、パチンコすら出来なかったですよ」
 虎吉は正に決まり悪そうに言った。そんな虎吉の表情は正に虎吉が今、置かれた状況が芳しくないことを如実に物語ってるかのようであった。
 そんな虎吉の話に耳を傾けていた虎之助は、やがて、
「じゃ、今、言ったことは絶対に間違いないな」
 と、三人の顔を順次見やっては確認した。
 すると、三人は無言で肯いた。
 すると、虎之助はいかにも気難しげな表情を浮かべては、リビングを後にしたのであった。

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