3
 
 その翌日の午後四時頃、日下部宅から数キロ離れたM川のとある河川敷に三人の男が姿を見せていた。その三人とは、日下部国男、熊男、虎吉の三兄弟であった。
 そして、以前その場所にその三人は姿を見せたことがあった。そして、その時の謀議によって、大林安子殺しが決定され、そして、その三日後にそれは実行されたのだ。
 そして、その河川敷に今日も三人は姿を見せていたのだ。そして、その河川敷は今や三人にとって、重大課題を論議する場所と化してるみたいだった。そして、実際にも三人は今日、重要な課題を論議する為にやって来たのだ。
 三人は安子殺しを決めた時、腰を下した辺りに今日も腰を下ろすと、国男がこの時を待ってましたと言わんばかりに話し始めた。
「親父は俺たちを疑ってるよ」
 と、いかにも深刻そうな表情を浮かべては言った。
 すると、熊男も、
「俺もそう思ったよ」
 と、国男と同様、いかにも深刻そうな表情を浮かべては言った。
「俺たちを疑ってるって、つまり、俺たちが大林をどうにかしたと疑ってるということかい?」
 虎吉は半信半疑の表情を浮かべては言った。
 すると、国男は深刻そうな表情を浮かべたまま、
「ああ。そうだ。だから、大林がいなくなった時の俺たちの行動を何だかんだと、訊いて来たんだよ」
 そう国男に言われ、虎吉の表情も国男や熊男と同じように深刻なものへと変貌した。虎吉は今までにそこまで考えはしなかったのだ。しかし、今、国男にそう言われると、国男の言うことは当たってると思うに至ったのである。それ故、そのような表情となったのである。
 そして、三人の間に、少しの間、重苦しい沈黙の時間が流れたが、やがて、熊男が、
「しかし、親父はこれからどうするのだろう」
 と言っては、眉を顰めた。
「どうするとは?」
 と、国男。
「親父が俺たちのことを疑ってるということは、まず間違いないよ。しかし、問題はそれからだ。つまり、親父は俺たちのことを警察に話すかどうかということなんだよ」
 熊男は、表情を引き攣らせては言った。その熊男の表情から、今、熊男たちが論議してる話の内容の深刻さを物語っていた。
 そう熊男が言った後、三人の間に再び重苦しい沈黙の時間が流れたが、やがて、虎吉が、
「親父なら、話すかもしれないぜ」
 と、殺気立った表情を浮かべて言った。すると、熊男も、
「実は、俺もそう思うんだよ」
と言っては、小さく肯き、そして、
「親父は俺たちの実父であるにもかかわらず、俺たちが困っていても、全然助けようとしてくれないじゃないか。それどころか、俺たちに嫌がらせをやったじゃないか。大林と結婚しようとしたのも、俺たちへの嫌がらせもあったんじゃないのかな。大林が親父の妻となれば、俺たちの親父の遺産が半分減るじゃないか。親父はそれを狙ったんだよ。要するに、親父は俺たちのことをもう見放してるんだ。いっそのこと、交通事故なんかで死んでしまえばいいと思ってるんじゃないかな」
 と、いかにも険しい表情を浮かべては言った。
 そう熊男に言われ、国男と虎吉は一層深刻な表情を浮かべた。その熊男の話は、国男と虎吉の表情をそのように変貌させるに十分なものであったからだ。
 そんな国男と虎吉に、
「既に警察がうちにやって来てるからな。普通は失踪者の捜索願いが出されたからといっても、警察は真剣に調べやしないよ。何しろ、一年間で警察に出される捜索願いは相当あるらしいからな。それ故、いちいち出された捜索願いの失踪者を捜査していれば、警察官がいくらいても足らないというわけさ。にもかかわらず、警察がうちにやって来たということは、大林の失踪に事件性を嗅ぎ取ってるからじゃないのかな」
 と、熊男は眉を顰めては言った。
「その可能性は有りそうだな」
 国男も眉を顰めては呟くように言った。そして、
「もしそうなら、俺たちに疑いの眼を向けることは十分に有り得るよ」
 と、国男は眉を顰めては、いかにも決まり悪そうに言った。
 すると、虎吉は、
「嫌だぜ! 殺人犯として逮捕されるなんて、真っ平だぜ!」
 と、吐き捨てるように言った。そんな虎吉は、正に最初から安子殺害など、行なうべきではなかったと言わんばかりであった。
 そんな虎吉に国男は、
「焦るんじゃない! あのな。日本という国では、証拠がなければ逮捕されないんだ。要するに、俺たちが大林を殺したという証拠さえ見付からなければ、俺たちを逮捕出来ないんだ。自白が唯一の証拠では、警察は俺たちを逮捕出来ないんだ!」
 と、眼をギラギラと輝かせては言った。そんな国男は正に警察に戦いを挑むかのようであった。そして、
「大林を埋めた場所を警察が突き止められると思うか」
 と、虎吉を見やっては言った。
 すると、虎吉は黙って頭を振った。
 すると、国男は小さく肯き、そして、
「俺たちでもそれは無理だよ。要するに、俺たちでも大林を何処に埋めたか分からなくなってるということさ。それ故、大林の死体が見付かることは、有り得ないというわけさ」
 と、いかにも自信有り気な表情と口調で言った。そして、
「大林の死体が見付からなければ、警察は俺たちのことを殺人容疑で逮捕するなんてことは不可能というわけさ」
 と、再びいかにも自信有り気な表情と口調で言った。
 そう国男に言われてみると、熊男も虎吉も確かにそのような気がした。それで、些か安堵したような表情を浮かべた。
 そんな二人を見て、国男は改めて表情を引き締めては、
「だから、もし警察に大林が失踪した時のことを万一訊かれても、親父に答えたように答えるんだ。警察といえどもその嘘を絶対に証明出来やしないさ」
 と言っては、力強く肯いた。
 そんな国男に熊男は、
「でも、俺、兄貴の返答には随分冷や冷やしたぜ。何しろ、兄貴は何処の自動車販売店に行ったか、ちゃんと答えられられなかったんだから」
 すると、国男は顔を赤らめ、
「正にあの時は冷や冷やしたよ。熊男が助けてくれなければ、どうなっていたかだ」
「だから、どのディーラーにどういった車が並んでいたのか、俺と兄さんは改めて打ち合わせをしなければならないよ。そうしないと、うまく誤魔化せないよ」
「そうだな。正に、熊男の言う通りだよ」
 と国男は言っては、小さく肯いた。そして、
「で、今から話すことが、最も重大なことなんだよ」 
 そう言った国男の表情は甚だ真剣なものであった。
 虎吉はといえば、その国男の話の内容にてんで推測が出来なかった。それで、
「それ、どんな話かい?」
 と、いかにも好奇心を露にしては訊いた。
 すると、国男は意を決したような表情を浮かべては、
「親父を監禁するんだよ」
 その国男の言葉を聞いて、熊男も虎吉も呆気に取られたような表情を浮かべた。何故なら、正に国男が話したその内容は、熊男、虎吉といえども、そこまでは想像すらしなかったものだったからだ。
 それで、熊男と虎吉は少しの間、呆気に取られたような表情を浮かべては言葉を発することが出来なかった。
 そんな熊男と虎吉に国男は更に自らの考えを話した。
「親父のことを甘く見ちゃ駄目だぞ。親父は俺たちが怪しいということを警察に話すかもしれないんだ。更に、俺たちに遺産を遺さない為に新たな女を連れて来るかもしれないんだ。相続財産の内、二分の一は被相続人が自由に処分出来るんだ。それ故、十二億の内、六億を親父の友人に遺贈し、残りの六億の内、三億を親父の妻に残し、俺たち三人で三億ということにもなり兼ねないんだ。もっとも、それは大目に見積った金額で、親父が今後浪費すれば、俺たちの取り分は減少することは間違いないんだよ」
 と、国男はいかにも困惑したような表情を浮かべては言った。そんな国男は、正にそのような事態となってしまえば、堪らないと言わんばかりであった。
 すると、熊男と虎吉は、
「そんなの、真っ平だ!」
 と、口を揃えては言った。
 すると、国男は小さく肯き、そして、
「要するに、今の状態の親父が続くことは、俺たちにとって好ましくないというわけさ」
 すると、虎吉は、
「じゃ、大林のように殺すのか?」
 と、おどおどとしたような表情を浮かべては言った。
 すると、国男は眼を大きく見開き、
「だから、殺しはしない。監禁するのさ」
 と言っては、大きく見開いた眼をキラリと光らせては言った。
「監禁……」
 虎吉は、呟くように言った。
「ああ。そうさ。監禁さ。要するに、親父を人気のない所に閉じ込め、外出出来ないようにしてしまうんだ。そして、死ぬまでそこにいてもらうことにするんだよ」
 と、国男は力強い口調で言っては、大きく肯いた。
「死ぬまで監禁するのか……」
 熊男も眼を大きく見開いては、些か興奮しながら言った。
「ああ。そうさ。死ぬまでさ。親父が家に戻って来れば意味ないよ。その時点で、親父は親父の金の処分に取り掛かるだろうからな」
「しかし、親父を監禁しておくのに都合のよい場所はあるのかい? それに、一体誰が監禁するっていうのかい?」
 熊男はその国男の考えを実行するには、乗り越えなければならない壁が幾つもあると言わんばかりの表情を浮かべては言った。
 すると、国男は、
「その点に関しても、既に考えてあるよ」
 そう言った国男は些か自信有り気であった。
「それは、どういったものだい?」
 熊男は甚だ好奇心を露にしては言った。
「伊豆高原だよ。昔、うちも伊豆高原に別荘を持ってたことがあったじゃないか」
 そう国男に言われ、熊男と虎吉は些か表情を和らげた。というのは、その頃のことを思い出したからだ。熊男が小学校一年の頃、僅かな間ではあったが、日下部家は伊豆高原に別荘を持っていた時期があったのだ。そして、その購入資金は先祖から受け継いだ土地を売って手にしたものであった。しかし、色々な事情があって、その別荘を日下部家が所持していたのは、二年程であった。しかし、その別荘で過した日々は、国男たちの良い思い出として残っていたのだ。
「で、俺たちの別荘があった近くに、誰も住んでない荒れ果てた別荘があるんだ。その別荘に親父を監禁するんだよ。それを俺は昨日、伊豆高原に行っては、確認して来たんだよ」
 と、国男は力強い口調で言っては、肯いた。
 すると、熊男は険しい表情を浮かべながらも些か納得したように肯いた。国男の用意周到さから、改めて国男の只ならぬ決意を感じ取ったからだ。
 とはいうものの、その計画にはまだまだ欠点があると熊男は思った。それで、その欠点を話してみることにした。
「で、一体誰が親父を監禁するんだ?」
 熊男は眉を顰めて言った。
「だから、人を雇うんだよ。人を」
 そう言っては、熊男は唇を歪めた。
「人を雇うって、その人をどうやって見付けるんだ?」
 熊男は些か納得が出来ないように言った。
「新聞だよ。スポーツ新聞なんかには、得体の知れないような求人が時々出てるよ。だから、そういったスポーツ新聞に求人広告を出せば、人位簡単に集められるよ」
 国男は些か自信有り気に言った。
「成程。しかし、人を雇うからには、その人に金を支払わなければならないよ。その金をどうするんだ? 俺たちに金がないことは歴然としてると思うんだが」
 熊男は眉を顰めては言った。
「だから、親父の金をちょろまかするんだ」
「親父の金をちょろまかか……。でも、どうやってちょろまかするんだ?」
 熊男は些か納得が出来ないように言った。
「親父が親父の部屋の金庫に何千万という現金を保管してることを知ってるかい?」
「確か、そうらしいな。もっとも、俺はその現物を見たことはないが」
 と、熊男。
「そりゃ、俺も現物を見たことはないさ。しかし、親父は今の低金利のことを批判してたからな。だから、十中八、九、親父の部屋の金庫に数千万位は保管してると思うな。だから、親父を監禁した後、ガスバーナーで金庫を壊すんだ。そうやって、手にするんだ」
 国男は、眉を顰めては小さく肯いた。
「成程。しかし、万一、その金庫に金が入ってないということも有り得るよ。そのケースはどうするんだ?」
 熊男は、渋面顔を浮かべては言った。
「親父が所有してる宝石なんかを売るか、あるいは、質入れして金を作るだけさ。親父の部屋にあるダイヤモンドのブレスレットとか、書画骨董品は五千万はあると親父はいつも豪語してたじゃないか。あれだって、重要な資産だよ。あれなら、俺たちが勝手に処分したって大丈夫だよ。銀行預金や投資信託を俺たちが解約し、引き出すことは無理だろうが、宝飾類とか書画骨董品なら、俺たちでも処分出来るぜ」
 国男は、力強い口調で肯いた。
 すると、虎吉が、
「流石兄貴だ。正に、それは入念な計画だよ」
 と、感心したように言った。
 だが、熊男は、
「でも、その計画には、まだまだ欠点があるよ」
「どんな欠点だ?」
「だから、一体いつまで親父を監禁するのかということだよ。それによって幾ら経費が掛かるのかということになるだろうし……。親父はまだまだ元気だから、まさか、親父が死ぬまで監禁するというわけにもいかないだろうし……」
 そう言った熊男の表情は甚だ冴えないものであった。そんな熊男の表情はやはり国男のその計画は杜撰で実現性の乏しいものだと言わんばかりであった。
 すると、国男は、
「そこなんだが……」
 と、前置きしては、
「俺の計画では、そいつらに親父を処分してもらおうと思ってるんだよ」
 と言っては、唇を歪めた。
 すると、虎吉が、
「じゃ、やっぱり俺たちが親父を殺すわけじゃないか」
 そう言った虎吉は、いくら何でも虎之助を殺すことだけは勘弁してもらいたいと言わんばかりであった。
「そうじゃないんだ。俺たちは親父を殺さないんだ。俺たちが雇った奴等が親父を殺すんだ!」
 と、国男は虎吉に言い聞かせるように言った。
「でも、俺たちがそいつらに親父を殺せと命令するわけだから、結局、俺たちが親父を殺すということになるじゃないか」
 虎吉は、些か不満そうに言った。
 すると、国男は、
「そうじゃないんだ!」
 と、虎吉に反論した。
「そうじゃない? それ、どういう意味なんだ?」
 虎吉は、些か納得が出来ないように言った。 
「つまり、そいつらもまさか親父を殺すということは思ってなかったんだ。偶然に親父を殺してしまうんだ。つまり、事件ではなく事故によって親父は死んでしまうんだ。しかし、その偶然の事故が起こるように俺たちが仕組み、その結果、親父は死ぬというわけさ」
 そう言っては、国男は些か納得したように肯いた。 
 すると、虎吉は言葉を発しようとはしなかった。そんな虎吉は、国男の今の話の内容を今一つ理解出来ずに言葉を発することが出来ないかのようであった。
 しかし、熊男は、
「俺は、兄さんの言わんとすることは、何となく理解出来ないこともないよ。でも、具体的にその事故がどうやって起こるのかを説明してもらわないと、その計画が実行可能なのかどうかは、結論は出ないよ」
 と、眉を顰めて言った。
 そう熊男に言われると、国男は熊男の言うことはもっともなことだと言わんばかりに小さく肯き、そして、
「俺たちはA、B、Cの三人を雇う。そして、そのA、B、Cの三人に三交代制で親父の見張りをさせるんだ。無論、親父の手、足はロープで括り、親父の自由を奪った状態にしておくことは勿論のことだ。
 で、Aに親父を見張らせてる間に、BにはRVボックスに別荘内のゴミを入れさせるんだ。RVボックスはホームセンターなんかで売っていて、ポリプロピレン製で長さは一メートル、幅と高さは五十センチ程あり、親父の身体は十分に入るんだ。無論、蓋は付いていて、更に移動に便利なキャスターも付いているんだ。そして、そのRVボックスを二つ用意しておくんだよ。
で、Cには裏山に穴を掘らせるんだ。二メートル位深い穴だ。
 で、A、B、Cに見張りをさせた一日目は何も変化がないようにする。そして、二日目に親父が暴れるからという口実を設け、AにRVボックスに親父を入れさせるんだ。その時、親父の手足は無論、ロープで括った状態にしておき、また、猿轡を噛ましておく。
次に、Bにゴミを埋めるからと言って、Cが掘った穴に親父が入ったRVボックスを入れさせるんだ。要するに、Bは親父の入ったRVボックスとゴミが入ったRVボックスとを間違えてしまうというわけさ。
そして、その時点で、A、B、Cは用済みとなる。AはまさかAが親父を入れたRVボックスが埋められたことを知ることもないし、また、BはBが裏山の穴に運んだRVボックスに親父が入っているとは知らないし、また、CはCが掘った穴に親父が入ったRVボックスが埋められたことを知ることもないだろう。
 即ち、親父はA、B、Cによって死に至ったわけだが、そのことをA、B、Cは知らずに終わるというわけさ」
 そう言っては、国男は眼を大きく見開き、キラリと光らせた。そんな国男は、正にその考えは天才的だと自画自賛してるかのようであった。
 その国男の説明を聞いて、熊男と虎吉は薄らと笑みを見せた。その笑みは些か安堵した時に見せる笑みであるかのようであった。正に、今の作戦なら、成功しそうだと言わんばかりであった。
 だが、程無く虎吉は、
「でも、結局、俺たちが親父を殺すということには、変わりないじゃないか」
 と、決まり悪そうな表情を浮かべては言った。
「そうじゃないんだ。親父はA、B、Cの過失によって息絶えたんだ。事故によって息絶えたんだよ。
 Aが親父をRVボックスに入れたのは俺の命令だ。俺は親父が暴れるから、親父の動きを封じようと思い、そう命令したことにする。BにRVボックスに別荘内のゴミを入れるように命令したのは、熊男だ。熊男は別荘内を片付けようと思ったから、そうBに命令したのだ。Cに裏山に穴を掘り、また、RVボックスを穴に埋めるように命令したのは、虎吉だ。虎吉は単にゴミの入ったRVボックスを埋めようとし、そうCに命令したのだ。虎吉は、無論そのRVボックスに親父が入っていたことを知らなかったんだ。
 つまり、親父は俺たち三人とA、B、Cの六人のそれぞれ意思と行為の結果、死に至った。一人一人の意思と行為だけでは、親父は死ぬことはなかったんだ。偶然の結果、親父は死に至ったんだ。だから、親父の死に事件性はなく、俺たち六人は、親父の死には責任ないというわけさ!」
 と、国男は勝ち誇ったそうに言った。そして、
「要は、俺たちが本音を吐かなければ、たとえこの犯行が発覚しようと、法律では裁けないというわけさ。つまり、俺たち三人は、穴に埋めたRVボックスには親父ではなく、ゴミが入っていたと主張するんだ。そうすれば大丈夫だというわけさ。即ち、俺たちの過失によって、親父は死に至ったんだ。即ち、殺人罪は俺たちには適用されないんだ!」
 と、国男は虎吉に言い聞かせるかのように言った。
 すると、虎吉は何も言おうとはしなかった。そんな虎吉はどうやら国男の説明に納得したかのようであった。
 だが、しばらくして、熊男が、
「でも、俺たちは親父をその別荘まで運んで行くんだよな。そのことを警察に訊かれたら、どう応えるんだ?」
 と、些か神妙な表情を浮かべては言った。
 すると、国男はいかにも自信有り気な表情を浮かべては、
「だから、俺たちのことをぞんざいに扱う親父を懲らしめる為に、その別荘に無断侵入したと言えばいいのさ。RVボックスに親父を入れたのは、親父が暴れるから親父の動きを封じる必要があり、また、RVボックスを二つ用意したのは、親父が暴れてRVボックスを壊すかもしれなかったからとか言えばいいんだ。要するに、何とでも誤魔化しが通用するというわけさ。だが、そのようなことまで警察に言う必要は絶対にないさ。何故なら、親父の死体が入ったRVボックスは見付からないように、穴を深く掘るからさ。
 それに、万一、RVボックスが見付かり、それが俺たちの仕業だと発覚しても、俺たちの罪は死体遺棄に留まるさ。即ち、親父の死は過失によるものという俺たちの主張を警察は崩すことは出来ないというわけさ!」
そして、そのような調子で国男たちの謀議はまだしばらく続き、そして、その国男が考え出した作戦は遂にその三日後に開始されることになったのである。


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