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ここからのコースは、樹林を抜けるコースのみで、岩場とか沢はなかったので、楽なコースであった。
そんなコースを雄一郎だけでなく、婦人たちも、ただ黙々と歩みを進めた。三人は、会話を交さず、ただ、山を下りることに専念したのだ。
そして、程なく登山口が見え、三人は無事に登山口にまで戻ることが出来た。
「やっと、着きましたよ」
そう言った雄一郎の表情には、些か笑みを浮かべていた。この婦人たちを無事に下山させたということで、雄一郎はやり甲斐のある大きな仕事を成し遂げたという充実感を感じた位であった。
「やっと着いたね」
「ああ、疲れた」
という言葉が婦人たちの口から出た。
そんな婦人たちの様は、まるで子供のようであった。
そして、これによって、雄一郎は肩の荷が下りたと言うものだ。
死を告白した婦人たちをあのまま山に残し、下山したとなれば、後々後悔すること請け合いだろう。だが、これから婦人たちがどうなっても、雄一郎は全く関係ないというものだ。
そう思うと、雄一郎は改めて、安堵したような表情を浮かべたのだが、しかし、婦人たちの様を見て、疑問を感じた。というのは、今、婦人たちが雑談してる様を眼にして、果して、この婦人たちは本当に死のうとしてたのかという疑問が生じて来たのだ。この婦人たちの今の様は、あたかも観光旅行を終えて、やれやれと一息ついてるかのようなのである。もっとも、外見から何もかもを断定することは出来ないのだが……。
とにかく、雄一郎はこの時点で婦人たちに別れの言葉を述べることにした。
「じゃ、僕はここで失礼しますから」
「そうですか。色々とお世話になりました」
と、敏子は頭を下げた。
「お疲れ様でした」
文子は言った。
雄一郎はてくてくと歩き出した。
バス停は登山口から二、三分の距離だ。
雄一郎は少し歩き、背後を振り返った。
すると、先程の婦人たちは、雄一郎に遅れて二十メートル程の所を、雄一郎の後に続いては歩いていた。きっと、婦人たちもバス停に向かってるのだろう。