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雄一郎はバス停でバスを待っていた。バスは半時間程待たなければならなかった。
少しして、婦人たちもバス停の近くまでやって来た。そして、雄一郎を見ては、
「バスをお待ちですの?」
と、敏子が言った。
「ええ。そうです。後、半時間程、待たなければならないのですよ」
と、雄一郎は眉を顰めては言った。
「そう……。でしたら、私たちの車に乗っていかれてはどうですか? お送りしますよ」
と、敏子は、少し向こうの方に見えている駐車場に停まってる赤い軽自動車を見やっては言った。
そう言われ、雄一郎は少し迷ったが、やはりバスで帰ることにした。何だか、婦人に送ってもらうことが照れ臭かったのだ。
それで、雄一郎は、
「バスで帰りますから」
と、些か顔を赤らめては言った。
「そう……。じゃ、失礼しますね」
そう文子は言っては、敏子と共に雄一郎に頭を下げた。
それに釣られて、雄一郎も軽く頭を下げた。
そして、婦人たちは雄一郎に背を向けては遠ざかって行ったのだが、そんな婦人たちを眼にして、雄一郎は呆気に取られたような表情を浮かべていた。あの二人は、本当に死のうとしていたのだろうか? 今の二人の様を見てると、とても、そのようには思えなかった。
となると、山腹で雄一郎に打ち明けたことは、狂言ではなかったのだろうか? 死のうと決意していた中年の婦人たちが、たかだか雄一郎と少し話した位で、こうあっさりとその意思を覆すだろうか? それはやはり、妙だと言わざるを得ないだろう。
そう思うと、雄一郎は何だか一杯喰わされたのではないかと、思ってみた。
即ち、あの婦人たちが、主人や家庭に不満を持っていたということは、事実なのかもしれない。しかし、自殺しようとしていたというのは、嘘ではなかったのか?
しかし、山で出会った何者かに自らの悩みを打ち解けて慰留されたりすれば、気休めとなるのではないのか? それを狙って、敢えて山に来たのではないだろうか?
即ち、雄一郎は婦人たちの憂さ晴らしとして利用されたのだ! それが、事の真相ではなかったのか? 雄一郎は、そう思い、また、それが、正しいと理解したのである。