2 妙なアイデア

 やがて、十月、十一月は過ぎ、十二月となった。
 当り前のことだが、既にめっきりと寒くなり、外出する時は、オーバーが必要となった。
「宝来荘」で暮らすようになって、七ヶ月が経過した。すると、征二と勇二の生活振りに特に変化が見られるようになったのかというと、そうではなかった。特に変化は見られなかったのだ。二人の生活は、飽くまでもアルバイト中心であり、そして、アルバイトの合間に学校に行ってるという塩梅であった。
 つまり、そんな征二と勇二を見てると、まるでアルバイトをする為に東京に出て来たかのようであった。
 しかし、そんな征二と勇二のことを責めるのは、酷だというものだ。何しろ、二人は家賃、生活費、食費は、全部自らで稼がなければならなかったからだ。
 そんな征二と勇二は、東京の自宅から大学に通ってる学生が羨ましかった。また、マイカーを持ってる学生が羨ましかった。
 以前、征二が引っ越しの荷物を背負ってる時に、その傍を助手席に彼女を乗せた征二の同級生が真っ赤な新車の国産車に乗って走り去って行く光景を眼にしてしまった。その時、征二は甚だやるせなさを感じたのだ。
 そして、アルバイトを終え、「宝来荘」に戻っても、美味しい晩飯が待ってるわけではなかった。自らが買って来た安い食材を使って、征二の分だけでなく、勇二の分まで作ってやらなければならないのだ。
 無論、安い食材で作られた食べ物が、美味しい筈はない。炬燵しかないこの寒い部屋で、不味い晩飯を食べながら、征二は一層自らの身の上の惨めさを痛感するこの頃であった。勇二が毎日のように、大家の婆さんが羨ましいぜと言うのも、もっともなことだと、征二は思ったものであった。
 もっとも、征二は勇二のように、毎日のように、貧乏暮らしの不満を述べるわけではなかった。
 しかし、貧乏生活に対する不満は、勇二以上と言っていい位であった。ただ、勇二のように、頻繁に言葉として発せられないというだけであった。
 とはいうものの、二人は電気代を節約する為に、数千円の電気ストーブを買おうとはしないのだ。そして、そんな生活が愉しい筈はなかった。生活が愉しくなるには、金が必要というのが、征二と勇二の一致した考えであった。
「ドストエフスキーの『罪と罰』という小説を読んだことがあるかい?」
 征二は、まるで真剣な表情を浮かべては言った。
「ないな」
 勇二は顰面をしては言った。
「そうか……。実は、俺も読んだことがないんだ」
 と、征二は渋面顔を浮かべては、淡々とした口調で言った。
「何だ……」
 勇二は苦笑した。征二が勇二が読んだことのないロシアの文豪の有名な小説のことを持ち出したので、征二のことを見直そうと思った位なのだが、どうやらその勇二の思いも的外れであったようだ。
 それで、勇二は苦笑したのだが、そんな勇二に征二は、
「俺はその小説を読んだことはないのだが、あらすじは知ってるんだ。何故なら、あらすじは読んだことがあるからな。で、そのあらすじを知ってるかい?」
 と、些か真剣な表情を浮かべては言った。
 すると、勇二は、
「知らないな」
 と、小さく頭を振った。勇二はドストエフスキーという名前と「罪と罰」という小説の名前は知っていたのだが、その内容までは知らなかったのだ。
「そうか。じゃ、俺がそのあらすじを説明するよ。
 貧乏学生が、貧乏学生の下宿先の大家の婆さんを殺しては、その金を奪うんだよ。前途有望の貧乏学生の将来の為には、役立たずの婆さんを殺し、その金を奪っても許されるという理屈をつけてな。確か、そんなあらすじだったと思うんだよ」
 と、征二は自信無さそうに言った。というのも、征二が「罪と罰」のあらすじを読んだのは、征二が中学二年の時であった。そして、その時から既に五年以上の年月が経過したのだ。それ故、今の征二の説明に征二は些か自信がなかったのだ。
 それはともかく、征二にそう言われると、勇二は、
「ふーん」
 と、呟くように言った。そして、その勇二の言葉と表情からは、今の征二の説明に対する勇二の反応を征二は察知することは出来なかった。
 それで、征二は、
「今の俺の話を聞いて、どう思う?」
 と、勇二の顔をまじまじと見やっては言った。
 すると、勇二は、
「そうだな」
 と、何となく思わせ振りの言い方をした。
 それで、征二は勇二が勇二の思いを話すと思ったのだが、勇二は、
「何とも思わないな」
 と、殊勝な表情を浮かべては言った。
 すると、征二は表情を改めては、
「実はな。その『罪と罰』の話に、俺たちの立場が似てると思うんだよ。つまり、俺たちがその貧乏学生で、『宝来荘」の婆さんが、その婆さんだというわけさ」
 そう言った征二の表情は、相当に真剣なものであった。そんな征二の表情は、まるで征二の言わんとすることを勇二に分かってくれと言わんばかりであった。
 そう征二に言われると、勇二は、
「うーん」
 と、眉を顰めては唸り声を上げ、何やら考え込むような仕草を見せたが、勇二の口からはなかなか言葉は発せられようとはしなかった。
 それで、征二は、
「だから、罪と罰に出て来る貧乏学生と俺たちは非常によく似てるというわけさ。どちらも向学心が強いのに、金が無い為に勉学に精を出すことが出来ないんだ。
 それに対して、今や社会に何ら役立たずになってるこの先、長く生きられない老いぼれ婆さんが、どうして大金を持ってるんだ? その大金を使う当てなど、『罪と罰』の婆さんも『宝来荘』の婆さんもないんだぜ。だったら、『宝来荘』の婆さんの大金は、俺たちの為に使われるべきではないのかい?
 で、『罪と罰』の貧乏学生は、そのような理屈を正当化しては、下宿先の婆さんを殺したんだよ!」
 と、いかにも力強い口調で言った。
 そんな征二は、相当に興奮していた。その征二の表情と口調を見れば、そのことが充分に察せられた。
 そんな征二を見て、勇二は、
「おいおい。まさか、『宝来荘』の婆さんを殺そうと言うんじゃないだろうな」
 と、些か真剣な表情を浮かべては言った。そんな勇二は、幾ら何でも人殺しを実行するのは、ご免だと言わんばかりであった。
「そりゃ、勿論さ。そのロシアの小説の主人公のように、下宿先の婆さんを殺そうというんじゃないよ」
 と、征二は些か表情を和らげては言った。
 すると、勇二も、
「そうだろ。いくら何でも、殺しをやろうと思ってはいないだろうよ」
 と、些か表情を和らげては言った。
 すると、征二は小さく肯き、そして、
「で、これからが俺の言いたいことなんだよ」
 と、前置きしては、
「で、『宝来荘』の婆さんが、宝くじ狂だと小楽崎が言ったのを覚えているかい?」
 と、勇二の顔をまじまじと見やっては言った。
「ああ。覚えてるさ。サマージャンボ宝くじとか年末ジャンボ宝くじは、千枚は買うんだろ」
 と、勇二は眼を白黒させては言った。
「ああ。そうなんだよ。で、俺が思うのには、その千枚の宝くじの中には、一枚位、高額の当りくじがある可能性は、充分にあるということさ」
 と、征二はいかにもその可能性は充分にあると言わんばかりに言った。
 すると、勇二は眼を大きく見開き、
「確かに、俺もそう思うよ」
 と、正に征二に相槌を打つかのように言った。
 そう勇二に言われると、征二は大いに満足したように大きく肯いた。そして、
「それでだな。俺が言いたいことは、その婆さんの宝くじをいただこうというわけなんだよ」
 と、眼を大きく見開き、輝かせては、いかにも妙案が浮かんだと言わんばかりに言った。
 すると、勇二は、
「それはやばいぜ! いくら老いぼれ婆さんといえども、婆さんが大切にしてる宝くじが紛失すれば、警察に届け出るぜ!」
 と、その征二の考えは、危険過ぎて話にならないと言わんばかりに言った。
 すると、征二はにやにやしながら、
「そうじゃないんだよ」
「そうじゃない? それ、どういうわけなんだ?」
 勇二は些か納得が出来ないように言った。
「つまり、婆さんの千枚の宝くじを婆さんよりも先にチェックし、一等か二等の高額宝くじがあれば、その宝くじを俺たちがいただき、それ以外は全て婆さんに返す。こういう具合さ」
 と、征二は正にそのアイデアは、天才的だと言わんばかりに言った。
 すると、勇二の言葉は詰まった。その征二のアイデアに、正にど肝を抜かれたと言わんばかりであった。
 そんな勇二は、些か強張った表情を浮かべては、なかなか言葉を発そうとはしなかったので、そんな勇二に、征二は、
「俺が言ったことの意味が分かるかい?」
 と、勇二の顔をまじまじと見やっては言った。
「うーん。だから、婆さんが買った千枚の宝くじの内、一等とか二等とかいった高額の当りくじがあれば、いただこうというわけなんだろ」
 と勇二は眉を顰めては言った。
「そうさ! そういうわけさ!」
 そう勇二に言われると、征二は眼を輝かせては甲高い声で言った。
 だが、勇二は、
「しかし、そんなことが出来るのかい?」
 と、半信半疑の表情を浮かべては言った。
「それが、出来るんだよ!」
 征二は声高に、いかにも力強い口調で言った。
 というのも、征二はこのアイデアを勇二に話したのは、今が初めてであったが、実のところ、征二はこのアイデアをここ二ヶ月位の間、征二の頭の中にあったのだ。そして、遂にこのアイデアは実現可能だという自信を征二は持ったのだ。それ故、それを今、勇二に話したのである。
「じゃ、どうやってやるんだ?」
 勇二は怪訝そうな表情を浮かべては言った。勇二は征二とは違って、果してそのようなことが可能なのかと、思ったのだ。
「年末ジャンボ宝くじの発表は、十二月三十一日の午後零時四十五分頃だ。NHKでその当選番号を発表するんだよ。そのことを知ってるだろ?」
「ああ。知ってるさ」
 勇二にそう言われると、征二は小さく肯き、
「で、婆さんはそのNHKの番組を見ては、当選番号をメモはしないさ。何故なら、婆さんは高齢だから、当選番号をTVを見ながらメモするという器用さは、持ち合わせてはいないというわけさ。それ故、婆さんは翌日の新聞を見るまでは、当選番号を知ることはないのさ」
 と、征二は早口で捲し立てた。
 すると、勇二は、
「確かにそうかもしれないな」
 と、征二の言ったことは、もっともなことだと言わんばかりに言った。
 すると、征二は小さく肯き、
「そこに、つけ込む隙があるのさ」
 と勇二の顔をまじまじと見やっては、勇二に言い聞かせるかのように言った。
 だが、勇二は征二の言わんとすることが、よく分からないようだ。勇二は怪訝そうな表情を浮かべては、言葉を発そうとはしないからだ。
 そんな勇二を見て、征二はにやにやしながら、
「俺が言わんとしてることが、分かるかい?」
「分からないな」
 勇二は怪訝そうな表情を浮かべては、小さく頭を振った。
 すると、征二はにやにやしながら、
「つまり、俺たちは婆さんよりも先に、婆さんが買った千枚の宝くじをチェックしてやろうというわけさ。そして、高額の宝くじがあれば、いただこうというわけさ。
 無論、俺たちも十枚買っておき、そして、当りくじがあれば、その当りくじを含んだ十枚と俺たちが買った十枚とをすり替え、婆さんに返そうというわけさ。これなら、俺たちの行為はばれないぜ」
 と、いかにも得意満面の表情を浮かべては、力強い口調で言った。
 すると、勇二は、
「俺もそう思うよ」
 と、眼を大きく見開き、輝かせては言った。そんな勇二の表情は、正にその征二のアイデアは天才的だと言わんばかりであった。
 そう勇二に言われた征二は、気を良くしたのか、更に話を続けた。
「小楽崎によると、婆さんは大晦日に亡き旦那の墓参りに行くそうじゃないか。つまり、その時は、婆さん宅は留守になるというわけさ。
 その隙に俺たちは婆さん宅に侵入しては婆さんの宝くじを失敬し、直ちにこの部屋に戻って来ては、高額の当りくじがないかチェックし、そして、あれば、俺たちが事前に用意しておいた宝くじとすり替えるというわけさ。そして、婆さんの千枚の宝くじを元の場所に戻すというわけさ。
 このようにすれば、俺たちの行為は絶対にばれず、しかも、俺たちは億万長者というわけさ!」
 と、征二はもはや征二たちが億万長者になるのは時間の問題だと言わんばかりに、些か興奮しながら言った。
 勇二はといえば、征二にそのように言われ、征二のように些か興奮し、眼を輝かせたかといえば、そうではなかった。勇二はいかにも気難しそうな表情を浮かべては、言葉を詰まらせてしまったのである。
 そんな勇二を見て、征二の表情からは笑みが消えた。そして、
「どうかしたのか?」
 と、怪訝そうな表情を浮かべては言った。
 すると、勇二は、
「そのアイデアには欠点があると思うんだよ」
 と、渋面顔を浮かべては言った。そんな勇二は、征二が考え出したそのアイデアは、夢に終わると言わんばかりであった。
「欠点? どんな欠点があると言うんだ?」
 征二は征二が考え出した天才的と思われるアイデアに難癖を勇二につけられたので、些か怪訝そうな表情を浮かべては言った。
「つまり、俺たちはどうやって婆さん宅に侵入するんだい? いくら婆さんが老いぼれだからといって、まさか家の鍵を締め忘れはしないぜ」
 と、勇二は意気消沈しながら言った。
 すると、征二は、
「それに関しても、ちゃんと作戦を立ててあるんだよ」
 と言っては、にやっとした。
「作戦? それ、どんな作戦だい?」
 勇二は些か興味有りげな表情を浮かべては言った。
「大抵、俺たちは月末に婆さん宅に翌月の家賃を持って行くじゃないか。もっとも、夜の八時頃が多いけどさ。
 で、大晦日には、午後一時前に持って行くんだよ」
「それで、どうするんだ?」
 勇二は、征二の言わんとすることがよく分からなかったので、眉を顰めては言った。
「家賃はいつも俺が持って行くよな。大晦日も俺が持って行くよ。
 すると、婆さんはいつも通り、判を押す為に奥の部屋に入って行くじゃないか。つまり、その時がチャンスなんだ!」
「つまり、婆さんの眼を盗んで、部屋の中に密かに侵入するというのかい?」
「そうさ! その通りさ! 婆さんが奥の部屋に入ったその時に、勇二が密かに玄関のすぐ脇にある応接間に入っては、応接間の鍵を密かに開けては、素早く外に出るんだよ。
 小楽崎によると、婆さんは大体午後一時頃に墓参りに出掛けるということだから、午後一時前頃には、既に家全体の鍵が閉められていると思うんだよ。それ故、勇二が開けた応接間の鍵を再びチェックするなんてことはやらないさ。どうだ、この俺の考えは?」
 と、征二はいかにも自信有りげな表情と口調で言った。
 すると、勇二は、
「俺はその考えはやはり欠点があると思うな。つまり、俺が婆さんの眼を盗んでは応接間に入り、応接間の窓側の鍵を開けて外に出たとしても、婆さんがその鍵をチェックしないという保証はないさ。そうなれば、この作戦はあっさりと失敗してしまうよ」
 と、些か不満そうに言った。
 すると、征二は、
「そりゃ、そうだが……」
 と、勇二から眼を逸らせ、些か決まり悪そうに言った。
 そんな征二を見て、勇二は、
「やはり、そのアイデアは駄目だ! 欠点があるよ。正に、杜撰過ぎるよ!」
 と、些か不満そうに言った。
 すると、征二は改めて、決まり悪そうな表情を浮かべた。
 実のところ、婆さん宅にいかにして密かに忍び込めるかが、この作戦を立てるにおいて、最も征二の頭を悩ませたのだ。そして、結局考え出されたのが、今、勇二に話した内容だったのだ。だが、それを勇二にあっさりと否定されてしまったのだ。
 そして、征二と勇二との間に、重苦しい沈黙の時間が流れた。今まで征二が見せていた表情は、正に億万長者になれるのは、もはや時間の問題だと言わんばかりに浮き浮きしたものであったのだが、今の征二、そして、勇二の表情は、正に網に入ったと思われた魚があっさりと網から逃げて行った時に見せるかのようなものであった。
 そして、二人の重苦しい沈黙の時間はまだしばらくの間続いたのだが、やがて、征二が、
「こうなれば、電話作戦しかないな」
 と、眉を顰めては、決意を新たにしたような表情で言った。
「電話作戦?」
「ああ。そうだ。電話作戦だ。大晦日の午後一時頃、俺が婆さん宅に電話をするんだ。来月分の家賃を払うのを少し待ってくださいという具合に。
 そして、その話を長引かせる間に、勇二が婆さん宅に忍び込み、婆さん宅の応接間にあるクロゼットの中に隠れるんだ。婆さん宅の電話は奥の部屋にあるから、勇二が応接間の中に忍び込む場面は婆さんに眼にされないだろうし、クロゼットの中に隠れていれば、婆さんが外出時に鍵が閉まってるかチェックしても、大丈夫だというわけさ。何故なら、婆さんさんが外出してから、勇二がクロゼットの中から出て来ては、鍵を開ければいいわけだから」
 と、征二は眉を顰めては、淡々とした口調で言った。
 すると、勇二は、
「そんなの嫌だよ! 婆さんが外出前に、俺が隠れてるクロゼットを開ければ、どうなると思うんだよ!」
 と、勇二はいかにも不満そうに言った。
 すると、征二は、
「じゃ、やはり、その前の作戦だよ。つまり、婆さんが部屋の中で俺と電話をしてる時に、勇二が婆さん宅に忍びこんでは、応接間の鍵を開けては、外に出るんだ」
 と、いかにも険しい表情を浮かべては言った。そんな征二は、億万長者になるには、相当のリスクは負わなければならないと言わんばかりであった。
 征二にそう言われると、勇二は、
「うーん」
 という唸り声を上げた。というのは、征二が考え出したそのアイデアは、やはり欠点だらけで、とても成功出来るとは思えなかったのだ。
 それで、勇二は気難しげな表情を浮かべては言葉を発そうとはしなかったのだが、すると、征二は、
「じゃ、これで決まりだ!」
 と、些か満足したように肯いた。
 すると、勇二は、
「しかし、婆さんが大晦日の午後一時頃、墓参りに行く為に家を開け、二時間程家を開けてるというのは、間違いないのかい?」
 と、眉を顰めた。
 そもそも、大晦日の午後一時以降に婆さんが婆さん宅をしばらくの間、留守にしてくれなければ、この計画は成り立たないのだ。
 すると、征二も眉を顰めては、
「小楽崎がそう言ったじゃないか! だから、小楽崎を信じるしかないんだよ!」
 と、いかにも決まり悪そうに言った。征二は実のところ、その点も自信がなかったのである。
 即ち、征二は正にこのアイデアを天才的だと自画自賛しながら、それを勇二に話したのだが、勇二に色々と欠点を指摘されると、確かに勇二が言ったように欠点だらけだということに気付いて来たのである。
 更に、征二が婆さんと電話をしてる時に、勇二が密かに婆さん宅に忍び込むという作戦に関しても、必ずしもその時に婆さん宅の玄関扉の鍵が開いているという保証はないのである。
 そう思うと、征二はもう気が変になりそうであった。
 しかし、今の貧乏暮らしから脱する策として、他に何があるのかということを征二と勇二は話し合ったが、その結果、この作戦以外に何か妙案があるわけでもなかった。
 それで、征二と勇二は、正に一が八かで、征二が考え出したこの作戦を実行してみることを決めたのであった。


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