2 SDカード

 その後、上山は亀津港周辺を少しぶらぶらした後、亀津にある今夜の宿泊先のビューホテルにチェックインした。
 亀津は徳之島最大の町といえども、これといった見所があるわけでもなかった。
 それで、ビューホテルの近くにあった小さな食堂で軽い夕食を済ますと、早々と上山はビューホテルに戻った。
 ビューホテルに戻ったといえども、特にすることもなかったので、TVのスイッチをつけたが、特に面白い番組はなかった。
 それで、TVを消したが、そうかといって、寝るにはまだ早かった。
 それで、上山は狭いシングルルーム内にある椅子に腰を下ろし、少しの間、ぼーっとしていたのだが、この時、上山の眼は大きく見開かれた。というのは、あの喜念浜海岸という海岸で拾った財布のことを思い出したからだ。あの財布の中には、お金は入っていなかったものの、SDカードが入っていた。そのSDカードに何か撮影されていないか、見てみようと思ったのだ。
 そう思った上山は、先程拾った財布からSDカードを取り出し、上山のデジカメにセットしては、見てみたのだが……。
 すると、上山の表情は、徐々に神妙なものに変貌して行った。というのは、そのSDカードには、妙なものが撮影されていたからだ。
 妙な写真とは、少年たちだ。15、6歳の少年たちが、一人の少年をリンチにしてるような写真が10枚程保存されていたのだ。
 その事実を目の当たりにして、上山は些か失望したような表情を浮かべた。というのは、上山は可愛い女の写真が写っていないかと、期待していたからだ。しかし、そうではなかったのだ。
 それを確認すると、上山はそのSDカードを財布に戻した。大したものではなかったと思ったからだ。
 そんな上山は一階のロビーに下りては新聞を少し見てみることにした。やはり、寝るにはまだ早かったからだ。
 そして、ロビーにあるソファに腰を下ろし、新聞を手にしては、読み始めた。その新聞は、地元の新聞だった。そして、その新聞をさっと読み始めたのだが、程なく興味ある記事が眼に留まった。その記事は一週間前に喜念浜海岸に打ち上げられた少年の変死体は、歯形から徳之島で一ヶ月前に行方不明になってた玉城和則君であることが明らかになったという記事であった。
 しかし、それだけでは、上山の興味を特に引くものではないだろう。 
 しかし、上山は今、とても真剣な表情、そして、緊張したような表情を浮かべていたからだ。一体何が上山の表情をそのように変貌させたのであろうか? 
 では、それを説明することにする。
 実は、その変死体で発見されたというその少年の顔写真が新聞に掲載されていたのだが、その少年の顔に上山は見覚えがあったからだ。
 つまり、その少年の顔は、上山が喜念浜海岸で拾った財布の中に入っていたSDカードの中に保存されていた少年たちからリンチを受けていた少年の顔に酷似していたのだ。
 そう思うと、上山は、
〈これはえらいことになったぞ!〉
 と、いかにも顔を険しくしては、眉を顰めた。
 何しろ、上山が拾ったSDカードには、その少年がリンチに遭ってると思われる場面を写した写真があったからだ。
そして、その中には、少年にリンチを加えている少年たちの姿も写されていた。となると、少年の死には、その少年たちが関係してるのだろうか。
〈これは、えらいものを拾ってしまった!〉
 そう上山が思ったのも、もっともなことだ。
 つまり、上山は今、少年の事件を解決出来ると思われる証拠を手にしてるというわけなのだ!
 そう思うと、上山は改めて真剣な表情を浮かべた。そして、直ちにこのSDカードのことを警察に話さなければならないと思い、ソファから立ち上がろうとしたのだが、しかし、そんな上山の動きが止まった。というのは、上山はこの時、とんでもないことを思いついたからだ!
 そのとんでもないことというのは、つまり、「ゆすり」だ。あの少年をリンチにした少年たちをゆすっては、口止め料として、金をせしめることは出来ないかということなのだ。
 何しろ、上山は今、失業中であり、蓄えは徐々に減ってきている。それ故、この先、果たして食べていけるのか心配していたのだ。そんな矢先に遭遇したのが、この事件なのだ。
 そして、この事件は正に金になると、上山はぴんと来たのだ。
 そう思うと、上山はソファから立ち上がり、一旦部屋に戻った。そして、いかにして、犯人である少年たちからお金をゆすりとろうか、考えを巡らせたのだった。

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