3 ゆすり
その一時間後、上山はビューホテルのフロントマンに喜念浜海岸で見付かった少年のことを話題にし、その少年が通ってた中学がどの辺りにあるのか、まず訊いた。
すると、それは亀津にあるとのことだ。
上山としては、被害者の少年、つまり、玉城和則(17)をリンチにしていた少年たちを見付け出さなければならない。その少年たちが玉城和則を殺し、死体を海に遺棄したと上山は推理したのだ。もっとも、その少年をゆすっても金にはならない。それ故、ゆする相手は少年の親だ。リンチにしていた少年は三人だから、三人の親をゆすれるというわけだ。
しかし、その少年たちを見付け出すのはなかなか大変だ。何しろ、上山は徳之島に来たのは、今回が初めてだからだ。
それで、まずフロントマンの前田から話を聞いてみることにした。
「玉城君は、学友に虐められていたのではないですかね?」
上山は前田にさりげなく聞いた。
「さあ、どうでしょうね」
「玉城君は何故死んだのでしょうかね?」
「分からないですね」
「殺され、死体を海に流されたのでしょうかね?」
「分からないですね」
前田は、淡々とした口調で言った。
「徳之島の中学生は、子供同士に虐めがあるのですかね?」
「そりゃ、あるでしょうね」
「一体、誰が虐めたのでしょうかね?」
「さあ、分からないですね」
「では、この少年たちが誰だか、分からないですかね?」
上山は無謀な質問だとは思ったが、デジカメのディスプレイに玉城和則が他の少年に虐められてる場面が写ってる画像を表示させ、前田に見てもらった。もっとも、その画像は玉城和則の顔がはっきりと写ってなかったのだが。
前田はといえば、些か険しい表情を浮かべてはその三人の少年の画像を見やったが、やがてその画像から眼を逸らせ、
「知らない子たちですね」
と、眉を顰めた。
そう前田に言われると、上山は、
「そうですか……」
と、些か落胆したような表情を浮かべた。もし、このフロントマンが知っていれば、上山の作戦は早くも前進しただろうが、そうはいかなかったというわけだ。
そんな上山の様を眼にして、前田は、
「その少年たちがどうかしたのですかね?」
と、いかにも愛想よい表情と口調で言った。
すると、上山も愛想よい表情を浮かべては、
「いや、何でもないですよ」
そう上山が言うと、前田はそれ以上何も言おうとはしなかったが、やがて、上山は、
「この三人の少年のことを知ってる人はいないでしょうかね?」
「そうですねぇ。亀沖中学の学生かもしれないですから、亀沖中学の学生に聞いてみてはどうですかね」
「分かりました。で、亀沖中学とは、どの辺りにあるのですかね?」
そう上山が訊いたので、前田はそれを地図で示した。
そして、上山は前田の許から去ろうとしたのだが、そんな上山に前田は、
「でも、その写真を何処で写されたのですかね?」
「いや。実はですね。喜念浜海岸でSDカードの入った財布を拾ったのですよ。そのSDカードに写っていたのですよ」
「では、そのSDカードを警察に届けないのですかね?」
「何とも言えないですね」
そして、この辺で上山はロビーを後にし、部屋に戻った。
部屋に戻ると、上山はベッドの上に大の字になった。そして、溜息をついた。
というのも、偶然に喜念浜海岸で拾ったSDカードに写っていた写真の中に、殺人犯と思われる少年が写っていたので、その少年たちを見付け出し、その親に口止め料をゆすってやろうと目論んだものの、それはなかなかむずかしそうであったからだ。
それで、妙なことを考えるのは、もう止めようと思った。
そして、明日の午後五時の便で予定通り徳之島を後にすることにした。