1 死体発見

 高林修一(50)は今、古宇利大橋が見える展望台から、海を見やっていた。
 確かに、この辺りの海は綺麗だ。正に古宇利大橋下の海は沖縄らしい海の色で、沖縄本島随一の景観を見せていると高林は思った。しかし、十年前に来た時はもっと綺麗であったような記憶があった。
 しかし、実際は今も昔と同じ位の美しさなのかもしれなかった。
 何しろ、沖縄は戦後、本土並みのインフラを実現する為に開発が進み、その結果、赤土が海に流れ込んだりして、沖縄の海も、昔と比べれば、随分と汚れてしまった。
 だが、この古宇利島周辺の海はまだまだ綺麗というわけだ。 
 高林は大阪の人間だったので、大阪の海と比べれば、信じられない位の美しさを見せ付けている古宇利島周辺の海に、まだしばらく見入り続けていたのであった。
 それはともかく、高林は今朝、大阪から那覇空港に着いたばかりで、那覇空港でレンタカーを借り、沖縄自動車道で許田ICまで行き、それから屋我地島を経て、今、古宇利島の手前にいるという次第だった。そして、その後、古宇利島を一周して、古宇利オーシャンタワーを見物し、その後、ウッパマビーチを経て、国営沖縄記念公園の近くにあるホテルに宿泊する予定になっていた。
 それで、展望台で少し休憩した後、早速古宇利島一周を開始した。 
 とはいうものの、古宇利島に来るのは二回目であった。前回に沖縄旅行にした時にも、古宇利島を訪れていた。
 しかし、もう一度訪れたって構わないであろう。また、前回訪れた時は古宇利オーシャンタワーという観光施設はなかった。 
 それで、古宇利オーシャンタワーを見物し、それと共に、前回訪れなかった古宇利島の然程有名でないビーチであるティーヌ浜も訪れようとしたのだが……。
 すると、そこで誤算が発生してしまった。古宇利島のそのあまり有名でないティーヌ浜は、古宇利島一周道路を左折してすぐである筈だったのだが、その道が何と渋滞してるのだ。その小さなビーチへ向かう道が、何と次から次へと車で訪れようとする人がいる為に、前に進めないのだ。それで、高林は手頃な所でUターンしたのであった。
とはいうものの、古宇利オーシャンタワーは、訪れることが出来、古宇利大橋を始め、その周辺の美しい海を眼に出来、なかなかの眺めであり、また、電気自動車のようなものにも乗車出来、満足出来た。後は、ウッパマビーチを訪れるだけだ。
 ウッパマビーチとは、伊平屋島や伊是名島への連絡船が出る運天港の近くにあり、白砂のビーチが1キロ程続き、また、眼前には古宇利島を眼にすることが出来るといえども、沖縄では然程有名なビーチではない。それ故、初めて沖縄を訪れる人なら、まず訪れないビーチと思われた。
 しかし、高林が沖縄を訪れるのは二回目であるということから、今まで訪れたことのないウッパマビーチを訪れてみようということになったのだ。
 やがて、高林の運転する車は、ウッパマビーチに着いた。それで、車外に出ては、ウッパマビーチ見物をすることにした。 
 確かに、ウッパマビーチは長さが1キロだということで、ビーチは長いことは長いのだが、その反面、波打ち際までの距離がとても短かかった。その短さは、高林が訪れた沖縄のビーチでは髄一といっていい位のものであった。また、ウッパマビーチに沿って堤防が連なってるのも、ウッパマビーチの特色であった。
 それはともかく、高林は堤防から身を乗り出しては、ウッパマビーチを見やったのだが、今、この長いウッパマビーチには、まるで人は見られなかった。
 もっとも、今、四時半という時間もあるだろうが、それにしても、古宇利島の賑わい振りとは対照的であった。
 そう思いながら、高林はウッパマビーチに眼を走らせたのだが……。
 すると、高林は程なく眉を顰めた。何故なら、妙なものを眼にしてしまったからだ。
それは、人間だ。人間がウッパマビーチの白砂の上にうつ伏せになって倒れているのだ。その様は、正にその人間に一大事が起こった可能性が高い!
 そう看做した高林は、その人物をそのままにしておくには気が退けた。それで、とにかく堤防から砂浜の上に降り立っては、その男性の許に早足で近付き、声を掛けようとしたのだが、すると、その時、高林は、
「わっ!」
 と言っては、後退りした。何故なら、その五十位と思われる男性は、白眼をむいていたからだ。 
 それと、その男性が微動だにしないことから、既に男性の息はないものと、高林は看做した。 
 しかし、念の為に、高林は屈み込んでは、男性に、
「もしもし」 
 と、声を掛けてみた。だが、男性は何の反応も見せなかった。
 それで、高林は迷わずに携帯電話で直ちに110番通報したのであった。
高林からの通報を受け、辺りをパトカーでパトロールしていた糸数巡査が直ちに現場に向かった。そして、糸数がウッパマビーチに着いたのは、高林が110番通報して五分後のことであった。
 そして、糸数はその男性の許に来ると、男性に声を掛け、また、男性に触れてみた。そんな糸数の一挙手一投足を注視していた高林に、糸数は、
「やはり、既に仏さんになられてますね」
 と、渋面顔で言った。
 すると、高林は黙って肯いた。高林もそうだと思ったからだ。
 だが、糸数は念の為に瞳孔を見てみたが、やはり、男性の死は決定的であった。
 それで、糸数は高林が男性を発見した経緯を聞いた。それで、高林はそれを有りの儘話した。
 すると、糸数はそれを手帳にメモした。
 そして、高林の連絡先を聞くと、その時点で高林はやっとのことでウッパマビーチを後にすることが出来た。
 ウッパマビーチに足止めを喰らったのは、三十分程であった。だが、辺りはまだまだ明るく、ホテルに戻るのは容易いことであった。
 正に、今日という日は、高林にとって、一生経験しないような出来事に遭遇したと、高林はつくづく思ったのであった。

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