3 新たな捜査
そこで、正俊への捜査を進めつつ、別のケースでも捜査してみることにした。
即ち、正俊以外の者が犯人であるという可能性も捜査してみることになったのだ。
すると、興味ある情報を入手することが出来た。その情報を下地にもたらしたのは、帯広署の中野警部であった。中野は、電話ではあるが、下地に、
―姉崎さんが何故沖縄に行ったのかが、分かりましたよ。
と、些か弾んだような声で言った。
「ほう……。それは、どういった理由ですかね?」
下地は興味有りげに言った。
―僕が以前指摘したように、やはり、比嘉功治さんのことで、沖縄に行ったのですよ。
そう中野に言われると、下地は<やはり、そうか>と言っては、眼を光らせた。下地は当初より、姉崎の事件は比嘉功治の件が関係してると推理していたのだが、その推理はやはり当たっていたというわけだ。つまり、やはり、比嘉正俊が関係してる可能性が高いというわけだ! <あの野郎め!>と、下地は心の中で、下地の推理を露骨に否定した比嘉正俊に、罵りの言葉を浴びせた。
「でも、どうしてそのようなことが分かったのですかね?」
と、いかにも興味有りげに言った。
―姉崎さんの友人が見付かったのですよ。つまり、姉崎さんや比嘉さんと共に一緒に道路工事をし、飯場に寝泊りしていた人物です。井口勘蔵という人物ですがね。
で、その井口さんが言うのは、姉崎さんは、比嘉さんの遺族から詰め寄られていたそうです。つまり、姉崎さんが比嘉功治さんを殺した証拠を持っている。それを警察に話されたくなければ、五百万を寄越せという具合にね。それで、姉崎さんは姉崎さんをゆすっていたその相手と話をする為に沖縄に行ったらしいのですよ。
と、中野は正に淡々とした口調で言った。
「その話は信頼出来るものなのですかね?」
―井口さんの表情とか口調はとても真剣なものでしたからね。ですから、信頼出来ると僕は思ったのですよ。もっとも、断言は出来ないですがね。
「では、その井口さんとは、今、何をしてる人なんですかね?」
―今は何もしてないですよ。
でも、そう証言したからといって、井口さんが何か利益を得られるわけではないですからね。ですから、その件に関して、捜査をしてみてはどうですかね。
「分かりました。で、その姉崎さんをゆすっていた人物の姓名は分かりますかね?」
―それが、そこまでは分からないのですよ。でも、比嘉さんの遺族であることには間違いありませんよ。
「では、比嘉さんの遺族が比嘉さんをゆすってた証拠というものはないのでしょうかね?」
―さあ、そこまでは。
と、中野は言葉を濁した。
「申し訳ありませんが、姉崎さんの家を捜査してもらえないですかね。そして、そのような証拠がないか、調べてもらえないですかね」
―分かりましたよ。
ということになり、中野は亡き姉崎宅を調べてみたのだが、しかし、そのような証拠は見付からなかったのだった。
帯広署の中野警部からの情報によると、比嘉が沖縄に来た理由は、姉崎が比嘉功治の遺族にゆすられてた為らしいのだが、では、その遺族が誰なのかはまだ分かっていなかった。
比嘉功治の遺族の一人である比嘉正俊は、既に捜査をした。
その結果、姉崎の死亡推定時刻に、正俊が港の防波堤で釣りをしていたことは、裏は取れなかった。それ故、正俊のアリバイは曖昧といえるのだが、これらのことでは、逮捕は出来ない。
それで、再び比嘉は比嘉正俊と会って、話をしてみることにした。