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中田宅の近所の住人に対して聞き込みを行なってみたところ、中田は大の犬嫌いで、また、近所の住人の飼い犬にクレームをつけるので、近所の住人たちに大層嫌われてた人間であることが分かった。
となると、中田を殺したのは、中田宅の近所の住人なのか? 今の時世、飼い犬を家族同然に可愛がってる人間は、いくらでもいる。それ故、その復讐として、中田は中田が殺した犬の飼い主に殺されたという可能性が有り得ないわけではないだろう。
とはいうものの、その動機は脆弱なものと言わざるを得ないだろう。
そう中垣が思っていた矢先に、興味ある情報が警察に寄せられた。
その情報を警察に寄せたのは、別府市に住んでいた長谷川昇という四十歳の男性であった。
長谷川は、
―十月十五日に、久住高原ロードパークの展望台で死体で見付かった男性の件で、興味ある情報があるのですよ。
と、いかにも耳寄りの情報があると言わんばかりに言った。
それで、中垣は、
「それ、どんなものですかね?」
と、興味有りげな表情で言った。
すると、長谷川は中田の死体が発見される一週間前の出来事、即ち、長者原で起こった件の事件のことを話した。
その話に些か興味有りげな表情を浮かべながら、耳にしていた中垣は、
「その犬を殺した男性というのが、中田耕平さんであるということは、間違いないのですかね?」
と言っては、中垣は眉を顰めた。
―間違ないですよ。
長谷川はきっぱりとした口調で言った。
「何故、そう言えるのですかね?」
中垣は興味有りげに言った。
―顔写真を見て、僕が眼にした男性であると思ったのですよ。
で、それ以外としても、僕はその男性の車のナンバーを控えたのですよ。で、そのナンバーを調べてみたところ、やはり、僕の眼は見間違えではなかったです。やはり、その車の主は、中田耕平さんだったというわけですよ。
と、長谷川はいかにも力強い口調で言った。
「なるほど。そういうわけですか」
と、中垣は長谷川の抜けめない行動に、些か感心したかのように言った。
そんな中垣に、長谷川は、
―で、僕は中田さんに愛犬を殺された男性の姓名も、同じようにして突き止めたのですよ。つまり、その男性の車のナンバーをメモし、調べたというわけですよ。
と、再びいかにも力強い口調で言った。
「なるほど。で、その男性の姓名は、何というものでしたかね?」
と、中垣はとにかくそう言った。
―それは、葛西治といいました。
「葛西治さんですか」
そう中垣は呟くように言ったものの、果してその葛西治なる男性が、中田の事件に関係してるかどうかは何ともいえなかった。
とはいうものの、前述したように、犬のことを今や家族同様の扱いをする者は、今の時世、いくらでもいる。それ故、愛犬を殺害された復讐で、中田を殺したという可能性は有り得るだろう。
そう思った中垣は、その思いを長谷川に話してみた。
すると、長谷川は、
―そうなんですよ。僕もそう思ってるのですよ。
と、何と物分りのよい刑事だと言わんばかりに言った。
そんな長谷川に中垣は、
「でも、長谷川さんはその葛西治という人物が、中田さんを殺したという具体的な証拠を持ってるわけではないのですよね?」
―そりゃ、そうですが……。
と、長谷川は一転、些か力無い声で言った。
とはいうものの、中垣は長谷川から入手した情報に基づき、葛西治という男性のことを捜査してみることにした。