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 葛西は宮崎市内に住んでいた。そんな葛西は、中田と同様、一人暮らしであった。
 そんな葛西は、中垣の来訪に些か驚いたような様を見せた。
 だが、中垣が丁寧に来訪の旨を説明すると、葛西は、
「そのことですか……」
 と、眉を顰めては、淡々とした口調で言った。
 それで、中垣も眉を顰めては、
「葛西さんは、愛犬をそのような目に遭わされ、さぞ憤りを感じたのではないですかね」
 と、葛西をまじまじと見やっては、言った。
「そりゃ、感じましたよ。正に、ぶっ殺してやりたい位ですよ。
 でも、そうだからといって、殺しはしませんよ。心の中でどう思うのかは勝手ですが、その思いを一々実行してしまえば、犯罪者になってしまいますからね」
 と葛西は言っては、苦笑した。
「でも、その中田さんのことを警察に訴えることは可能だと思うのですがね。でも、葛西さんは、そうでもなかったようで」
 と、中垣は怪訝そうな表情を浮かべては言った。
 すると、葛西は、
「そんなことはないのですよ。僕は中田のことを訴えたかったですよ。
 しかし、中田が何処の誰なのかは、まるで分からないのですよ。刑事さんから今、説明されて、初めて中田耕平という姓名だということを知ったのですよ」
 と、憮然とした表情で言った。
 すると、中垣は葛西が中田の車のナンバーをメモしたのではないかと言った。
 すると、葛西は、
「それがですね。僕はそのメモをあっさりと無くしてしまったのですよ」
 と、いかにも決まり悪そうに言った。
 そんな葛西に、中垣はとにかく、中田の死亡推定時刻のアリバイを確認してみた。 
 すると、葛西は、
「その頃、この家で、音楽を聞いていましたよ」
 であった。
 葛西治のアリバイは、正に曖昧だといえよう。
 しかし、そうだからといって、葛西治が中田を殺したと決めつけることが出来ないのは、言うまでもないだろう。
 さて、困った。犬に強い恨みを持っている中田耕平が何者かに殺され、その遺体が久住高原ロードパークの展望台に遺棄されたことは間違いない。
 しかし、誰が殺したのかは、まだまるで闇の中だ。果して、この事件は解決出来るのだろうか? その思いが中垣の脳裏を過ぎっても、それは何ら不思議ではないだろう。

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