中垣が今まで中田の事件の捜査に携わった結果、この事件はかなり難解で、すぐには解決しそうもないという感触を抱いた。
 そんな折に、妙な事実が判明した。というのは、中田が愛用していたミニバイクが、最近、修理が行なわれていたことが、明らかになったのだ。
 そのミニバイクは、まるで事故を起こしたかのような損壊を被ったと思われる位の修理の痕跡を捜査員が確認したのだ。
 また、中田宅の前にある小道で、そのミニバイクの塗膜片とか、ミラーのガラス片の痕跡も発見された。このことから、中田は最近になって、中田宅前にある小道で、ミニバイクに乗ってる時に、何らかの事故に遭った可能性は有り得るというものだろう。
 だが、今の時点では、そのような情報は入手出来てなかった。
 それで、中垣たち捜査陣は、そのミニバイクが何処で修理されたのか、それを調べてみることにした。
 すると、中田宅がある熊本市内ではないようだった。熊本市内のバイク修理店を虱潰しに調べてみたのだが、その店を、見付け出すことは出来なかったのだ。
 だが、その事実に中垣たち捜査陣は、何か胡散臭いものを感じた。
それで、更に捜査範囲を拡げ、中田のミニバイクを修理した店を捜し出してみることにした。 
 すると、やっとのことで、その店を突きとめることが出来た。 
そして、その店は、何と鹿児島市内にある内田モータースという店だったのだ。しかも、修理に出されたのが、中田の死亡推定時刻の二日後、即ち、十一月十六日であったということも看過出来ない。即ち、中田が死亡した二日後に修理に出されたということは、中田を殺した犯人が修理に出したということを意味してるのだ!
 それで、中垣は早速、鹿児島の内田モータースに行っては、話を聞いてみることにした。
 五十歳の半ば位と思われる内田は、中垣の話に耳を傾けていたが、中垣の話が一通り終わると、
「どうも妙ですね」
 と、怪訝そうな表情を浮かべては、首を傾げた。
「妙? 何が妙なのですかね?」
 中垣はいかにも興味有りげに言った。
「つまり、そのミニバイクを修理に出した方は、その中田耕平という方ではなかったと思うのですよ」 
と、内田はいかにも怪訝そうな表情を浮かべては言った。そんな内田は、正にそのようなことは有り得るのかと、言わんばかりであった。
 すると、中垣も内田と同じような表情を浮かべた。そんな中垣の思いも、内田と同じようなものであった。
 それで、中垣は、
「では、その人物は、この方ではなかったのですかね?」 
と、生前の中田の写真を見せては言った。
 内田はその写真をまじまじと見やっていたが、やがて、
「違いますね。そのバイクを修理に出された方は、絶対にその方とは違いますよ」
 と、いかにも自信有りげに言った。
 すると、中垣の言葉は詰まった。これは何かあると、察知したからだ。また、そのことは、中田の事件に大いに関係してるかもしれない。中垣がそう思ったのは、当然のことといえるだろう。
「では、その男性は何という方だったのですかね?」
 中垣は興味有りげに言った。
そう中垣に言われると、内田は、
「ちょっと待ってくださいね」 
 と言っては、席を外し、やがて、中垣の許に戻って来ると、
「その方は、白河勝則という方ですしたね」
「白河勝則さんですか。それ、どんな方でしたかね?」
 中垣はいかにも興味有りげに言った。
「そうですねぇ。四十位の方でしたかねぇ」
 と、内田は白河勝則という男性のことを思い出しながら言った。
「住所とか電話番号なんかは、分かりますよね?」
「そりゃ、分かりますよ」
 と言っては、内田は白河勝則の注文書に眼を向け、
「住所は、鹿児島市内ですね」
 そう言われたので、中垣はとにかく、その連絡先をメモした。そして、
「で、そのミニバイクは、ナンバーが熊本ですよね。その点に関して、内田さんは白河勝則さんに言及しましたかね?」
「いいえ。しませんでしたね。熊本だけでなく、本州ナンバーのバイクの修理もしたことがありますからね。ですから、そのケースは、別に珍しくもないですからね」
 と、淡々とした口調で言った。
「では、白河さんは、どういった事故を起こしたのか、説明しましたかね?」
「しましたよ。何でも、転倒したんだと言ってましたね」
「転倒ですか。で、白河さんは怪我をされたのでしょうかね?」
「いいえ。そのようなことは、言ってなかったですね」
「そうですか」
 と言っては、中垣はこの時点で、そのミニバイクが、白河勝則という男性の所有物ではなく、中田の所有物であったことに言及した。
 すると、内田は、
「へぇ!」
 と、いかにも驚いたように言った。
 それで、中垣は、
「そのことをご存知ではなかったのですかね?」
 と、眉を顰めては言った。
「ええ。今、初めて知りましたよ」
 と、内田はいかにも驚いたように言った。
「その点に関して、白河さんは、何か言及してなかったですかね?」
 と中垣は言っては、眼を鋭く光らせた。
 だが、内田は、
「そのようなことは、何ら言及してなかったですね」
 と、淡々とした口調で言った。
 そして、中垣はこの辺で、内田への聞き込みを終え、次に白河勝則という男性に会って話を聞いてみることにした。白河が中田の事件で何らかの情報を持ってることは、確実であろう。

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