2

「和郎、外を見てみな」
 和郎は眼が覚め、上半身を起こすと、傍らにいた良子にそう言われた。
 それで、和郎はカーテンを開け、窓越しに外を見やった。
 すると、辺り一面は、雪景色だった。
「今年は雪が降るのが早いみたいね」
 まだ、十一月の二十日を過ぎたばかりであった。
 例年だと、十二月に入らないと、雪は降らないのに、今年はもう雪が積もったのだ。
「うん……」
 和郎は改めて雪を見やった。
 雪は、この地方の主役みたいなものだった。春は雪解けの音が聞こえ、夏には遠くに霞む秀峰の頂は雪化粧が見られ、秋は木枯らしが吹くようになると、それはもう雪の前奏曲みたいなものであった。
 春であろうと、夏であろうと、秋であろうと、この地方には、雪が人々から消え去ることはないのである。
 だが、和郎は地面に積もった雪を見ると、また、寂しくて辛い季節がやって来たものだと、改めて思った。
 平野一家が、新潟に引っ越して、一年が経とうとしていた。
 だが、平野家の暮らしは、一向によくはならなかった。
 それ故、和郎は雪を見ると、一年前に新潟に来た時のことを思い出すのだ。平野家が一年前に新潟に来た時も、今日のように、雪がしんしんと降っていたのだ。
 和郎は布団を押入れの中に仕舞った。
 すると、その時、台所から、味噌汁の匂いが鼻をついた。
「早く朝ご飯食べてよ。そうしないと、学校に遅れちゃうよ。今日は雪が積もってるから、早目に家を出ないといけないよ」
 和郎が通っている小山田中学校は、アパートから自転車で二十分程の所にあった。だが、今日は三十分位見ておいた方が無難だろう。
 和郎は六畳の和室のテーブルの上に置かれた味噌汁とご飯を口の
中に掻き込むようにして食べると、早々と着替えを済ませ、
「行って来まーす!」
 と、良子に言った。
「気をつけてね」
 和郎は雪道は苦手だった。自転車が滑るからだ。
 そして、後一ヶ月もすれば、バスを利用しなければならないだろう。後一ヶ月もすれば、自転車で通えない位、雪が積もってしまうからだ。


目次     次に進む