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文化祭の準備といえども、後、残ってることいえば、たこ焼きとかポップコーンの材料を買うこととか、教室を文化祭に備えて、改装すること位なものであった。
しかし、材料は前日に買うことが決まっていたし、教室の改装は、前日の授業が終わってからと決まっていた。
それ故、今の時点では、もはや、やるべき準備は終わったといってもよいだろう。
和郎は副実行委員長として、資金集めを任せられていた。
材料を買う為には、お金が必要だ。
そのお金は、クラスの生徒たちから集めることになっていた。一人あたり、千円、集めることになっていたのだ。
千円というお金は、中学生にとってみれば、決して安くない金額であった。
生徒の中には、不満を漏らすも者もいた。
和郎だって、そうであった。
平野家の暮らしは、一向によくならなかった。
それ故、千円というお金は、平野家にとってみれば、とても大切なお金だったのだ。
だが、学校は和郎にとって、とても愉しい場所であった。酒臭い臭いを漂わせた大造のことを忘れさせてくれる場所であった。狭くて薄汚れた襤褸アパートでの暮らしを忘れさせてくれる場所であった。
そして、何よりも仲の良い友達と一緒にいられることが、和郎にとって学校を愉しくさせる大きな要因となっていたのだ。
和郎は既にクラスの皆から、お金を集め終わっていた。
そして、それを大判の封筒に入れ、和郎のロッカーの中に仕舞ってあったのだ。
それはともかく、和郎は直子に「文化祭の準備はうまく行ってる?」と訊かれ、ロッカーの中に入れてあるお金のことを思い出した。
〈お金は大丈夫だろうか?〉という具合に。
しかし、和郎はすぐに笑顔を浮かべた。何故なら、お金はきちんと鍵を掛けたロッカーの中に入れてあるのだから、大丈夫でないわけがないのだ。
しかし、和郎は今、ロッカーの中を確認したいという衝動にに掻き立てられた。後、少しで昼休みも終わろうとしている。それ故、昼休みが終わる前に、確認してみようと和郎は思ったのだ。
それで、教室の後ろにあるロッカーに向かい、鍵を開けたのだが、そんな和郎はなかなかロッカーの前から去ろうとはしない。後、二分で昼休みは終わりだというのに……
それで、晴夫は思わず席を立ち、和郎の許にやって来ては、
「どうかしたのかい?」
と、和郎に言った。
すると、和郎はぎこちない笑みを浮かべては、
「何でもないさ」
しかし、その和郎の笑みは、何となく不自然だった。また、和郎の顔は青ざめているかのようであった。
それで、晴夫は、
「本当に何でもないのかい?」
「ああ。何でもないさ」
その狼狽してる和郎と、心配そうな晴夫の様を薄笑いを浮かべながら眼にしている者がいた。
それは、北野太郎と、中村五郎だ。
五郎は太郎のよき相棒であった。
やがて、午後の授業を始めるチャイムが鳴った。
そして、先生が教室に入って来て、授業が始まった。授業は数学の授業であった。